嫌われ王子は壊れた愛を受けて花ひらく

ひよこ麺

文字の大きさ
上 下
12 / 73

12.ふたりっきりの馬車の中と初めての風景

しおりを挟む
離宮から外へほぼ出たことがなかったので、馬車の窓から見える車窓は全てが新鮮だった。

王都には、確かに足を運んだ場所もあったが、孤児院や教会のような慈善事業に参加したことがわずかにあるだけでそれ以外の市民が暮らしている場所を目にしたことはなかった。

「何か面白いものがありましたか??」

息がかかるほど側で声を掛けられて思わずヒッと声が漏れてしまった。馬車には僕とレフのふたりっきりしかいない。そして、乗り込んですぐに何故かレフの膝の上に乗せられていた。

「レフ、確かに道は揺れるが別々に座った方が良いのではないか??」

「駄目です、ルティア殿下は馬車に乗りなれていないのでお怪我をされます」

そう言って、レフは背後から抱きしめている。身動きが取れないので出来ればもう少し力を緩めてほしい。そして、もうひとつ大変気になるところもある。

「レフ……」

「どうされましたか??そんなに物欲しそうな顔をして」

思わずレフをキッと睨みつけたが、熱の篭ったあの眼差しを返されるだけだ。そもそもそんなことを言いながら先ほどからレフの勃起したソレが当たっているのが気になっているのだ。

「……僕はこんなところではしたくない」

今までは、レフに抱かれる場所はほぼ自分の寝室かレフが滞在している部屋の中だったので問題なかったが今後、『暗黒の森』まで行く場合、途中で泊まると聞いている宿屋またはそれ以外でレフが求めて来る可能性があることを実感した。

だからといって、例えふたりきりでも馬車の中でそう言うことをするのは気が引けるしそもそも僕はそこまで肉体的快楽を優先するタイプではない。

それは、レフも同じはずだが王宮を出てからずっとレフは僕を後ろから抱きしめて首筋に顔を埋めている状態だ。

「わかっております。殿下は気高い方だ。こんなところで護衛に犯されるなど耐え切れないことは分かっております」

口ではそう答えているのに、先ほどからずっとレフの手が服の上からだけれど下腹部を撫でている。そして丁度臍の下あたりを慈しむように撫でながら、

「……殿下、俺のを奧まで入れたら大体この辺りまで挿入できます。今度試させてください」

と生々しいことを言われて思わず顔が赤くなる。

挿れられている時、確かに腹の中がいっぱいになる感触があるがそれがどこまで挿っているかなど考えたこともなかった。

「……嫌だと言ってもお前はどうせするだろう??」

拗ねるような口調で答えると、フッと笑った気配がした。

「殿下は本当に、俺を煽るのがお上手だ」

「僕はそんなつもりはない」

この男と話していると、そのペースに乗せられて良くないことをすることになりそうなので、顔をレフから背けて、再び車窓を眺めることにした。

(あれはなんだ??)

馬車が通る先に、沢山の人々の賑やかな声がする一角があった。そこには色とりどりの野菜や、それ以外の物も並んでいた。

「市が出ているようですね。懐かしい。俺も小さな頃はよく行きましたよ」

「……市とはなんだ??」

それが何か分からないから質問したのだが、先ほどまで僕の体をいやらしく触っていたレフの手が止まる。

「レフ??」

急なことに様子を見ようと振り返ると、何故かレフが泣いていた。

「どうした??何故泣いている??」

「いえ、あまりにもいたたまれなくて。そうだ、『暗黒の森』へ行く前に一度、市に寄りませんか??ここの市は小さいですが、途中の町に大きな市が出るのです」

涙を拭って、とても良い笑顔を浮かべてレフに首を傾げる。先ほどまでの淫猥な空気はなくなり少し安心すると同時に、窓から見える市というものがとても楽しそうで羨ましい気持ちになる。

「そうだな、一度行ってみたい」

どうせなら、その空気を体験してみたいと思い答えると、レフが髪を優しく撫でる。

「『暗黒の森』までに殿下が興味のあることがあったらやりながら行きましょう。大丈夫、今からでもやり直せますから」

「やり直す??」

その意味は分からなかったが、レフはまるで子供を慈しむように先ほどとは違う優しい手つきで僕を抱きしめた。

「ええ、子供時代にできなかった楽しいことを沢山しながら、そうして悔いのない心で『暗黒の森』へふたりで行きましょう」
しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

偽物の番は溺愛に怯える

にわとりこ
BL
『ごめんね、君は偽物だったんだ』 最悪な記憶を最後に自らの命を絶ったはずのシェリクスは、全く同じ姿かたち境遇で生まれ変わりを遂げる。 まだ自分を《本物》だと思っている愛する人を前にシェリクスは───?

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《 根暗の根本君 》である地味男である< 根本 源 >には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染< 空野 翔 >がいる。 ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない?? イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

買われた悪役令息は攻略対象に異常なくらい愛でられてます

瑳来
BL
元は純日本人の俺は不慮な事故にあい死んでしまった。そんな俺の第2の人生は死ぬ前に姉がやっていた乙女ゲームの悪役令息だった。悪役令息の役割を全うしていた俺はついに天罰がくらい捕らえられて人身売買のオークションに出品されていた。 そこで俺を落札したのは俺を破滅へと追い込んだ王家の第1王子でありゲームの攻略対象だった。 そんな落ちぶれた俺と俺を買った何考えてるかわかんない王子との生活がはじまった。

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

処理中です...