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18.ある使用人の証言02(モブ視点)
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その日は突然やってきた。ある朝、目が覚めた時突然すべての取り巻く環境が変わってしまったのだ。
全てのはじまりは正妃様が亡くなり、辺境伯様を中心とした武闘派の騎士達が王宮を制圧したのだ。それにより今まで王宮で幅を利かせていた、貴族派の貴族やそれに付き従ってた使用人は捕らえられてしまった。
それは側妃様も例外ではなく、現在正妃様が療養していたとされる塔の中に閉じ込められている。
しかし、意外にも第2王子殿下とその婚約者になったイクリス様は姿を消していた。正直ふたりともあんまり世間ずれしているのでそのまま側妃様のようにあっさり捕まるかと思っていたが違ったらしい。
(確かイクリス様は、一応辺境伯様側の生家は派閥だったよな……)
ただ、離宮で親しくなったヤツの話ではイクリス様自身はご実家の意向に逆らって貴族派とばかり付き合っていたようなので第1王子殿下との婚約を解消した時点で既に見放されているのではという話だったけれど。
そんな混乱の中、俺は辛うじて自由だった。人生が暗転したと思っていた離宮への左遷のおかげで生き延びられるとは考えてもいなかったが、これについては本当に運が良かった。
離宮に集められていた使用人は辺境伯家により選ばれて第1王子殿下の周りに付けられていたという事実を先ほど説明された。
そのおかげで俺は捕らえられることもなく、現在は辺境伯家から来た騎士達の手伝いをしていた。
「しかし、やっと悲願が叶ったな」
「ああ、そもそもジラント公爵様亡き後も我々が反旗を翻さないで耐えていたのは全てアリア妃様のため、そして、その御子であり正当なる王位継承権の持ち主であるルティア殿下のためだったからな」
「それなのに国王陛下がルティア殿下にあのようなことを言うなんて、女神のように慈悲深いアリア妃様とてお許しにならなかったし、辺境伯閣下もついにご決断なされたのだ」
彼等の会話を聞いて、今まで王宮で聞いていた話と全く違うことに驚いていた。
王宮では、側妃様こそが唯一の王妃であり、正妃様は不貞を働いて第1王子殿下を産んだので幽閉されている。この国を継ぐのは愛されている国王陛下の実子である第2王子殿下だというのが当たり前のように公然と言われていた。
しかし、離宮ではその噂を囁くものはいない。むしろそんなことを言った場合は、最悪レフ様に何をされるか分かったものではなかったので俺自身もあの日以来はあまり詮索をしないようにしていた。
「おい、お前」
静かに騎士達の側で作業をしている俺に、ひとりの騎士が声を掛けた。その服装から辺境伯領の騎士だとひと目でわかる屈強な男だった。
「はい、何か御用でございますか??」
俺は所詮、使用人である。例え前世の記憶があってもこの世界で今のところ役に立っていないし、もっと言えば間違いなくモブキャラなのでなるべくは変なことには巻き込まれたくない。
そう強く願っていた俺に、その騎士はとんでもないことを言い出した。
「お前、馬車の運転は出来るか??」
「あ、一応は……」
実は前世に乗馬が趣味だったことと、馬がこの世界の主要の移動手段だったので御者の資格を俺は取っていた。
「そうか。だとしたらお願いしたいことがある。お前に、ルティア殿下とレフ様が『暗黒の森』へ向かうまでの移動時の御者のひとりとして同行して欲しい」
その言葉に驚いて目を見開く。よりにもよってクーデターにより最も尊い人になった第1王子殿下とその護衛騎士という名のモンペに同行するなんて絶対良くないことが起きる。
異世界もの小説のここが世界なら彼等は主役かそれに準ずるはず。だからまずいと考えた時、突然脳内に閃光が走る。俺は思い出しのだ、この世界の正体に。
「どうした、顔色が悪いが……」
「い、いえ。承知いたしました」
そう、この世界は前世愛読していたダークファンタジーみの強いBL小説の世界で、もしここで俺が彼らについて行かなければ間違いなく死んでしまうという未来を理解してしまった。
(本当は物凄く行きたくないけど……)
そして、俺は嫌なことに気付いてしまった。俺はモブだがただのモブではなく無駄にこの世界に必要なモブだったということに……。
全てのはじまりは正妃様が亡くなり、辺境伯様を中心とした武闘派の騎士達が王宮を制圧したのだ。それにより今まで王宮で幅を利かせていた、貴族派の貴族やそれに付き従ってた使用人は捕らえられてしまった。
それは側妃様も例外ではなく、現在正妃様が療養していたとされる塔の中に閉じ込められている。
しかし、意外にも第2王子殿下とその婚約者になったイクリス様は姿を消していた。正直ふたりともあんまり世間ずれしているのでそのまま側妃様のようにあっさり捕まるかと思っていたが違ったらしい。
(確かイクリス様は、一応辺境伯様側の生家は派閥だったよな……)
ただ、離宮で親しくなったヤツの話ではイクリス様自身はご実家の意向に逆らって貴族派とばかり付き合っていたようなので第1王子殿下との婚約を解消した時点で既に見放されているのではという話だったけれど。
そんな混乱の中、俺は辛うじて自由だった。人生が暗転したと思っていた離宮への左遷のおかげで生き延びられるとは考えてもいなかったが、これについては本当に運が良かった。
離宮に集められていた使用人は辺境伯家により選ばれて第1王子殿下の周りに付けられていたという事実を先ほど説明された。
そのおかげで俺は捕らえられることもなく、現在は辺境伯家から来た騎士達の手伝いをしていた。
「しかし、やっと悲願が叶ったな」
「ああ、そもそもジラント公爵様亡き後も我々が反旗を翻さないで耐えていたのは全てアリア妃様のため、そして、その御子であり正当なる王位継承権の持ち主であるルティア殿下のためだったからな」
「それなのに国王陛下がルティア殿下にあのようなことを言うなんて、女神のように慈悲深いアリア妃様とてお許しにならなかったし、辺境伯閣下もついにご決断なされたのだ」
彼等の会話を聞いて、今まで王宮で聞いていた話と全く違うことに驚いていた。
王宮では、側妃様こそが唯一の王妃であり、正妃様は不貞を働いて第1王子殿下を産んだので幽閉されている。この国を継ぐのは愛されている国王陛下の実子である第2王子殿下だというのが当たり前のように公然と言われていた。
しかし、離宮ではその噂を囁くものはいない。むしろそんなことを言った場合は、最悪レフ様に何をされるか分かったものではなかったので俺自身もあの日以来はあまり詮索をしないようにしていた。
「おい、お前」
静かに騎士達の側で作業をしている俺に、ひとりの騎士が声を掛けた。その服装から辺境伯領の騎士だとひと目でわかる屈強な男だった。
「はい、何か御用でございますか??」
俺は所詮、使用人である。例え前世の記憶があってもこの世界で今のところ役に立っていないし、もっと言えば間違いなくモブキャラなのでなるべくは変なことには巻き込まれたくない。
そう強く願っていた俺に、その騎士はとんでもないことを言い出した。
「お前、馬車の運転は出来るか??」
「あ、一応は……」
実は前世に乗馬が趣味だったことと、馬がこの世界の主要の移動手段だったので御者の資格を俺は取っていた。
「そうか。だとしたらお願いしたいことがある。お前に、ルティア殿下とレフ様が『暗黒の森』へ向かうまでの移動時の御者のひとりとして同行して欲しい」
その言葉に驚いて目を見開く。よりにもよってクーデターにより最も尊い人になった第1王子殿下とその護衛騎士という名のモンペに同行するなんて絶対良くないことが起きる。
異世界もの小説のここが世界なら彼等は主役かそれに準ずるはず。だからまずいと考えた時、突然脳内に閃光が走る。俺は思い出しのだ、この世界の正体に。
「どうした、顔色が悪いが……」
「い、いえ。承知いたしました」
そう、この世界は前世愛読していたダークファンタジーみの強いBL小説の世界で、もしここで俺が彼らについて行かなければ間違いなく死んでしまうという未来を理解してしまった。
(本当は物凄く行きたくないけど……)
そして、俺は嫌なことに気付いてしまった。俺はモブだがただのモブではなく無駄にこの世界に必要なモブだったということに……。
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