31 / 38
30.まずいことになったかもしれない03(王太子(フアナの婚約者)視点)
しおりを挟む
あの後、馬車に乗り王都から1ヵ月も掛けてたどり着いた辺境伯領に僕は驚いていた。そこは王都と全く空気が違う異国のような建物が目立ちさらには王都以上に発展していた。
「ここが辺境伯領だと??」
「そうです。辺境伯領は元々別の国でしたのでとても発展しているのです」
側近のマリオが答えた。気のせいだろうか。マリオの黒髪に眼鏡をかけたインテリの神経質そうな顔が心なしか青ざめて見えた。
確かに、歴史ではそう習ったがそれでももう何百年と前の話だったと記憶しているので今や我が国の一部であろう辺境伯領は場所も考えて王都より寂れたただの僻地くらいの認識でいた。
「しかし……それでも……」
「ジュリアス殿下もご存じかと思いますが、辺境伯は隣国の帝国の皇族の血も引いている方なのでくれぐれも問題だけは起こさないようにしてください。もっと言いますと辺境伯領に入った時点で……」
マリオがなにかを話そうとした時だった。
ドン!!
馬車が大きく揺れた。
王家の馬車はそれこそ最新のもので魔防の魔法もかかっているので今までそんな揺れ方をしたことはなかった。たとえば石などを車輪が踏んでも自動で石を踏む前に粉砕したりしてくれるのでまず揺れないはずなのだ。
「なにがあった??」
「わかりません。ただ、殿下、私が確認して参りますので一旦馬車の中に居て下さい」
そう言って、マリオは体をガクガクと震えさせながらも馬車の外へ出て行った。それからしばらく誰もいなくなった馬車で待っていたが一向にマリオは戻らない。
「……どういうことだ??」
どれくらい待ったか分からないが一向に状況が変わらないので、僕は仕方なく馬車から下りることにして扉を開いた。
扉を開いて真っ先に目に写ったのは、先ほど車窓から見ていたままの風景だった。平和な異国情緒ただよう街。外に出ると鼻孔をくすぐるような独特の風のにおいがした。
確か、辺境伯領の料理は隣国に近いこともありこの国ではあまり使わない調味料を使うはずなのでこの香りもまさにそれかと思った。
そんなことを考えられるくらい、馬車の外は平和だった。けれど僕の馬車は大変なことになっていた。
「どういうことだ??」
確かにここまで運んでくれたはずの御者と王家に献上された最高級の馬はいなくなり、馬車から出たマリオの姿もどこにもない。
「マリオ!!」
僕はとりあえず大声で呼んでみたが、マリオが答えることもない。
そこで僕はある異常に気付いてしまった。先ほどから馬と御者の居ない馬車の前で絶世の美少年の僕が叫んでいるというのに街の人間は誰ひとりとしてこちらを見ないのだ。
見ないなんて可愛いものではない。まるで存在が元からしていないようにこちらに対してなんらかのアクションをするものがいないのだ。
異国の平和な街の中で、まるで透明人間になったように誰も僕を見ていない。
(そんなはずない、そんなはず)
僕はすぐ側で何やらガラクタを売っている老人に声を掛けてみた。
「その、聞きたいことがあるのだが……」
声を掛けたが老人は反応しない。そのどこか虚ろな瞳には僕が写っていない。ただ、耳が遠い可能性もあるのでもう一度大きな声で話しかけた。
「聞きたいことがあるんだが!!」
「……」
老人は反応しない。
「すいません、これください」
僕の後ろからいつの間にか来ていた子供が、ガラクタのひとつを老人に差し出すと老人はニコリと笑いそれをお金と引き換えに手渡した。
「ありがとう!!」
そう言って走り去る子供と、またうつろな目になる老人。そこで気付いたのだ。子供相手にも老人は話ていなかった。だから、この老人は話せなだけかもしれないと。
「なんだ、話せないのか。別の町人に話を聞こうか……」
僕はそう考えて、老人の前を立ち去ろうとした時、ずっと黙っていた老人がまるで独り言のように言葉を紡いだ。
「カワイソウカワイソウ。ダメな主君ノ罪を背負わされた従者がカワイソウ」
「えっ、どういう意味だ??」
急いで老人の方を振り返ったが、そこに居たはずの老人がまるではじめからいなかったのではというように消えていた。
その時の僕は、この辺境伯領の異常さにやっと気づけたくらいだったことをこの後、思い知ることになった。
「ここが辺境伯領だと??」
「そうです。辺境伯領は元々別の国でしたのでとても発展しているのです」
側近のマリオが答えた。気のせいだろうか。マリオの黒髪に眼鏡をかけたインテリの神経質そうな顔が心なしか青ざめて見えた。
確かに、歴史ではそう習ったがそれでももう何百年と前の話だったと記憶しているので今や我が国の一部であろう辺境伯領は場所も考えて王都より寂れたただの僻地くらいの認識でいた。
「しかし……それでも……」
「ジュリアス殿下もご存じかと思いますが、辺境伯は隣国の帝国の皇族の血も引いている方なのでくれぐれも問題だけは起こさないようにしてください。もっと言いますと辺境伯領に入った時点で……」
マリオがなにかを話そうとした時だった。
ドン!!
馬車が大きく揺れた。
王家の馬車はそれこそ最新のもので魔防の魔法もかかっているので今までそんな揺れ方をしたことはなかった。たとえば石などを車輪が踏んでも自動で石を踏む前に粉砕したりしてくれるのでまず揺れないはずなのだ。
「なにがあった??」
「わかりません。ただ、殿下、私が確認して参りますので一旦馬車の中に居て下さい」
そう言って、マリオは体をガクガクと震えさせながらも馬車の外へ出て行った。それからしばらく誰もいなくなった馬車で待っていたが一向にマリオは戻らない。
「……どういうことだ??」
どれくらい待ったか分からないが一向に状況が変わらないので、僕は仕方なく馬車から下りることにして扉を開いた。
扉を開いて真っ先に目に写ったのは、先ほど車窓から見ていたままの風景だった。平和な異国情緒ただよう街。外に出ると鼻孔をくすぐるような独特の風のにおいがした。
確か、辺境伯領の料理は隣国に近いこともありこの国ではあまり使わない調味料を使うはずなのでこの香りもまさにそれかと思った。
そんなことを考えられるくらい、馬車の外は平和だった。けれど僕の馬車は大変なことになっていた。
「どういうことだ??」
確かにここまで運んでくれたはずの御者と王家に献上された最高級の馬はいなくなり、馬車から出たマリオの姿もどこにもない。
「マリオ!!」
僕はとりあえず大声で呼んでみたが、マリオが答えることもない。
そこで僕はある異常に気付いてしまった。先ほどから馬と御者の居ない馬車の前で絶世の美少年の僕が叫んでいるというのに街の人間は誰ひとりとしてこちらを見ないのだ。
見ないなんて可愛いものではない。まるで存在が元からしていないようにこちらに対してなんらかのアクションをするものがいないのだ。
異国の平和な街の中で、まるで透明人間になったように誰も僕を見ていない。
(そんなはずない、そんなはず)
僕はすぐ側で何やらガラクタを売っている老人に声を掛けてみた。
「その、聞きたいことがあるのだが……」
声を掛けたが老人は反応しない。そのどこか虚ろな瞳には僕が写っていない。ただ、耳が遠い可能性もあるのでもう一度大きな声で話しかけた。
「聞きたいことがあるんだが!!」
「……」
老人は反応しない。
「すいません、これください」
僕の後ろからいつの間にか来ていた子供が、ガラクタのひとつを老人に差し出すと老人はニコリと笑いそれをお金と引き換えに手渡した。
「ありがとう!!」
そう言って走り去る子供と、またうつろな目になる老人。そこで気付いたのだ。子供相手にも老人は話ていなかった。だから、この老人は話せなだけかもしれないと。
「なんだ、話せないのか。別の町人に話を聞こうか……」
僕はそう考えて、老人の前を立ち去ろうとした時、ずっと黙っていた老人がまるで独り言のように言葉を紡いだ。
「カワイソウカワイソウ。ダメな主君ノ罪を背負わされた従者がカワイソウ」
「えっ、どういう意味だ??」
急いで老人の方を振り返ったが、そこに居たはずの老人がまるではじめからいなかったのではというように消えていた。
その時の僕は、この辺境伯領の異常さにやっと気づけたくらいだったことをこの後、思い知ることになった。
3
お気に入りに追加
1,138
あなたにおすすめの小説

あなたを忘れる魔法があれば
美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。
ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。
私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――?
これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような??
R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

元婚約者は戻らない
基本二度寝
恋愛
侯爵家の子息カルバンは実行した。
人前で伯爵令嬢ナユリーナに、婚約破棄を告げてやった。
カルバンから破棄した婚約は、ナユリーナに瑕疵がつく。
そうなれば、彼女はもうまともな縁談は望めない。
見目は良いが気の強いナユリーナ。
彼女を愛人として拾ってやれば、カルバンに感謝して大人しい女になるはずだと考えた。
二話完結+余談

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。

眠りから目覚めた王太子は
基本二度寝
恋愛
「う…うぅ」
ぐっと身体を伸ばして、身を起こしたのはこの国の第一王子。
「あぁ…頭が痛い。寝すぎたのか」
王子の目覚めに、侍女が慌てて部屋を飛び出した。
しばらくしてやってきたのは、国王陛下と王妃である両親と医師。
「…?揃いも揃ってどうしたのですか」
王子を抱きしめて母は泣き、父はホッとしていた。
永く眠りについていたのだと、聞かされ今度は王子が驚いたのだった。

親切なミザリー
みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。
ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。
ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。
こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。
‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。
※不定期更新です。

10日後に婚約破棄される公爵令嬢
雨野六月(旧アカウント)
恋愛
公爵令嬢ミシェル・ローレンは、婚約者である第三王子が「卒業パーティでミシェルとの婚約を破棄するつもりだ」と話しているのを聞いてしまう。
「そんな目に遭わされてたまるもんですか。なんとかパーティまでに手を打って、婚約破棄を阻止してみせるわ!」「まあ頑張れよ。それはそれとして、課題はちゃんとやってきたんだろうな? ミシェル・ローレン」「先生ったら、今それどころじゃないって分からないの? どうしても提出してほしいなら先生も協力してちょうだい」
これは公爵令嬢ミシェル・ローレンが婚約破棄を阻止するために(なぜか学院教師エドガーを巻き込みながら)奮闘した10日間の備忘録である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる