嫌われ王子は壊れた愛を受けて花ひらく

ひよこ麺

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24.追いかけるモノ(イクリス視点)

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(まだ、間に合うはずだ)

「イクリス、道がボコボコで気持ち悪い」

甘えるように私にしなだれかかるその人は薔薇色の頬をしている。

その愛らしい容姿と可愛く素直な性格を確かに愛していたはずだ。

それなのに……

(何故、今はこんなに落ち着かないのだろう……)

記憶を呼び覚ませば、私の人生の大半はにささげられてきた。

物心つくより前に結ばれていた婚約を私は快くは思って居なかった。

祖父も父も先王の忠臣のひとりとして名を挙げたこともあり、を次期国王にすべきと考えていた。

そのためにも、正妃様の生家の公爵家なき後の殿下の後ろ盾に名乗り出た。

結果、まだ幼かったが伴侶になる資格があっだ私はの婚約者になった。

ほんの幼子の時は、その白い頬が、美しい銀髪にサファイアのような澄んだ蒼い瞳が可愛いと思っていた。

婚約者という立場から常にの側に居た。

「おにぃたん」

そう私を呼んでついてくる姿は愛くるしく庇護欲を掻き立てた。

(守らないと……)

純粋な気持ちはある日を境に変化した。

は自室から庭を眺めるようになり、そこから何故か気難しいところが出てきた。

以前は、私の前では笑っていた顔はいつも冷たい無表情になるようになっていった。

それでも、守るべき相手と考えていたが、ある日完全にそれは壊れた。

その日は、と約束をしていた。しかし、急な呼び出しがあり行くことができなくなってしまった。

すぐに、謝罪に行った。

しかし、は怒り狂って近くの物を私に投げつけて叫んだ。

「許さない!!僕との約束を破るなんて!!先に約束したのは僕だったじゃないか!!」

真っ赤な顔をして私の話を全く聞かないその姿に嫌気がさしたのだ。

以降は距離を少し置くようになった。

しかし、それを実家はよしとはせずに無理やり離宮に住まわせた。

私はなるべくと顔を合わせないように王宮の庭園でこっそり過ごすようにしていた。

は王宮へは来られないのは有名な話だったから。

そうして、ある日、その場でヴィンター様と側妃様と出会った。

最初はまずいと思った。逃げねばと、しかし、側妃様は優しく私に手を差し伸べた。

「ここで過ごして構わないわ。癇癪持ちでワガママな子がいる離宮は息が詰まるでしょう??良かったら気晴らしにヴィンターと遊んであげてくれる」

その言葉は私から使命という自縛から解き放ってくれた。

と違いヴィンター様は可愛く素直な方だった。

その愛らしさに、失った庇護欲は呼び覚まされていつしかそれは恋に変わっていった。

しかも離宮では話せない、への不満も王宮では当たり前のように口にすることができた。

そこで、今まで守るべきとされたは不義の汚らわしい子であり、だからこそ国王陛下に嫌われて離宮に居るという真実を知った。

それからはかの人を支持する実家とも疎遠になった。

送られてくる手紙も全て燃やした。

そんな日々を過ごしていたある日、側妃様が僕にヴィンター様の婚約者になってほしいとおっしゃられた。

正直な話、迷いはあった。

その縁談を受けることは完全に実家との縁が切れるということだったから。

けれど、ずっと疎遠の実家より私は私が大切に想う人の婚約者になりたかったので、了承した。

それと同時に煩わしいの縁も切れる。

側妃様の采配で婚約は解消された。

婚約の解消をに伝えに行くのはすごく憂鬱だったが、意外にもいつものようにヒステリーは起こさなかった。

淡々とした表情で話を聞いた後にただ一言は言った。

「イクリス、お前もヴィンターを選ぶんだな」

そして、いつものような感情の吐露はなくただ一筋の涙だけを溢した。

いつものようにヒステリックに叫ぶならば何も後悔しなかったと思う。

けれど、煩わしい縁が消えた日、はじめて不安になった。まるで何か過ちを犯したような気持ちだった。

その不安は現実になった。

まずは、予想通り実家から絶縁された。しかし、私はすでにヴィンター様の近衛騎士で爵位を持っていたので貴族のままだった。

だからそれについては気にしていなかったが、去り際に侯爵家を継ぐ兄が言った言葉が妙に頭に残った。

「お前が不憫に思うことはあった。けれど、お前は頼るべき実家を自らの意思で拒否した。そして、お前しか頼るものがなく救いを求めていたルティア殿下を突き放したんだ。知っているか??ルティア殿下はお前にしか
ワガママは言わなかったんだ」

頭を石で殴られたような気がした。

はワガママで誰にでも傲慢だと王宮では当たり前に話されていた。

だから誰にでもそうだと思っていた、それなのに……。
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