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37.謎の契約と仮面の夫人
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大パパが告げた事実は衝撃的なものだった。なんでも王家とアウストリア公爵の間で婚約を結んだのは正妃様とフアナの母が何らかの約束を昔からしていてそのために成されたことだと言う。
その詳細について知っているのは、今も目を覚まさず大パパに愛さ……もとい看病を受けているアウストリア公爵と、母方の祖父母のみだったとのことだ。
「アインハルト、貴方はお父様と契約していたけど何か婚約に関する内容について知らない??」
「……すまない。ルータスとの契約の関係でその件を伝えることはできない。ただ……ひとつ言えることは王家が今伝えてきた内容については、まだ契約の効力が失われていないということだけは教えてあげられる」
少し苦し気に答えたアインハルトは契約魔法で縛られていることがすぐに分かった。ならばこれ以上は聞くことができないとあきらめる。
しばらく、沈黙が流れた。
「ならば、母方の祖父母に大切なことだし確認しよう。ただ、ずっと思っていたのだけれど、母方の祖父母はどうして一度も俺達の前に現れなかったんだろうか」
カールの言葉にフアナの記憶が再び鮮明によみがえる。少なくとも、フアナの記憶の中にも母方の祖父母の記憶はなかった。
「そうだろうな。彼らは我々と親類であってもほとんど接することがない」
幼かったからかもしれないが、母の葬儀にもふたりが来ていた記憶がない。そして、私はフアナの記憶を確認する。
記憶を思い起こした時、まだ幼かったフアナの記憶の中に鮮烈に残るものがあることがわかった。それはフアナがある日眠りから覚めた時のことだ。
いつもなら側に居るはずの使用人も母もいなかったのだ。その事実に驚いて悲しくなりベッドから起き出して部屋の扉を何とか開けて廊下に出た。
裸足の足の裏に絨毯は引かれていたがどこか冷たい感触が擦る中、それでも母を、いつも面倒を見てくれる使用人を探して歩いていると、ある部屋から母の声がすることに気付いた。
嬉しくなって部屋に入ろうとしたけれど、扉に鍵がかかっているのかノブを回しても部屋の扉は開かない。
『おかぁしゃまっ!!』
泣きながら、扉を何度も叩くと、しばらくして扉が開いた。
その中から、現れた人物にフアナは全く見覚えがなかった。ただ、ひとつはっきりと覚えているのはその人物は奇妙な仮面をかぶった貴婦人だったということだ。
その異常な風貌に、幼いフアナは余計に泣いたのでそんなフアナを慰めるように母に抱き上げられた。
『起きてしまったのね……ごめんなさい、夫人。この件についてはまた今度話しをしましょう』
私の背をポンポンと叩きながら慰める素振りをしながら母が、その仮面の夫人に伝える。年齢は仮面もありはっきりしないが当時で母よりずっと年上だということは何となく分かった。
『ええ、そうね。可愛いお姫様が目を覚ましてしまったのだから仕方ない。また近いうちに会いましょう、カタリナ』
とその時のフアナには意味の分からない言葉を告げてその場を立ち去ってしまった。それ以来、フアナは彼女に会うことはなかったが幼い日の強烈な記憶として残っていた。
「仮面の夫人……」
ぼそりと記憶の中の彼女のことを口にすると、大パパが不思議そうな顔になる。
「フアナは出会ったのかい??グリムヒルド夫人、君とカールの母方の祖母に」
「えっ」
思いもよらない言葉だった。つまり、あの日、母と話していたのは祖母だったということになる。けれど、少なくともわずかになされた会話は、母娘とは思えなかった。
「……けれど、お母様は、あの人のことを夫人と呼んでいましたが……」
「ああ、そうだろう。カタリナ嬢いや、アウストリア公爵夫人にとってかの人は実の母ではないからね。グリムヒルド夫人は後妻だからね。ただ、アウストリア公爵夫人とグリムヒルド夫人の間には君達と継母の間にあるような軋轢はなかった」
「……本当にそうだったのかな」
大パパの言葉に、今まで黙っていたアインハルトが口を挟む。
「何か知っているのか??」
「ああ。ルータスは、グリムヒルド夫人とカタリナ夫人をあまり会わせたくないようだった。特にフアナが生まれた後になぜか頻繁にきていた彼女に対してとても警戒していた」
その詳細について知っているのは、今も目を覚まさず大パパに愛さ……もとい看病を受けているアウストリア公爵と、母方の祖父母のみだったとのことだ。
「アインハルト、貴方はお父様と契約していたけど何か婚約に関する内容について知らない??」
「……すまない。ルータスとの契約の関係でその件を伝えることはできない。ただ……ひとつ言えることは王家が今伝えてきた内容については、まだ契約の効力が失われていないということだけは教えてあげられる」
少し苦し気に答えたアインハルトは契約魔法で縛られていることがすぐに分かった。ならばこれ以上は聞くことができないとあきらめる。
しばらく、沈黙が流れた。
「ならば、母方の祖父母に大切なことだし確認しよう。ただ、ずっと思っていたのだけれど、母方の祖父母はどうして一度も俺達の前に現れなかったんだろうか」
カールの言葉にフアナの記憶が再び鮮明によみがえる。少なくとも、フアナの記憶の中にも母方の祖父母の記憶はなかった。
「そうだろうな。彼らは我々と親類であってもほとんど接することがない」
幼かったからかもしれないが、母の葬儀にもふたりが来ていた記憶がない。そして、私はフアナの記憶を確認する。
記憶を思い起こした時、まだ幼かったフアナの記憶の中に鮮烈に残るものがあることがわかった。それはフアナがある日眠りから覚めた時のことだ。
いつもなら側に居るはずの使用人も母もいなかったのだ。その事実に驚いて悲しくなりベッドから起き出して部屋の扉を何とか開けて廊下に出た。
裸足の足の裏に絨毯は引かれていたがどこか冷たい感触が擦る中、それでも母を、いつも面倒を見てくれる使用人を探して歩いていると、ある部屋から母の声がすることに気付いた。
嬉しくなって部屋に入ろうとしたけれど、扉に鍵がかかっているのかノブを回しても部屋の扉は開かない。
『おかぁしゃまっ!!』
泣きながら、扉を何度も叩くと、しばらくして扉が開いた。
その中から、現れた人物にフアナは全く見覚えがなかった。ただ、ひとつはっきりと覚えているのはその人物は奇妙な仮面をかぶった貴婦人だったということだ。
その異常な風貌に、幼いフアナは余計に泣いたのでそんなフアナを慰めるように母に抱き上げられた。
『起きてしまったのね……ごめんなさい、夫人。この件についてはまた今度話しをしましょう』
私の背をポンポンと叩きながら慰める素振りをしながら母が、その仮面の夫人に伝える。年齢は仮面もありはっきりしないが当時で母よりずっと年上だということは何となく分かった。
『ええ、そうね。可愛いお姫様が目を覚ましてしまったのだから仕方ない。また近いうちに会いましょう、カタリナ』
とその時のフアナには意味の分からない言葉を告げてその場を立ち去ってしまった。それ以来、フアナは彼女に会うことはなかったが幼い日の強烈な記憶として残っていた。
「仮面の夫人……」
ぼそりと記憶の中の彼女のことを口にすると、大パパが不思議そうな顔になる。
「フアナは出会ったのかい??グリムヒルド夫人、君とカールの母方の祖母に」
「えっ」
思いもよらない言葉だった。つまり、あの日、母と話していたのは祖母だったということになる。けれど、少なくともわずかになされた会話は、母娘とは思えなかった。
「……けれど、お母様は、あの人のことを夫人と呼んでいましたが……」
「ああ、そうだろう。カタリナ嬢いや、アウストリア公爵夫人にとってかの人は実の母ではないからね。グリムヒルド夫人は後妻だからね。ただ、アウストリア公爵夫人とグリムヒルド夫人の間には君達と継母の間にあるような軋轢はなかった」
「……本当にそうだったのかな」
大パパの言葉に、今まで黙っていたアインハルトが口を挟む。
「何か知っているのか??」
「ああ。ルータスは、グリムヒルド夫人とカタリナ夫人をあまり会わせたくないようだった。特にフアナが生まれた後になぜか頻繁にきていた彼女に対してとても警戒していた」
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