上 下
18 / 38

17.まずいことになったかもしれない02(王太子(フアナの婚約者)視点)

しおりを挟む
父上が急に呼び出すこと今までなかったので理由が分からずさっきの考えが頭の中をめぐる。

内心で不安に駆られながらも国王の執務室へ入ると、父と宰相と正妃様というこの国の中枢メンバーが難しい顔をして立っていた。

それだけですぐにこれからする話が重要であることはわかった。

「お呼びでしょうか??」

なるべく平然と口にした言葉に3対の眼差しが全てこちらを向いた。その威圧感に内心ではドキドキとしていたがなるべく涼しい顔をした。

「これが王家宛てに届いた」

父上が見せえたのは1通の手紙だった。手紙に書かれた紋章には見覚えがあった。間違いないその紋章は辺境伯家の物であった。

「これは……」

「ガルシア辺境伯より届いた。内容は、王妃教育という名目でフアナ公女に対して過剰な虐待を行っていたことに対する抗議と、それによりフアナ公女は重病になり辺境伯領で療養するという内容だった」

その言葉に、自身の行いが知られるのではないかと考えてしまい気でなかったが、必死に冷静を装う。

「これについて、調査を秘密裡に行ったところ辺境伯の訴えは事実であることが判明している。しかし、我々王家はアウストリア公爵家との縁を得るためにまで出して得た婚約を手放す選択肢はない。むしろもしこちらの有責で婚約が破棄されれば我々王家はひとたまりもない。ただ、このような事態になった原因がわからない。少なくとも我々は彼女を大切に扱うように指示を出していたし報告を見る限り問題は見つからない。そこで一番側でフアナ公女と接していたお前に心当たりがないか確認したくて今回は呼び出した」

「それは……」

何を話すべきか逡巡する。少なくとも自身が彼女に行っていた精神的な苦痛を与えた行為をここで父上にも宰相にも正妃様にも知られてはいけない。

しかし、何かフアナに関することで今まで当たり前だと思われていた虐待行為について少しでも話したら不利になることが分かる。

「些細なことでも良いの。例えば誰かからフアナの悪口を聞いた程度でも構わない」

正妃様のその言葉に真っ先に浮かんだのはマナー講師の子爵夫人だった。ただ、彼女の話をしてしまえば母上に累が及ぶことが分かっていた。何故なら彼女は母上と仲が良い人だったのだから。

それに、僕が知る限りフアナが愚かなために彼女付きの講師は大半彼女を罵倒したりしていた。だからここでそれを話すのはとてもまずいのだ。

「王太子殿下、ここで真実を発言することで貴方が不利益になることはございません。むしろ言わない方が、後々お立場を悪くされるかと」

顎の髭を撫でながら宰相が鋭い瞳で観察するように僕を見つめている。

「……何も知りません。ただ、フアナがそこまで重い病におかされているのならば今すぐにでも見舞いに行きたいのですが……」

今更、不仲だと言われていたフアナに対して思ってもいないことを口にする。ただ3人にそれぞれ問われて揺らぎそうな心を落ち着けるためにも、一刻も早くこの場から逃げ出すための口実だった。

だから社交辞令で終わると考えていたが、父上の鋭い眼差しが僕を射抜いた。

「それは当たり前だ。お前とフアナ嬢は婚約者だ。重病の彼女の見舞いに行かないなど、いくら気持ちがないとしても当然行うべきことだ」

父の言葉に背筋が冷たくなる。

王都から辺境伯領までは馬車で片道1ヵ月かかる場所にある。魔法を使いたいが、テレポートの魔法は我が国では、最上位魔法使い以外は使えない。

その最上位魔法使いもアウストリア公爵と契約しているため王家は安易に利用できない。それを考えると酷くげんなりするが、ここでその落胆がバレてはいけない。

「はい、肝に銘じております」

「しかし、そなたが何も知らないとはな」

そうどこか落胆したような父上の声色に、胸がズキリと痛んだ。

父上の子は私ひとりだが、父上の兄弟は数人いる。つまり側妃の伯爵家より上位の貴族と王族の血を引いている人間がまだ居るのだ。さらに言えば、アウストリア公爵家だって王の血を引いている。

(だから何としても王太子の座は守らないといけない)

王太子教育を受けてきたのだから、それを無駄にしたくはない。

「陛下、あまりジュリアスを責めては可哀そうですわ」

そう優しく声にした正妃様がなぜか僕のすぐ側まで近づいてきた。

甘い果実のような香りに思わずぼんやりとする。正妃様は母上である側妃と年こそ変わらないはずだが、とても若々しく見えた。

その美しい顔が近づいて私を抱きしめた時、ドキドキと胸が高鳴るのがわかった。しかし、その鈴のように甘い声は僕にだけ囁くようにこう告げた。

「でも、もし知っていて誰かを庇っているならば、それは許されないわ」

あまりの恐怖と言い知れない高揚感で漏らしそうになるが必死に耐えた。僕は必死に首を左右に振ることしかできなかった。

その後、少しして解放されたがあんな怖い目には二度とあいたくない。

僕が行った行為がバレれば面倒になるためその口留めをするためにも、急ぎでフアナへの見舞いを口実に辺境伯領へ向かうことにしたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

婚約破棄されました。

まるねこ
恋愛
私、ルナ・ブラウン。歳は本日14歳となったところですわ。家族は父ラスク・ブラウン公爵と母オリヴィエ、そして3つ上の兄、アーロの4人家族。 本日、私の14歳の誕生日のお祝いと、婚約者のお披露目会を兼ねたパーティーの場でそれは起こりました。 ド定番的な婚約破棄からの恋愛物です。 習作なので短めの話となります。 恋愛大賞に応募してみました。内容は変わっていませんが、少し文を整えています。 ふんわり設定で気軽に読んでいただければ幸いです。 Copyright©︎2020-まるねこ

婚約者と妹が駆け落ちし私を裏切りましたが…悲しみの後には、幸せが待ってました。

coco
恋愛
婚約者と妹が駆け落ちし、私を裏切った。 私は大きな悲しみを味わう事となったけど、でもその後は…。

もふもふ好きのお姫様

桐生桜月姫
恋愛
もふもふ好きなお姫様と周りの人のドタバタな日常のお話です。(シリアス先輩の出番多めです…💦) 恋愛要素は遅め?です。 設定緩めです。(ちょびちょび編集しています。) 誤字脱字等ありましたら、お教えください。 希望の場面等もありましたらお教えください。できる限り書こうと思います! 毎日午後3時に更新しようと思います。 表紙絵は作者が初めて描いたデジタルイラストです。下手でごめんなさい………。世界観が崩れていませんように………。

あなたを騙した夏の夜

塚本正巳
恋愛
 亜美と智也と勇輝は、幼稚園時代からの幼馴染だ。  ある夏の朝、故郷で家業を継いだ幼馴染から、亜美の携帯電話にメッセージが入った。これから夫と二人の子供を連れて帰省しようとしていた亜美は、そのメッセージを読んで懐かしい過去を思い出していく。  中学生の頃までとても仲が良かった亜美たち三人は、高校入学を機にそれまでの絆を失っていった。次第に思い出深い砂浜にも集まらなくなった三人は、半ば過去の絆を忘れかけていた。  高校三年生の亜美が起こした事件がきっかけとなり、三人は再会の機会を得る。思春期の悩みと感情が複雑に混ざり合い、うまくいかなくなっていた三人の関係はさらに悪化するように思われたが……。

【完結】そんなに怖いなら近付かないで下さいませ! と口にした後、隣国の王子様に執着されまして

Rohdea
恋愛
────この自慢の髪が凶器のようで怖いですって!? それなら、近付かないで下さいませ!! 幼い頃から自分は王太子妃になるとばかり信じて生きてきた 凶器のような縦ロールが特徴の侯爵令嬢のミュゼット。 (別名ドリル令嬢) しかし、婚約者に選ばれたのは昔からライバル視していた別の令嬢! 悔しさにその令嬢に絡んでみるも空振りばかり…… 何故か自分と同じ様に王太子妃の座を狙うピンク頭の男爵令嬢といがみ合う毎日を経て分かった事は、 王太子殿下は婚約者を溺愛していて、自分の入る余地はどこにも無いという事だけだった。 そして、ピンク頭が何やら処分を受けて目の前から去った後、 自分に残ったのは、凶器と称されるこの縦ロール頭だけ。 そんな傷心のドリル令嬢、ミュゼットの前に現れたのはなんと…… 留学生の隣国の王子様!? でも、何故か構ってくるこの王子、どうも自国に“ゆるふわ頭”の婚約者がいる様子……? 今度はドリル令嬢 VS ゆるふわ令嬢の戦いが勃発──!? ※そんなに~シリーズ(勝手に命名)の3作目になります。 リクエストがありました、 『そんなに好きならもっと早く言って下さい! 今更、遅いです! と口にした後、婚約者から逃げてみまして』 に出てきて縦ロールを振り回していたドリル令嬢、ミュゼットの話です。 2022.3.3 タグ追加

婚約破棄追追放 神与スキルが謎のブリーダーだったので、王女から婚約破棄され公爵家から追放されました

克全
ファンタジー
小国の公爵家長男で王女の婿になるはずだったが……

傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~

日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】 https://ncode.syosetu.com/n1741iq/ https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199 【小説家になろうで先行公開中】 https://ncode.syosetu.com/n0091ip/ 働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。 地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?

処理中です...