嫌われ王子は壊れた愛を受けて花ひらく

ひよこ麺

文字の大きさ
上 下
32 / 73

32.この国の外とありえない夢物語と

しおりを挟む
「駄目です」

僕の言葉に真っ先に反応したのは想像通り、レフだった。護衛という立場からレフは絶対に僕の側を離れるようなことはないし、離れて欲しいと言っても難しいことは分かっていた。

しかし、レオンとふたりで話したい内容がある。正確には確認しなければいけないことがあった。

「レフ、5分でいい。彼と話しをさせてほしい」

「それなら俺も同席します、彼は確かに今のところ善人のように見えますが……」

「心配しなくても、俺の好みは艶っぽい姉さんだ。第1王子殿下には興味はねぇ」

そう言ってニィっと笑うレオンに僕は安心感があるのだが、レフは違う。いや、レオンでなくてもレフは警戒するだろうが……。

「ルティア殿下は色っぽいし艶っぽい。だからそこが好みなら危ない」

「言い方を変えると年下に興味がねぇから安心しろ」

呆れたようにジトっとした目でレフを見ているレオン。ふたりのやりとりが何故か急におかしいと感じて思わず声を立てて笑ってしまった。

「ははっ」

「殿下……」

レフが何故か物凄く切ない顔でこちらを見ているが、一度出てしまった笑いは止まらない。

「ははははっ。ああ、おかしい」

こんなに笑ったのはいつぶりだろうか。そこまで考えた時、そう言えば離宮ではほとんど気を抜けなかったことを思い出した。

イクリスが居る時はあるていどは感情は覆い隠さないでいたけれど、それ以外は常に緊張感を持っていた。いや、イクリスとの間でさえもここ数年は感情をそのまま伝えることはできなくなっていた。

だから、もう数年はずっと笑っていなかった。

泣くことも笑うことも出来ず、ただ不機嫌な顔をしていた自身を思い返す。それに比べてヴィンターのコロコロと変わる表情がイクリスには愛おしかったのかもしれない。

折角、明るくなった気持ちが落ちかけたが、今はレフを説得する必要がある。

「お願いだ。少しだけでいい」

「わかりました。ただ、レオン。君の身体検査をさせてくれ。それで危険物や問題のあるものがなければ、俺が扉の前に待機してた状態で3分間だけなら許しましょう」

「ありがとう、それで問題ないかレオン??」

「ああ。どちらにしろ俺に拒否権はねぇだろう」

そう答えたレオンの身体を検査してから何度も名残惜しそうにしながらレフは部屋を出て行った。レフの姿が完全に見えなくなると同時に僕は口火を切る。

「時間がないので、単刀直入に聞く。レオン、貴方はどこからきた??」

僕の言葉にレオンは驚いた様子もなくこちらをジッと眺めている。

初めて見た時からずっと違和感を感じていた。少なくともこの国には褐色の肌の人はいない。つまり彼は僕が知らない場所から来た人、リエース王国の外から来た人である可能性があった。

その場合、この国を囲う『暗黒の森』を出る方法を彼なら知っている可能性があると思ったのだ。

(もしも『狂った竜王』を倒すことができて『暗黒の森』の外に別の国があるのならば僕は……)

その言葉にレオンは思案するように黄金の瞳を細めてから答えた。

「なるほど。まぁ俺の肌の色を見れば純粋にこの国の人間でないことは分かるな。ただ、その質問に俺は答えられない」

あっさりと答えたレオンに思わず問い返す。

「……なぜ??隠し通す必要があるということか」

「いいや、俺は単純に自分が何者か知らない。俺の母は父、前の領主により外から呼び出された存在だった。だから母のバステトならあんたが聞きたいことを話せたとは思うがすでに故人で俺は何も聞いていない」

レオンはまっすぐに僕を見つめて言った。その後で少し冗談っぽくこう続けた。

「もし、それを知っていたら今の状況ならあんたに簡単に話さないで交渉材料にでもしただろうよ」

「……交渉材料にする必要がないという可能性もなくはない。けれど……」

僕はレオンの瞳の奧にある、死を覚悟したものだけがまとう眼差しを感じていた。その眼差しをそうでない人間ができるはずはない。

だとすれば、レオンは嘘をついていないことになる。

「まぁ、今日はじめた会った相手のことなんて信用できないのは当然。でも、勝手に思っていることだけれど、もしもお前と学園で出会っていたら、級友だったら少し違かったかもな」

レオンの言葉に思わず苦い笑みになってしまう。学園、この王国の貴族の子息が通うそこに僕は通うことを許されなかった。同世代の人間と触れ合うことは婚約者のイクリスか護衛騎士のレフ以外許されなかった。

けれど、もし学園にヴィンターのように通えたならばレオンとも出会えたかもしれない。

(全てはただのなかった可能性だ。今それらを悔いてもなにも始まらない……けれど)

少なくとも、もし違う状況でレオンと出会ったら僕はレオンと友達になりたかった。彼なら深刻に考えすぎてしまった時には笑い飛ばしてくれて、悩んだ時も的確なアドバイスをくれるような気がした。

「……レオン、これは本当にただの夢物語だけれど、もしレオンが僕と学園で出会ったら友達になってくれたか??」

真っすぐにレオンを見つめた。何故か全く関係ないのにそんなことが聞きたくなった。

「……それは」
しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する

知世
BL
大輝は悩んでいた。 完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。 自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは? 自分は聖の邪魔なのでは? ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。 幼なじみ離れをしよう、と。 一方で、聖もまた、悩んでいた。 彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。 自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。 心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。 大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。 だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。 それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。 小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました) 受けと攻め、交互に視点が変わります。 受けは現在、攻めは過去から現在の話です。 拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。 宜しくお願い致します。

なんでも諦めてきた俺だけどヤンデレな彼が貴族の男娼になるなんて黙っていられない

迷路を跳ぶ狐
BL
 自己中な無表情と言われて、恋人と別れたクレッジは冒険者としてぼんやりした毎日を送っていた。  恋愛なんて辛いこと、もうしたくなかった。大体のことはなんでも諦めてのんびりした毎日を送っていたのに、また好きな人ができてしまう。  しかし、告白しようと思っていた大事な日に、知り合いの貴族から、その人が男娼になることを聞いたクレッジは、そんなの黙って見ていられないと止めに急ぐが、好きな人はなんだか様子がおかしくて……。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話

バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】 世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。 これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。 無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。 不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!

処理中です...