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11.因果と報い(辺境伯視点)
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「姫様……、この結末を貴方は望んでいたのですか??」
既に彼女を姫と呼ぶものはこの国では、私しかいない。けれど、彼女は今の肩書である正妃と呼ばれることを好まなかった。
当然だろう、国王は彼女の話を一度も聞かず全てを決めつけて妻として扱ったことなど一度もなかったのだから。自分に都合が良いこと以外は認めない姿は、第2王子であり彼の愛息子であるヴィンター殿下に似ている。
そもそも、全ての過ちは先王陛下が、ある理由からふたりを無理やり婚約させたことにあった。国王陛下はその当時すでに長年婚約者であった側妃様と愛し合っていた。
だから、その婚約を解消して無理やり結ばれた姫様との婚約が最初から気に入らなかったのだ。しかし、それでも先王陛下が姫様と婚約させたのは当然理由があった。
認めたくないし未だに信じられないが国王と姫様は番だった。
竜族にとって番は半身であり、その半身が死ねば狂うほどに大切な魂の片割れともいえる存在。そして、運命の相手である番と最初に出会った時に極まれにあまりの感情の昂ぶりにより制御が効かず一時的に狂化してしまうことがある。
狂化した間の記憶は当人にはない。しかし、この状態で姫様にはじめてあった日の国王は拒絶する姫様を無理やり犯してその処女を奪ったのだ。
それだけではない、番ということが原因なのか分からないがそのたった一度の行為で姫様の腹に子が宿った。それこそが第1王子のルティア殿下だ。
この件は、先王に仕えていた古参の貴族であれば全てが知っていた。ただ、姫様の名誉のために公然の秘密とされている。
狂化していたとはいえ、無理やり襲って子を身ごもらせたのだから当然国王は責任を取ることになった。
今でもはっきり覚えているが、姫様はその決定が出た日、泣いていた。
姫様にも恋愛という感情で愛していた訳ではないが家族のようにお互い支え合い穏やかな家庭をいつか築こうと約束した幼い頃からの婚約者がいた。それは私の弟だった。
けれど、この事件のショックで自ら命を絶ってしまった。
『キリル、ごめんなさい。本当にごめんなさい』
何度も弟の亡骸に縋りついて謝罪する姫様の痛ましい姿が、今でもはっきりと蘇る。姫様は弟の婚約者であり私に恋愛感情を持ち合わせていないことは分かっていたが、私にとって姫様は初恋の人だった。
そして、その初恋の人を傷つけ、弟を自殺へ追いやった国王への憎しみはこの時には生まれていた。
それでも、狂化という事態での不可抗力もあったので、姫様を大切にするならば私はここまでの怒りも憎しみも抱かなかっただろう。
しかし、国王はよりにもよって、嫁いだ姫様を拒絶し結婚式以降幽閉し会いにすらこなかったのだ。
本来、番同士であればそんなことはないはずだが何故か国王は頑なに姫様を遠ざけ続けた。
どうやら元婚約者であり、国王が王位を継いだ後に側妃として嫁いだ彼女とその派閥が何か暗躍していることが分かり調査したところ、正妃様とルティア殿下への根も葉もない噂が出回っているらしい。
それらについて、回収すべく動いた矢先に何故か姫様の生家の公爵家でも不幸が続き継ぐものがいなくなり取り潰されてしまった。
その影には間違いなく側妃の影があったが決定的な証拠は押さえられなかった。
この時点で、私は国王への不信感からクーデターを起こすことも考えていた。軍部は我々国王派が掌握していたのでたやすいことだった。
それに、姫様の子であるルティア殿下は姫様と王家の血を引いている御方であり、さらに王家の色を持つ方でもあった。
かの方を王とすれば今の国王が王であり続ける必要はない。
しかし、それを止めたのはほかでもない姫様だった。
『アレク、もう少し待って、側妃が全ての糸を引いているのはわかっている。だからこそ、もしも国王陛下が私に一度でも会って話を聞いてくれるならばこの状況は改善できるわ。むしろ、今貴方達が動いたら国が荒れて罪のない人々が苦しんでしまうことになる』
優しく生粋の公爵令嬢であった姫様は、誰よりも民のことを考えていた。そして、国王に陳書を送り続けた。
しかし、一度もその返事が戻ることはなかった。
私も辺境伯で騎士に近い考え方の家門ではあったが、それでも貴族としての勤めで側妃がまるで正妃であるように取り仕切る晩さん会などに出席しなければいけないこともあった。
その席で幸福そうな顔で、過ごす国王一家を見る度にやりきれない気持ちが溢れた。
今も冷たい塔の中で必死に国を憂いている姫様と離宮でひとりで孤独に過ごしているルティア殿下の犠牲の元にその幸福があるということを考えれば考えるだけ悲しい気持ちになった。
しかし、それでも姫様は国王に陳書を送り続けた。ルティア殿下の『成人の儀』が発表されたあの日まで……。
その内容を聞いた、姫様は弟の死の日以来の涙を流した。そして、一通り泣いてから凛とした声でこう告げた。
『もうどうしようもないのね。私はこれから死を選びます。そして、死んだ後にこの手紙をルティアと国王陛下に渡してください』
2枚の手紙だった。当然、私は姫様を止めた。姫様に死んでほしくなかった。
しかし……。
『全てはもう遅いの。国王陛下、あの人が、ルティアに『狂った竜王』の討伐を命じた時から……。『狂った竜王』が存在するか分からない、けれど作ることはできるわ』
ハッキリと言いきった言葉に、私はその決意を止めることはできなかった。
そして、私は姫様の棺の前で狂気に染まった赤い目をして叫んでいる国王陛下に声を掛けてその手紙を渡す。
「国王陛下、こちらは正妃様から貴方に宛てた最期の手紙でございます」
震える手でそれを受け取った男は蒼白な顔をしながら初めて姫様からの手紙を開いた。
そして、内容を読んだ瞬間に激しく意味のわからない言葉を叫ぶ。その姿に私は思わず笑っていた。
そして……。
「国王陛下は人ではなくなった。ここにいるのは『狂った竜王』だ。捉えろ!!」
既に彼女を姫と呼ぶものはこの国では、私しかいない。けれど、彼女は今の肩書である正妃と呼ばれることを好まなかった。
当然だろう、国王は彼女の話を一度も聞かず全てを決めつけて妻として扱ったことなど一度もなかったのだから。自分に都合が良いこと以外は認めない姿は、第2王子であり彼の愛息子であるヴィンター殿下に似ている。
そもそも、全ての過ちは先王陛下が、ある理由からふたりを無理やり婚約させたことにあった。国王陛下はその当時すでに長年婚約者であった側妃様と愛し合っていた。
だから、その婚約を解消して無理やり結ばれた姫様との婚約が最初から気に入らなかったのだ。しかし、それでも先王陛下が姫様と婚約させたのは当然理由があった。
認めたくないし未だに信じられないが国王と姫様は番だった。
竜族にとって番は半身であり、その半身が死ねば狂うほどに大切な魂の片割れともいえる存在。そして、運命の相手である番と最初に出会った時に極まれにあまりの感情の昂ぶりにより制御が効かず一時的に狂化してしまうことがある。
狂化した間の記憶は当人にはない。しかし、この状態で姫様にはじめてあった日の国王は拒絶する姫様を無理やり犯してその処女を奪ったのだ。
それだけではない、番ということが原因なのか分からないがそのたった一度の行為で姫様の腹に子が宿った。それこそが第1王子のルティア殿下だ。
この件は、先王に仕えていた古参の貴族であれば全てが知っていた。ただ、姫様の名誉のために公然の秘密とされている。
狂化していたとはいえ、無理やり襲って子を身ごもらせたのだから当然国王は責任を取ることになった。
今でもはっきり覚えているが、姫様はその決定が出た日、泣いていた。
姫様にも恋愛という感情で愛していた訳ではないが家族のようにお互い支え合い穏やかな家庭をいつか築こうと約束した幼い頃からの婚約者がいた。それは私の弟だった。
けれど、この事件のショックで自ら命を絶ってしまった。
『キリル、ごめんなさい。本当にごめんなさい』
何度も弟の亡骸に縋りついて謝罪する姫様の痛ましい姿が、今でもはっきりと蘇る。姫様は弟の婚約者であり私に恋愛感情を持ち合わせていないことは分かっていたが、私にとって姫様は初恋の人だった。
そして、その初恋の人を傷つけ、弟を自殺へ追いやった国王への憎しみはこの時には生まれていた。
それでも、狂化という事態での不可抗力もあったので、姫様を大切にするならば私はここまでの怒りも憎しみも抱かなかっただろう。
しかし、国王はよりにもよって、嫁いだ姫様を拒絶し結婚式以降幽閉し会いにすらこなかったのだ。
本来、番同士であればそんなことはないはずだが何故か国王は頑なに姫様を遠ざけ続けた。
どうやら元婚約者であり、国王が王位を継いだ後に側妃として嫁いだ彼女とその派閥が何か暗躍していることが分かり調査したところ、正妃様とルティア殿下への根も葉もない噂が出回っているらしい。
それらについて、回収すべく動いた矢先に何故か姫様の生家の公爵家でも不幸が続き継ぐものがいなくなり取り潰されてしまった。
その影には間違いなく側妃の影があったが決定的な証拠は押さえられなかった。
この時点で、私は国王への不信感からクーデターを起こすことも考えていた。軍部は我々国王派が掌握していたのでたやすいことだった。
それに、姫様の子であるルティア殿下は姫様と王家の血を引いている御方であり、さらに王家の色を持つ方でもあった。
かの方を王とすれば今の国王が王であり続ける必要はない。
しかし、それを止めたのはほかでもない姫様だった。
『アレク、もう少し待って、側妃が全ての糸を引いているのはわかっている。だからこそ、もしも国王陛下が私に一度でも会って話を聞いてくれるならばこの状況は改善できるわ。むしろ、今貴方達が動いたら国が荒れて罪のない人々が苦しんでしまうことになる』
優しく生粋の公爵令嬢であった姫様は、誰よりも民のことを考えていた。そして、国王に陳書を送り続けた。
しかし、一度もその返事が戻ることはなかった。
私も辺境伯で騎士に近い考え方の家門ではあったが、それでも貴族としての勤めで側妃がまるで正妃であるように取り仕切る晩さん会などに出席しなければいけないこともあった。
その席で幸福そうな顔で、過ごす国王一家を見る度にやりきれない気持ちが溢れた。
今も冷たい塔の中で必死に国を憂いている姫様と離宮でひとりで孤独に過ごしているルティア殿下の犠牲の元にその幸福があるということを考えれば考えるだけ悲しい気持ちになった。
しかし、それでも姫様は国王に陳書を送り続けた。ルティア殿下の『成人の儀』が発表されたあの日まで……。
その内容を聞いた、姫様は弟の死の日以来の涙を流した。そして、一通り泣いてから凛とした声でこう告げた。
『もうどうしようもないのね。私はこれから死を選びます。そして、死んだ後にこの手紙をルティアと国王陛下に渡してください』
2枚の手紙だった。当然、私は姫様を止めた。姫様に死んでほしくなかった。
しかし……。
『全てはもう遅いの。国王陛下、あの人が、ルティアに『狂った竜王』の討伐を命じた時から……。『狂った竜王』が存在するか分からない、けれど作ることはできるわ』
ハッキリと言いきった言葉に、私はその決意を止めることはできなかった。
そして、私は姫様の棺の前で狂気に染まった赤い目をして叫んでいる国王陛下に声を掛けてその手紙を渡す。
「国王陛下、こちらは正妃様から貴方に宛てた最期の手紙でございます」
震える手でそれを受け取った男は蒼白な顔をしながら初めて姫様からの手紙を開いた。
そして、内容を読んだ瞬間に激しく意味のわからない言葉を叫ぶ。その姿に私は思わず笑っていた。
そして……。
「国王陛下は人ではなくなった。ここにいるのは『狂った竜王』だ。捉えろ!!」
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