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31.まずいことになったかもしれない04(王太子(フアナの婚約者)視点)
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それからも、なぜか街では誰ひとりとして目が合うことのないまま彷徨い歩くこととなってしまった。
何度か、馬車に戻るべきかとも思ったが、マリオ自体が忽然と消えてしまったので仕方なく歩いて辺境伯の屋敷まで向かうことにした。
今まで、長距離を歩いたことがなかったのと、靴がそもそも長く歩くことを想定していなかったので靴擦れが起きてとても痛かったが、その痛みよりも言い知れない恐怖とフアナに対する怒りで頭の中はいっぱいだった。
(そもそもフアナが病になどならなければこんな思いもしないですんだのに……)
王妃になる予定のくせに体調管理も出来ずに倒れて、結果的に辺境伯からの抗議が来る原因となったフアナへ苛立ちながら歩くと痛みより怒りによって体が支配されることで動くことができた。
(そうだ、フアナへこの怒りをぶつけなければ気が済まない)
その思いだけを胸に歩き続けると、運が悪いことに馬車が止まったのは辺境伯の屋敷のある街の隣の町だったので、3日ほど飲まず食わずで歩いてなんとか辺境伯の屋敷に辿りつくことができた。
しかし、その間誰とも街の人間とは意思疎通ができなかったので仕方なく水だけを飲んで何とか歩いてきた。マリオや使用人が居ないせいで湯あみも出来ず体から変なにおいがしてきた。美しい僕には相応しくないので、一刻も早く湯あみがしたい。
だから、辺境伯の屋敷について、僕は門番に声を掛けた。
「おい、門番。僕は婚約者の見舞いにわざわざここまで来た。早急にこの門を開けてもてなせ、まずは湯あみがしたい」
苛々とした声でそう告げる。王城であれば早急に動くはずの門番が怪訝そうな顔で見つめて答えた。
「婚約者の見舞い??そんなわかりきった嘘をつくな。お前のような身なりの人間が辺境伯様やその親族の方の身内の訳がないだろう」
鼻をつまみながら嫌そうに答えた門番の無礼な言葉に僕は怒り狂った。
「ふざけるな!!僕は王太子だ。そして、フアナの婚約者だ!!」
「フアナ公女様の婚約者??嘘をつくならもっとまともな嘘をついてくれ。王族がどうして徒歩でこんなところにいるんだ。王太子殿下なら王家の馬車でここまで来るだろう」
確かに、僕だってそのつもりだった。だけど途中で事故のようなことが起きて歩いてくる羽目になったのだ。
「その馬車が辺境伯領でおかしくなり、隣の町から仕方なく歩いてきた。僕の顔を見ればフアナならすぐに分かる、だからフアナに会わせろ!!」
僕は門番に掴みかかろうとしたが、その瞬間、内側から突然門が開かれた。やっと、外のやりとりに気付いたフアナが門を開けたのだろう。
だとしても門のところで待っていなかったのだから、顔を合わせたらお仕置きはしてやろう。
そんなことを考えていた時、丁度おあつらえ向きに門の内側にフアナが立っていた。
「フアナ、僕にこんなことをしてただで済むと思っているのか??」
「……」
しかし、僕の問いにフアナは答えなかったが、なぜだろう妙な胸騒ぎがする。
「フアナ、僕が話しかけているのに何故だまってい……!!」
言葉を続けようとした僕の首をいきなりフアナが掴んだのだ。あまりのことで抵抗できなかった僕の体はそのまま、空中に浮いた。
嘘みたいだが、フアナは僕の体を華奢に見える右手だけで持ち上げているのだ。
「くっ……なっ」
しかも首を持たれているせいで気道が圧迫されてまともに息ができない。そうしてじわじわと意識が混濁していく中で、ぼんやりと眼下のフアナと目が合う。
笑っていた。
その笑顔は今まで見たことのない美しい顔だった。
(苦しい……けれど、なんだこの……なつかしさは??)
その日、僕は思い出した。
初恋の幻惑に支配されていた恐怖を……、
すり替えた記憶に囚われていた屈辱を……。
何度か、馬車に戻るべきかとも思ったが、マリオ自体が忽然と消えてしまったので仕方なく歩いて辺境伯の屋敷まで向かうことにした。
今まで、長距離を歩いたことがなかったのと、靴がそもそも長く歩くことを想定していなかったので靴擦れが起きてとても痛かったが、その痛みよりも言い知れない恐怖とフアナに対する怒りで頭の中はいっぱいだった。
(そもそもフアナが病になどならなければこんな思いもしないですんだのに……)
王妃になる予定のくせに体調管理も出来ずに倒れて、結果的に辺境伯からの抗議が来る原因となったフアナへ苛立ちながら歩くと痛みより怒りによって体が支配されることで動くことができた。
(そうだ、フアナへこの怒りをぶつけなければ気が済まない)
その思いだけを胸に歩き続けると、運が悪いことに馬車が止まったのは辺境伯の屋敷のある街の隣の町だったので、3日ほど飲まず食わずで歩いてなんとか辺境伯の屋敷に辿りつくことができた。
しかし、その間誰とも街の人間とは意思疎通ができなかったので仕方なく水だけを飲んで何とか歩いてきた。マリオや使用人が居ないせいで湯あみも出来ず体から変なにおいがしてきた。美しい僕には相応しくないので、一刻も早く湯あみがしたい。
だから、辺境伯の屋敷について、僕は門番に声を掛けた。
「おい、門番。僕は婚約者の見舞いにわざわざここまで来た。早急にこの門を開けてもてなせ、まずは湯あみがしたい」
苛々とした声でそう告げる。王城であれば早急に動くはずの門番が怪訝そうな顔で見つめて答えた。
「婚約者の見舞い??そんなわかりきった嘘をつくな。お前のような身なりの人間が辺境伯様やその親族の方の身内の訳がないだろう」
鼻をつまみながら嫌そうに答えた門番の無礼な言葉に僕は怒り狂った。
「ふざけるな!!僕は王太子だ。そして、フアナの婚約者だ!!」
「フアナ公女様の婚約者??嘘をつくならもっとまともな嘘をついてくれ。王族がどうして徒歩でこんなところにいるんだ。王太子殿下なら王家の馬車でここまで来るだろう」
確かに、僕だってそのつもりだった。だけど途中で事故のようなことが起きて歩いてくる羽目になったのだ。
「その馬車が辺境伯領でおかしくなり、隣の町から仕方なく歩いてきた。僕の顔を見ればフアナならすぐに分かる、だからフアナに会わせろ!!」
僕は門番に掴みかかろうとしたが、その瞬間、内側から突然門が開かれた。やっと、外のやりとりに気付いたフアナが門を開けたのだろう。
だとしても門のところで待っていなかったのだから、顔を合わせたらお仕置きはしてやろう。
そんなことを考えていた時、丁度おあつらえ向きに門の内側にフアナが立っていた。
「フアナ、僕にこんなことをしてただで済むと思っているのか??」
「……」
しかし、僕の問いにフアナは答えなかったが、なぜだろう妙な胸騒ぎがする。
「フアナ、僕が話しかけているのに何故だまってい……!!」
言葉を続けようとした僕の首をいきなりフアナが掴んだのだ。あまりのことで抵抗できなかった僕の体はそのまま、空中に浮いた。
嘘みたいだが、フアナは僕の体を華奢に見える右手だけで持ち上げているのだ。
「くっ……なっ」
しかも首を持たれているせいで気道が圧迫されてまともに息ができない。そうしてじわじわと意識が混濁していく中で、ぼんやりと眼下のフアナと目が合う。
笑っていた。
その笑顔は今まで見たことのない美しい顔だった。
(苦しい……けれど、なんだこの……なつかしさは??)
その日、僕は思い出した。
初恋の幻惑に支配されていた恐怖を……、
すり替えた記憶に囚われていた屈辱を……。
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