嫌われ王子は壊れた愛を受けて花ひらく

ひよこ麺

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21.迫る『竜鳴き』とはじめての指切り

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レフが扉を開くとそこには見たことのない男が立っていた。彼はこの国によくあるブラウンの髪に、鳶色の瞳をした特に特徴はない青年だが、その表情は酷く焦っているようだった。

距離が離れているせいで会話の内容は聞こえないがどうやら、城を出た際についてきた従者のひとりだったらしく、彼の言葉を聞いたレフの表情はとても険しいものとなった。

それから、彼が礼をして立ち去るとすぐレフは僕の元へ戻ってきた。

「彼は従者か??」

「はい。そして、殿下申し訳ございませんが至急この街を出る必要が出てしまいました」

あまりのことに驚いて言葉が出ない。昨日は少しこの街にゆっくり滞在する予定だったはずが、それを覆さないといけない何かがあったということだろう。

「一体、何があった??貴族派か??」
僕の頭の中に浮かんだのは、僕らに敵対する派閥の貴族がなんらかの行動を起こしたというものだった。しかし、レフは首を横に振る。

「奴らはほとんど王都に捉えております。元々側妃の派閥であったのでほとんどが宮廷貴族で地方に居を構えるものは少ないのです。むしろ地方は辺境伯家の同胞がほとんどですから」

「なら一体何があった??」

「……が来そうなのです」

『竜鳴き』とはこの寒い国では割と起こる気象現象であり、大雪が降りつづけて吹雪くような天候を言う。吹きすさぶ風の音がまるで『暗黒の森』の竜王が鳴き狂っているように聞こえるためにそう名付けられたと言われている。

そんな悪天候になるならば本来ならば大人しくしているべきだが、『成人の儀』を行うためのタイムリミットがあるため嫌でも『竜鳴き』が来る前には『暗黒の森』までつかないといけない。

「そう言うことなら、急がないといけないな……鳩見たかったな」

言うつもりはなかった。今までならそんな言葉を口に出すことはなかったのだけれどうっかりと本音を漏らしてしまった。

その言葉に、レフが悲し気に表情を歪めてから急に僕の髪を撫でた。

「『成人の儀』が終わったら、ふたりで鳩だけではなく沢山の鳥を見に行きましょう」

「……うん」

「殿下……そうだ、指切りをしましょう」

そう言ってレフが指を差し出したが意味が分からず首を傾げた。指切りという響きがなんだが恐ろしい気がしたしレフなので何かとんでもない提案をする可能性も否めなかった。

「指切りとはなんだ??」

警戒するように答えると、レフの顔が先ほど以上に悲しんでいるように変化して、それから何故か泣きそうになっていることに気付いた。

「レフ??」

(もしかして、指切りというものは拒否されると辛いものなのだろうか)

そう思い至り、急いでフォローするように言葉を続けた。

「その、よくは分からないけれど拒否したわけじゃない。ただ、本当に指切りが何か分からないんだ」

必死に言い募った、しかし、レフはとうとう顔を大きな手で覆って泣いてしまった。

「れ、レフ、その、泣かないでほしい。泣き止ませる方法がわからない」

しばらく、「不憫だ」とか呟いてフリーズしたレフを眺めていたが、やっと顔を上げるといつもの獰猛な目ではなく、まるで小さな子供を見るような優しい目をしたレフが指切りの説明を始めた。

「すみません。殿下、指切りは約束をするときにする一種のおまじないのようなものなんです。それは多くの国民にも貴族にも浸透していて、小さな子供からお年寄りまでよくするものなのです」

「……つまり、契約の儀式ということか??」

「はい。もう少しラフですがそういうものです」

レフはそう言いながら指切りの仕方も説明してくれた。その説明を聞きながら、そう言えば小さな頃、庭園にいた国王陛下とヴィンターがそういう動きをしていたのを思い出して、その話をしたらレフが物凄い優しく髪の毛や頭を撫でてまた泣いていた。

「俺が殿下が子供時代に出来なかった思い出をひとつずつ埋めていってあげますからね」

「……ありがとう。で、はじめての指切りは何を約束するんだ??」

ウキウキした気持ちでそう聞くとレフはニコリといつもの笑みを浮かべてから答えた。

「殿下ができなかった体験を『成人の儀』が終わったらふたりですると約束しましょう」

それに頷いて、小指と小指を絡める。

「指切拳万、嘘ついたら針千本呑ます、ゆびきった」

レフが言った言葉に目を丸くする。その内容が契約に対して怖くて思わず泣きそうになる。

「そんな、怖い契約を簡単にしていいのだろうか??」

「あ、これはおまじないの呪文みたいなものなので……殿下、俺は殿下そんな残酷なことできません」

しれっと僕以外にはそれも出来そうな発言はとりあえず無視して、名残惜しい気持ちになりながらもホテルを後にすることにした。
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