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34.グットルッキング下僕とこの世界のヒロイン

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今まで見たことのないような王太子の怯えた表情に私の中のフアナは少しスカっとしたようだけれど、私はこの表情をした雄が大変面倒臭いことを知っている。

前世、私は恋愛をすることはなかったが私にひれ伏して許しを乞うことを悦びとする見目はイイタイプの下僕、グットルッキング下僕がまとわりついていたが、王太子が今まさにあのグットルッキング下僕の初期と同じ表情でこちらを見ている。

「何か??」

自然と強めの語気で出た言葉に、体をビクリと跳ねさせる。しかし、その頬は赤く上気し目はもっと罵って欲しいことを雄弁と語っている。

「あ、あ……その、フアナ……どうして……いままで隠していたんだ??」

その言葉に私はわざと大きくため息をついた。そして、地面にひれ伏している王太子を見下すように睨む。

「何をおっしゃりたいのか、全くわかりませんが??」

威圧するように、実際体から覇気のオーラを放ちながら言うと、王太子の体がブルリと震えたのが分かった。

「あ、その、君が、素晴らしい素養をもっているということをだ!!あ、あと、その侍女も素晴らしい!!」

私とアンを交互に身ながら身を捩る姿は芋虫のようで、しかもいくらそこそこの美形でも薄汚れて地べたを這いずっている姿は気持ち悪いとしか思えない。

思わず私は、それが逆効果だと分かっていたのに耐え切れずに蹴飛ばしてしまった。

「あっ……」

その瞬間、甘い声を上げる王太子は、私の足に縋りついた。

「もっと、踏みつけてくれ……いや、踏んでください」

王太子の言葉に私は、どうやら今生でもグットルッキング下僕を生成してしまったらしいが、正直、無駄に身分が高いだけに面倒くさいと考えた時、とてとて歩いてきたアインハルトがにんまり微笑み何かの呪文を唱える。

すると、王太子は私の足に縋りついた体勢のまままるで石になったように動かなくなった。

「うん、気持ち悪いドMはないないしよう」

そう言って、そのままさらに何かの呪文をアインハルトが呟くと王太子はその姿を消した。

「フアナお嬢様に迷惑をかけるなんて最悪でしたね!!」

アンが怒りながらそう言った。そこで私は先ほどの王太子の言葉を思い出す。

『あ、あと、その侍女も素晴らしい!!』

王太子がドMもといグットルッキング下僕なのは分かったがなぜアンをいきなり賛美したのか、その意味が分からない。

「アン、貴方は王太子にあったことがあったの??」

疑問に思ったので確認するとアンはしばらく考えていたが首を傾げたまま唸っている。その姿を見つめながら、ひと恋のヒロインについてあることを思い出した。

乙女ゲームのヒロインは顔有りで物語がしっかりしていることが多いが、ひと恋は顔が描かれないタイプのヒロインだった。ただ、名前は知っていたので学園に行けば会うことになるだろうと簡単に考えていた。

そもそも、学園へも行かない予定に運命が変わっていたので問題ないと思ったが、私の第6筋肉が告げる。

「ねぇ、アン。貴方に聞きたいのだけど貴方は平民なのよね??ご家族はどんな人??」

アンはにっこり微笑みながら嬉しそうに言った。

「私は、母の手ひとつで育ちました。母は食堂をしながら私を育ててくれました。母の料理は私にとってこの世で一番大好きなもので、いつかお嬢様にも味わって頂きたいです」

アンの言葉で私の考えは確信に変わる。間違いない。

ひと恋のヒロインの名前はアンジェリカ・リュラ・キュグニ、母の手ひとつで切り盛りする食堂の娘として育った平民だったが、実はとなりの帝国の血を引く貴族の娘であり、両親がこちらの国に外遊に来た際に暴漢に襲われた際に失踪し、記憶も失っていたところを食堂の女主人に拾われたという複雑な境遇だったが、ゲーム開始時に彼女を探していた両親が偶然その食堂を訪れて出自が分かる設定だったはずだ。

私は気づいてしまった。

アンこそ、このゲームのヒロインであるという事実に……。
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