百獣最強と言われた私が転生したのは婚約破棄後に不治の病で死ぬ悪役令嬢でした

ひよこ麺

文字の大きさ
上 下
28 / 38

27.失われた記憶と悪夢01(カール視点)

しおりを挟む
フアナが吐血して倒れたと聞いた時、自分の全身の血が凍りつくような恐怖を感じた。

『お願い、カール。フアナを守ってあげて』

そう言い残して死んだ母の最期の言葉とその青ざめた死に顔が脳裏にはっきりと蘇る。そして、その時確かに俺はフアナを守ると誓ったはずだった。

(どうして、今まで忘れていたんだ??)

不思議な気持ちだった。あんなに脳内に残るような記憶なのに何故俺は忘れていたのだろう。思えば母が死んで、フアナが王妃教育で家を離れた後とても寂しかったことを覚えている。

可愛い妹と引き離された10歳の俺は、何度も何度も妹へ手紙を書いた。返事は一度もこなかったけれど、それでも自分自身がひとりでないと思うために手紙を出し続けた。

母を失った悲しみに10歳の子供であった俺が耐えるのはあまりにも苦しかった。それでも、なんとか我慢できたのは、8歳で母を失ったフアナに比べたら自分は母と2年多くいれたのだと、兄だから我慢しないといけないと思ったのだ。

父は母が死んでからとても忙しくなり、母もフアナもいなくなった家はまるで別の寂しいものに変わってしまったような気がした。

そんな時に、父は継母と義妹を連れて来た。

フアナが居ない時に家に他人を入れるなんて反対だったし、母を亡くしてすぐに再婚する父へは嫌悪感があった。けれど、王命での結婚だったので逆らえなかったと父は俺に話してくれたので、仕方なく納得するようにした。

父は、継母が俺やフアナをないがしろにするようなことはしないようにしたと約束してくれた。確かに継母と義妹が来ても俺の生活が特別に変わることはなかった。

ただ、父の言いつけで父が居ない時も毎日習慣としてふたりと食事をすると、頭の中がぼんやりとするようになってあんなに大切だったフアナのことを考えることが少なくなっていった。

けれど、その理由がわからない。

俺はいつからフアナに手紙を書かなくなった、いつからフアナのことを気にしなくなった。たったひとりの血のつながった大切な妹のことを忘れたんだ??

今ベッドの上で青ざめた顔で寝ているフアナの顔を見た時、あの日の母の顔が重なる。母も血を吐いて少しずつ弱っていく病に罹った。

(どうして……俺はどうしてこうなるまでフアナをほっといてしまったんだ??)

自分だけではない。今、意識を失っている父も、どうしてフアナがここまで追いつめられるまで気づかなかったのだ。そう考えた時、脳裏にぼんやりと継母の言葉が浮かんだ。

『フアナは、貴方の顔を見ると本当のお母様を思い出すみたいで辛いそうよ』

まるで、あれはある朝食の席で突然継母が言った言葉だった。まるで朝食のメニューを告げるくらい軽い調子で言われた言葉。それなのに、なぜかとても重い言葉と受け止めてしまった。今考えればそれをどうしてそう思ったのかが分からない。

(あんな女の言葉をなぜ信じた??)

それに、俺は義妹も継母もあまり好きではなかったはずだ。継母は俺に興味がなかったし、義妹のイザベラはとにかく気持ち悪かった。妹なのに色目を使うように俺に近付いて甘えるような声で話しかけてきたのだから。

そうやってふたりのことを思い出せば、フアナより優先するべきところもなんなら信じられる要素すらない。それなのにどうしてと考え込む。

「小公爵、顔色が悪いね」

そう、魔法使いがフアナの治療をしながら言った。魔法使いはこの国にとっては厄災の象徴であり、忌むべきものと教えられてきた。

しかし、今、苦しむフアナを楽にできるのは彼だけだった。だから侮蔑の感情を必死に抑えて答えた。

「問題ない。フアナに比べたら大したことない」

その答えに魔法使いは何故か歪んだ表情を浮かべる。そして、フアナの両手を包んでいた手を離すと、俺の方へ歩んできて、突然頭に手をかざした。

あまりのことに驚いたが、その瞬間、今までまるで霧に覆われていたような頭の中がクリアになったのがわかった。まるで自分の感情を押さえつけられていたような霧が完全に晴れたのだ。

「これは??」

「……『鏡の破片』。なるほど。やはり小公爵とフアナ嬢の継母は魔女と繋がりがあるようだ」

魔法使いは、俺を気の毒そうに見つめて言葉を続けた。

「小公爵は、継母と食事を食べていたと言いましたね??その際に彼女が何か食事を手渡したことはなかった??」

その言葉に、クリアになった頭で思い出したのは食事は家の者が準備していたが、いつも食後にお茶を出されていたことを思い出した。

そう言えば、俺はいつもお茶には砂糖を2つ入れるのだけれど、なぜか継母は氷砂糖をその時は渡してきたのを思い出す。

「食事は関係ないが、お茶を入れてくれていつも氷砂糖を2つ入れていた」

「氷砂糖か。なるほど。それは『鏡の破片』だな。小公爵は『鏡の破片』をご存じかな??」

素直に知らないと告げると、魔法使いはこう告げた。

「『鏡の破片』は、フアナが飲まされていた毒と同じように呪いのような力がある魔法薬なんだ。飲ませた人間を思い通りに操れる妙薬と呼ばれていて見た目は透明で甘い結晶なんだ」
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

あなたを忘れる魔法があれば

美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。 ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。 私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――? これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような?? R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

元婚約者は戻らない

基本二度寝
恋愛
侯爵家の子息カルバンは実行した。 人前で伯爵令嬢ナユリーナに、婚約破棄を告げてやった。 カルバンから破棄した婚約は、ナユリーナに瑕疵がつく。 そうなれば、彼女はもうまともな縁談は望めない。 見目は良いが気の強いナユリーナ。 彼女を愛人として拾ってやれば、カルバンに感謝して大人しい女になるはずだと考えた。 二話完結+余談

婚約破棄?王子様の婚約者は私ではなく檻の中にいますよ?

荷居人(にいと)
恋愛
「貴様とは婚約破棄だ!」 そうかっこつけ王子に言われたのは私でした。しかし、そう言われるのは想定済み……というより、前世の記憶で知ってましたのですでに婚約者は代えてあります。 「殿下、お言葉ですが、貴方の婚約者は私の妹であって私ではありませんよ?」 「妹……?何を言うかと思えば貴様にいるのは兄ひとりだろう!」 「いいえ?実は父が養女にした妹がいるのです。今は檻の中ですから殿下が知らないのも無理はありません」 「は?」 さあ、初めての感動のご対面の日です。婚約破棄するなら勝手にどうぞ?妹は今日のために頑張ってきましたからね、気持ちが変わるかもしれませんし。 荷居人の婚約破棄シリーズ第八弾!今回もギャグ寄りです。個性な作品を目指して今回も完結向けて頑張ります! 第七弾まで完結済み(番外編は生涯連載中)!荷居人タグで検索!どれも繋がりのない短編集となります。 表紙に特に意味はありません。お疲れの方、猫で癒されてねというだけです。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

処理中です...