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15.湯浴みに挑戦したはずが……
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「……」
ホテルの中でレフに連れて行かれた部屋を見た僕は驚きのあまり何も言えなくなる。
その部屋は、僕が今までいた離宮の部屋よりずっと広く、そしてなぜかひどく懐かしいそんな部屋だった。
「ルティア殿下、この部屋は気に入りましたか」
僕の返事が分かっているだろうにわざとそう聞いてきたようなレフの表情に、それでも僕のためにここまでしてくれたことを考えたら嬉しくなる。
「……うん」
素直に答える。
張り詰めていた糸が途切れて安心したからか、自分が汗をたくさんかいてしまったことに気づいた。
「レフ、湯浴みがしたいのだが……」
「分かりました、俺が殿下の全てを……」
「一度ひとりで入ってみたい。だから風呂の場所だけ教えてほしい」
今まではいくら嫌われ王子でも従者が湯浴みを手伝っていたし、ひとりになることはなかった。
けれど、今ならひとりで湯浴みを試してみたいと思った。
明らかにその言葉にレフがシュンとした気がした。あまり悲しませたくはないし心配ばかりさせてしまっているので申し訳ない気もしたがどうしてもやってみたくて、それが我儘をだと分かっていたけれど言った。
「お願い」
「……分かりました。あなたが願うなら。ただ、外にいますので何が有れば必ず教えてください」
「わかった」
レフと広い部屋から出ると、部屋に来る時に通過した豪奢な扉の前まで僕を連れて行ってくれた。
ライオンのレリーフがあるそれが浴室とは知らなかった。
「知っていますか??俺の名前はライオンを意味するのです」
「ライオン……」
さり気なく言われた言葉に目を見開く。申し訳ないがレフはライオンよりイヌ科っぽい気がした。
昔、離宮の裏で使用人がこっそり育てていた黒い子犬がいた。
ワイマラナーという犬種らしいのだが、瞳の色もグレーでなんとなくレフに似ていたことを思い出す。
「レフはライオンより犬っぽい」
「えっ??」
驚いたように聞き返したレフをそのままに僕は浴室に入った。
入ってすぐは脱衣場でそこで服を脱いだ。そして奥の扉を開くとライオンの口から湯気のたつお湯がコンコンと溢れている。
(まずは体を洗うのだったな)
湯浴みの手順を思い出しながら準備されているタオルで体を擦る。
しかし、いつもなら立つはずの泡が立たない。
「あれ?泡は……」
「泡を立てるのには石鹸がいります」
「わっ!!レフ??」
いないと思った人物が背後にいたので思わず叫んでしまった。
「これをお使いください」
そう言ってニコニコと微笑みながら白い塊を手渡された。
「水に触れたらとけますので、タオルで包んで擦ってみてください」
そう言いながら背後からいきなり抱きしめるように僕の手の中のタオルはそのままに手を重ねる。
「……レフ……」
「さぁ、ゆっくり優しく」
耳元で囁かれると考えたくなくても閨が浮かんでしまう。
僕の手を勝手に動かしながらレフは石鹸を擦り泡を作る。清潔なはずの光景なのにやましい気持ちが湧いてしまう自分自身が恥ずかしい。
「レフ、恥ずかしいから……」
そう言って振り返り、その瞳と目が合ったことで後悔した。間違いなくそこには情欲に塗れた瞳をした男が獲物を見るようにこちらを見つめていたのだから……。
ホテルの中でレフに連れて行かれた部屋を見た僕は驚きのあまり何も言えなくなる。
その部屋は、僕が今までいた離宮の部屋よりずっと広く、そしてなぜかひどく懐かしいそんな部屋だった。
「ルティア殿下、この部屋は気に入りましたか」
僕の返事が分かっているだろうにわざとそう聞いてきたようなレフの表情に、それでも僕のためにここまでしてくれたことを考えたら嬉しくなる。
「……うん」
素直に答える。
張り詰めていた糸が途切れて安心したからか、自分が汗をたくさんかいてしまったことに気づいた。
「レフ、湯浴みがしたいのだが……」
「分かりました、俺が殿下の全てを……」
「一度ひとりで入ってみたい。だから風呂の場所だけ教えてほしい」
今まではいくら嫌われ王子でも従者が湯浴みを手伝っていたし、ひとりになることはなかった。
けれど、今ならひとりで湯浴みを試してみたいと思った。
明らかにその言葉にレフがシュンとした気がした。あまり悲しませたくはないし心配ばかりさせてしまっているので申し訳ない気もしたがどうしてもやってみたくて、それが我儘をだと分かっていたけれど言った。
「お願い」
「……分かりました。あなたが願うなら。ただ、外にいますので何が有れば必ず教えてください」
「わかった」
レフと広い部屋から出ると、部屋に来る時に通過した豪奢な扉の前まで僕を連れて行ってくれた。
ライオンのレリーフがあるそれが浴室とは知らなかった。
「知っていますか??俺の名前はライオンを意味するのです」
「ライオン……」
さり気なく言われた言葉に目を見開く。申し訳ないがレフはライオンよりイヌ科っぽい気がした。
昔、離宮の裏で使用人がこっそり育てていた黒い子犬がいた。
ワイマラナーという犬種らしいのだが、瞳の色もグレーでなんとなくレフに似ていたことを思い出す。
「レフはライオンより犬っぽい」
「えっ??」
驚いたように聞き返したレフをそのままに僕は浴室に入った。
入ってすぐは脱衣場でそこで服を脱いだ。そして奥の扉を開くとライオンの口から湯気のたつお湯がコンコンと溢れている。
(まずは体を洗うのだったな)
湯浴みの手順を思い出しながら準備されているタオルで体を擦る。
しかし、いつもなら立つはずの泡が立たない。
「あれ?泡は……」
「泡を立てるのには石鹸がいります」
「わっ!!レフ??」
いないと思った人物が背後にいたので思わず叫んでしまった。
「これをお使いください」
そう言ってニコニコと微笑みながら白い塊を手渡された。
「水に触れたらとけますので、タオルで包んで擦ってみてください」
そう言いながら背後からいきなり抱きしめるように僕の手の中のタオルはそのままに手を重ねる。
「……レフ……」
「さぁ、ゆっくり優しく」
耳元で囁かれると考えたくなくても閨が浮かんでしまう。
僕の手を勝手に動かしながらレフは石鹸を擦り泡を作る。清潔なはずの光景なのにやましい気持ちが湧いてしまう自分自身が恥ずかしい。
「レフ、恥ずかしいから……」
そう言って振り返り、その瞳と目が合ったことで後悔した。間違いなくそこには情欲に塗れた瞳をした男が獲物を見るようにこちらを見つめていたのだから……。
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