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30.まずいことになったかもしれない03(王太子(フアナの婚約者)視点)

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あの後、馬車に乗り王都から1ヵ月も掛けてたどり着いた辺境伯領に僕は驚いていた。そこは王都と全く空気が違う異国のような建物が目立ちさらには王都以上に発展していた。

「ここが辺境伯領だと??」

「そうです。辺境伯領は元々別の国でしたのでとても発展しているのです」

側近のマリオが答えた。気のせいだろうか。マリオの黒髪に眼鏡をかけたインテリの神経質そうな顔が心なしか青ざめて見えた。

確かに、歴史ではそう習ったがそれでももう何百年と前の話だったと記憶しているので今や我が国の一部であろう辺境伯領は場所も考えて王都より寂れたただの僻地くらいの認識でいた。

「しかし……それでも……」

「ジュリアス殿下もご存じかと思いますが、辺境伯は隣国の帝国の皇族の血も引いている方なのでくれぐれも問題だけは起こさないようにしてください。もっと言いますと辺境伯領に入った時点で……」

マリオがなにかを話そうとした時だった。

ドン!!

馬車が大きく揺れた。

王家の馬車はそれこそ最新のもので魔防の魔法もかかっているので今までそんな揺れ方をしたことはなかった。たとえば石などを車輪が踏んでも自動で石を踏む前に粉砕したりしてくれるのでまず揺れないはずなのだ。

「なにがあった??」

「わかりません。ただ、殿下、私が確認して参りますので一旦馬車の中に居て下さい」

そう言って、マリオは体をガクガクと震えさせながらも馬車の外へ出て行った。それからしばらく誰もいなくなった馬車で待っていたが一向にマリオは戻らない。

「……どういうことだ??」

どれくらい待ったか分からないが一向に状況が変わらないので、僕は仕方なく馬車から下りることにして扉を開いた。

扉を開いて真っ先に目に写ったのは、先ほど車窓から見ていたままの風景だった。平和な異国情緒ただよう街。外に出ると鼻孔をくすぐるような独特の風のにおいがした。

確か、辺境伯領の料理は隣国に近いこともありこの国ではあまり使わない調味料を使うはずなのでこの香りもまさにそれかと思った。

そんなことを考えられるくらい、馬車の外は平和だった。けれど僕の馬車は大変なことになっていた。

「どういうことだ??」

確かにここまで運んでくれたはずの御者と王家に献上された最高級の馬はいなくなり、馬車から出たマリオの姿もどこにもない。

「マリオ!!」

僕はとりあえず大声で呼んでみたが、マリオが答えることもない。

そこで僕はある異常に気付いてしまった。先ほどから馬と御者の居ない馬車の前で絶世の美少年の僕が叫んでいるというのに街の人間は誰ひとりとしてこちらを見ないのだ。

見ないなんて可愛いものではない。まるで存在が元からしていないようにこちらに対してなんらかのアクションをするものがいないのだ。

異国の平和な街の中で、まるで透明人間になったように誰も僕を見ていない。

(そんなはずない、そんなはず)

僕はすぐ側で何やらガラクタを売っている老人に声を掛けてみた。

「その、聞きたいことがあるのだが……」

声を掛けたが老人は反応しない。そのどこか虚ろな瞳には僕が写っていない。ただ、耳が遠い可能性もあるのでもう一度大きな声で話しかけた。

「聞きたいことがあるんだが!!」

「……」

老人は反応しない。

「すいません、これください」

僕の後ろからいつの間にか来ていた子供が、ガラクタのひとつを老人に差し出すと老人はニコリと笑いそれをお金と引き換えに手渡した。

「ありがとう!!」

そう言って走り去る子供と、またうつろな目になる老人。そこで気付いたのだ。子供相手にも老人は話ていなかった。だから、この老人は話せなだけかもしれないと。

「なんだ、話せないのか。別の町人に話を聞こうか……」

僕はそう考えて、老人の前を立ち去ろうとした時、ずっと黙っていた老人がまるで独り言のように言葉を紡いだ。

「カワイソウカワイソウ。ダメな主君ノ罪を背負わされた従者がカワイソウ」

「えっ、どういう意味だ??」

急いで老人の方を振り返ったが、そこに居たはずの老人がまるではじめからいなかったのではというように消えていた。

その時の僕は、この辺境伯領の異常さにやっと気づけたくらいだったことをこの後、思い知ることになった。
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