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09.母の愛を知ったことで旅立つ決意を決める、そして……
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「……ルティア殿下。正妃様がお亡くなりになった以上、殿下はここから早急に出る必要があります」
その言葉の意味が分からず首を傾げる。母上が亡くなったことで何故ここを出ないといけないのか。その考えを見透かしたように、レフは1枚の手紙を手渡した。
「……これは??」
「正妃様から、ルティア殿下への遺言状でございます」
手渡された羊皮紙には、自身の全ての財と権利を僕に譲ることが書かれていた。そして、最後にとても綺麗な字でこう綴られていた。
『貴方を死から救うにはもうこれ以外の方法が浮かびませんでした。私の最愛の息子、顔もほとんど見ることができなかったけれどたったひとりの大切な子、貴方のためなら私は何だってできます。
それがこの世界を壊すことであっても、あの人を永遠に苦しめることであっても。
これは最期まで貴方を顧みなかったあの人への罰でもあります。
何もできない母でごめんなさい。それでも、ルティア、貴方を永遠に愛しています。
愛を込めて アリア』
その手紙を読み終わった時、こぼれ続ける涙を止めることが再び難しくなった。今まで堪えていた分の感情が全て溢れていくようで、僕はまた泣いてしまった。
「……」
レフは僕の体を強く抱きしめた。そして、いつものセクシュアルな仕草ではなくただ小さな泣いている子供を慈しむように優しく髪を撫でた。それが心地よくて無意識にその手に頭を寄せていた。
しばらくそうして、やっと嗚咽が止まり落ち着いた時に、レフは僕の髪を撫でるのを止めて真剣な顔で話はじめた。
「本当はずっとこのまま貴方が望むように過ごすのをお手伝いしたかったのですが、時間がありません。
正妃様は、ルティア殿下に生前ずっとお会いしたかったのですが、側妃様に阻まれてそれすら叶わなかった。国王陛下にも直に手紙を送り続けたそうですが一度も顧みられることはなかった。我々、国王派の貴族はそれに対して怒りを常に持っておりましたが、正妃様が国が荒れることを恐れてそれを制止続けていたのです。しかし、それもおしまいです」
レフが淡々と告げた言葉をひとつずつ飲み込んでいく。
もうすぐこの国は大きく荒れることが分かった。
けれど、たとえ、父である国王がこの後、反乱で亡くなっても一度命じた『成人の儀』の内容を変えることはできない。そして、『成人の儀』を完了しなければどちらにしろ僕は死ぬことになる。
この国の、『成人の儀』はただ『成人』するために必要な簡単な儀礼ではない。この国を守っている守護神との誓約であり、その儀式をこなせなければ親からだけでなく神からも『成人』と認められず結果的に、子供のまま死ぬことになるのだから。
だからこそ、親は子にそこまで重い儀式を課さない。万が一成し遂げられなければ死が訪れることになるのだから当然である。
その当然すら破られるほど僕は疎まれており、それを知った母上は国王陛下への信頼を完全に失ったのだろう。
母上の気持ちはこの遺言からしか想像できないが、確かに僕は愛されていたのだ。欲しいものはずっとあの孤独な離宮での生活の中でも確かにあり続けていた。
その事実を思い知りながら、それでも変わることがない死に向かって歩まなければいけない。
やるせない気持ちが胸を埋め尽くすが、涙はもう流れたりはしなかった。
「……そうか」
色々な想いが去来する中で紡いだ言葉は驚くほど素っ気なかったが、心の中は決まっていた。
そんな僕の手をレフは両手で包むように握ると、切なさを押し殺すように笑った。
「殿下……、どこへ行きたいですか??今ならどこへでも行けます」
意外な言葉だった。今までの僕だったらどこにも行けないと思っていたが、母上の真実を知ったことで僕はすでに決意していた。
「『暗黒の森』へ行く」
「……まだ、成人の日までは時間があります。他の場所でも……」
「母上の言葉を聞いて思った。どちらにせよ僕が生きて幸せになるためには『暗黒の森で狂った竜王』を討たなければいけない。たとえ存在しないと言われる存在でも、森から戻れなくなるとしても僕がそれを倒さなけばその先はないから」
逃避するのではなく、向き合うと決めた。
レフと控室を出て、最後に母にもう一度挨拶をしようと考えて棺の前までやってきた。
先ほどとは違い落ち着いた気持ちで僕はその前に立っていた。
「これを……」
レフが、どこから持ってきたのか一輪の白い百合を差し出したので受け取り、献花の花を棺の中に添えた。
「母上、いってきます」
そう口にして、立ち上がる。
しかし、その時、静寂に満ちていた聖堂の扉が乱暴に開かれた。
あまりにも常識外れの行動に、怒りがこみ上げて音の方を睨むとそこには見たことのない様子の国王陛下が立っていた。
銀髪の髪は乱れて、衣服は寝起きのままなのか乱れた軽装でとても葬儀に訪れる恰好ではない。しかし、それ以上に僕が驚いたのは、その瞳だった。
銀髪に碧眼のはずの国王陛下の瞳がまるで血のように紅い色に変わりその顔は憤怒に染まっている。
「嘘だ!!なぜだ!!」
まるで、この世の終わりのような慟哭をあげた国王陛下に思わず体が強張る。
「行きましょう、殿下」
まるで僕を守るように、その横をレフと通り過ぎるが激昂して何かを怒鳴り続けている国王陛下は気づいていないようだ。ただ、扉から出ようとした背後でこんな叫びだけがはっきりと聞こえた。
「どうして、まさか、其方が……」
血を吐くようなその叫びを最後まで聞くことはなく、僕は王宮を後にしたのだった。
その言葉の意味が分からず首を傾げる。母上が亡くなったことで何故ここを出ないといけないのか。その考えを見透かしたように、レフは1枚の手紙を手渡した。
「……これは??」
「正妃様から、ルティア殿下への遺言状でございます」
手渡された羊皮紙には、自身の全ての財と権利を僕に譲ることが書かれていた。そして、最後にとても綺麗な字でこう綴られていた。
『貴方を死から救うにはもうこれ以外の方法が浮かびませんでした。私の最愛の息子、顔もほとんど見ることができなかったけれどたったひとりの大切な子、貴方のためなら私は何だってできます。
それがこの世界を壊すことであっても、あの人を永遠に苦しめることであっても。
これは最期まで貴方を顧みなかったあの人への罰でもあります。
何もできない母でごめんなさい。それでも、ルティア、貴方を永遠に愛しています。
愛を込めて アリア』
その手紙を読み終わった時、こぼれ続ける涙を止めることが再び難しくなった。今まで堪えていた分の感情が全て溢れていくようで、僕はまた泣いてしまった。
「……」
レフは僕の体を強く抱きしめた。そして、いつものセクシュアルな仕草ではなくただ小さな泣いている子供を慈しむように優しく髪を撫でた。それが心地よくて無意識にその手に頭を寄せていた。
しばらくそうして、やっと嗚咽が止まり落ち着いた時に、レフは僕の髪を撫でるのを止めて真剣な顔で話はじめた。
「本当はずっとこのまま貴方が望むように過ごすのをお手伝いしたかったのですが、時間がありません。
正妃様は、ルティア殿下に生前ずっとお会いしたかったのですが、側妃様に阻まれてそれすら叶わなかった。国王陛下にも直に手紙を送り続けたそうですが一度も顧みられることはなかった。我々、国王派の貴族はそれに対して怒りを常に持っておりましたが、正妃様が国が荒れることを恐れてそれを制止続けていたのです。しかし、それもおしまいです」
レフが淡々と告げた言葉をひとつずつ飲み込んでいく。
もうすぐこの国は大きく荒れることが分かった。
けれど、たとえ、父である国王がこの後、反乱で亡くなっても一度命じた『成人の儀』の内容を変えることはできない。そして、『成人の儀』を完了しなければどちらにしろ僕は死ぬことになる。
この国の、『成人の儀』はただ『成人』するために必要な簡単な儀礼ではない。この国を守っている守護神との誓約であり、その儀式をこなせなければ親からだけでなく神からも『成人』と認められず結果的に、子供のまま死ぬことになるのだから。
だからこそ、親は子にそこまで重い儀式を課さない。万が一成し遂げられなければ死が訪れることになるのだから当然である。
その当然すら破られるほど僕は疎まれており、それを知った母上は国王陛下への信頼を完全に失ったのだろう。
母上の気持ちはこの遺言からしか想像できないが、確かに僕は愛されていたのだ。欲しいものはずっとあの孤独な離宮での生活の中でも確かにあり続けていた。
その事実を思い知りながら、それでも変わることがない死に向かって歩まなければいけない。
やるせない気持ちが胸を埋め尽くすが、涙はもう流れたりはしなかった。
「……そうか」
色々な想いが去来する中で紡いだ言葉は驚くほど素っ気なかったが、心の中は決まっていた。
そんな僕の手をレフは両手で包むように握ると、切なさを押し殺すように笑った。
「殿下……、どこへ行きたいですか??今ならどこへでも行けます」
意外な言葉だった。今までの僕だったらどこにも行けないと思っていたが、母上の真実を知ったことで僕はすでに決意していた。
「『暗黒の森』へ行く」
「……まだ、成人の日までは時間があります。他の場所でも……」
「母上の言葉を聞いて思った。どちらにせよ僕が生きて幸せになるためには『暗黒の森で狂った竜王』を討たなければいけない。たとえ存在しないと言われる存在でも、森から戻れなくなるとしても僕がそれを倒さなけばその先はないから」
逃避するのではなく、向き合うと決めた。
レフと控室を出て、最後に母にもう一度挨拶をしようと考えて棺の前までやってきた。
先ほどとは違い落ち着いた気持ちで僕はその前に立っていた。
「これを……」
レフが、どこから持ってきたのか一輪の白い百合を差し出したので受け取り、献花の花を棺の中に添えた。
「母上、いってきます」
そう口にして、立ち上がる。
しかし、その時、静寂に満ちていた聖堂の扉が乱暴に開かれた。
あまりにも常識外れの行動に、怒りがこみ上げて音の方を睨むとそこには見たことのない様子の国王陛下が立っていた。
銀髪の髪は乱れて、衣服は寝起きのままなのか乱れた軽装でとても葬儀に訪れる恰好ではない。しかし、それ以上に僕が驚いたのは、その瞳だった。
銀髪に碧眼のはずの国王陛下の瞳がまるで血のように紅い色に変わりその顔は憤怒に染まっている。
「嘘だ!!なぜだ!!」
まるで、この世の終わりのような慟哭をあげた国王陛下に思わず体が強張る。
「行きましょう、殿下」
まるで僕を守るように、その横をレフと通り過ぎるが激昂して何かを怒鳴り続けている国王陛下は気づいていないようだ。ただ、扉から出ようとした背後でこんな叫びだけがはっきりと聞こえた。
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