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20.筋肉があれば狂気も全ては解決する

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「それはね、ルータスが小さな頃に……」

そう言って大パパはそれはそれは幸せそうにしながら昔話を始めた。

「ルータスがまだ、3歳の頃、とても甘えん坊さんな子で『1番、おじたんが大しゅきだよ』と稚い瞳でふんわり微笑みながら言ってくれたんだ、だから、『じゃあ、おじたんと結婚しようか』と聞いたら首を傾げながらも『うん』と快諾してくれたんだ。それが嬉しくてね、破れぬ誓いゆびきりげんまんをした。その際に、合わせて『ルータスは僕の前ではずっと可愛いお姫様でいる』という条件もつけたのだよ。だから、今のルータスは僕の前だからお姫様っぽいフリフリをき(せ)ているのだよ」

私の中のフアナの記憶が、『破れぬ誓い』とはこの世界でもっとも恐ろしい契約魔法だと教えてくれた。具体的には破ると死ぬ契約というと分かりやすいかもしれない。

つまり、大パパは私達の父親である甥っ子のアウストリア公爵がまだ幼子の時に、何も分からないのをいいことに強引に婚約を結ばせたということだけわかった。

「大パパちょっと意味がわからない」

蕩けるような眼差しで嬉々としてとんでもないことを言い出した大パパに突っ込みを入れる。しかし、大パパは気にせず話を続けた。

「ただ、ルータスは貴族の嫡男だから家のための結婚もしないといけない。そこで、ふたりの母であるカタリナ嬢とも結婚したんだ。けれど、ルータスはカタリナ嬢と結婚してから一度もこちらに来てくれなくてね。でも、それについては可愛い子をふたりも育てていたのだから仕方ないと我慢して、こちらから会いにいくだけで我慢していたのだよ」

「大パパ、完全に狂気ね」

我慢ができなくなり、私は思ったことを素直に伝える。こういう場合は変にオブラートに包むよりも素直に想いを届けた方が真意が伝わると前世の経験から知っている。

「やめろ、確かにどう足掻いても狂気だが反応が素直すぎる」

カールが全然フォローにならないフォローをしている。その様子に少しだけ大パパが悲しそうな顔をした。

「狂気??ああ、可愛い娘と息子のようなふたりに言われると流石にショックだな」

大パパはもっと気にしないタイプかと思ったが、すごく気にしているようなのでとりあえず私は持論を展開することにした。

「でも、大パパは強いし、筋肉があるので狂気的でも問題ない。筋肉パワーで全てを解決できるから」

「いや……さすがに」

何か言いたそうなカールだったが、それとは対照的に大パパは元通りの笑顔になる。

「ありがとう、フアナ。とても元気になったよ」

「それで回復するのか??」

「お兄様、筋肉は全てを解決できるのよ。ところで大パパ、お父様の容態はいかがなのですか??」

フリフリに気を取られて目の前に横たわる父親の容態確認を忘れていたので確認すると、大パパは今度は怒りを押し殺したように答えた。

「とても危ない状態だったけれど、今は峠は越えた。それでも予断を許さない状態なので引き続き僕の方で治療を続ける予定だ。しかし、ルータスを襲った暴漢はこちらが調べた限り間違いなく王家の手の者のようでね。可愛いふたりも無事に辺境伯領まできたらか抗議の手紙をまず出しておいてその後、しゅくせ、もといキレイキレイしないといけないと思っていたところだよ」

「そうですね、お父様のことがなくても私もとても酷い目にあいましたので、粛〇は絶対したいです、それに……」

私は今までフアナが王妃教育で受けた虐待と、専属でつけられたメイドから毒を盛られていた事実を念のため自分の言葉でも大パパに説明した。

これからのこともあるのでやるべきことを確認するためにも、感覚のすり合わせは大切だ。

ちなみに私はこの瞬間まで、大パパにお姫様抱っこされていたので、体を鈍らせないために腹筋とさらに背筋もはじめていた。

私の今までの話が終わったタイミングで突然大パパが私を抱き上げている腕に力をこめた。

そのあまりに強い力に、私は瞬時に理解した。

(なるほど、これは修行だな)

大パパは強者なので、このようにいきなり修行をかしてきてもおかしくはないと前世の記憶が告げる。

理解するが早く私は、大パパの腕から逃れるべく思いきりその胸をバンと押すように力をこめる。先ほどの無意識の裏拳と違いしっかりと力をこめたことで、大パパにも少しの隙ができた。

(よし!!いける!!)

私はその隙に、体を脇に潜り込ませてするりとその腕から抜け出すと、地面へしっかり着地をした。
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