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17.まずいことになったかもしれない02(王太子(フアナの婚約者)視点)
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父上が急に呼び出すこと今までなかったので理由が分からずさっきの考えが頭の中をめぐる。
内心で不安に駆られながらも国王の執務室へ入ると、父と宰相と正妃様というこの国の中枢メンバーが難しい顔をして立っていた。
それだけですぐにこれからする話が重要であることはわかった。
「お呼びでしょうか??」
なるべく平然と口にした言葉に3対の眼差しが全てこちらを向いた。その威圧感に内心ではドキドキとしていたがなるべく涼しい顔をした。
「これが王家宛てに届いた」
父上が見せえたのは1通の手紙だった。手紙に書かれた紋章には見覚えがあった。間違いないその紋章は辺境伯家の物であった。
「これは……」
「ガルシア辺境伯より届いた。内容は、王妃教育という名目でフアナ公女に対して過剰な虐待を行っていたことに対する抗議と、それによりフアナ公女は重病になり辺境伯領で療養するという内容だった」
その言葉に、自身の行いが知られるのではないかと考えてしまい気でなかったが、必死に冷静を装う。
「これについて、調査を秘密裡に行ったところ辺境伯の訴えは事実であることが判明している。しかし、我々王家はアウストリア公爵家との縁を得るためにあちらに有利な条件まで出して得た婚約を手放す選択肢はない。むしろもしこちらの有責で婚約が破棄されれば我々王家はひとたまりもない。ただ、このような事態になった原因がわからない。少なくとも我々は彼女を大切に扱うように指示を出していたし報告を見る限り問題は見つからない。そこで一番側でフアナ公女と接していたお前に心当たりがないか確認したくて今回は呼び出した」
「それは……」
何を話すべきか逡巡する。少なくとも自身が彼女に行っていた精神的な苦痛を与えた行為をここで父上にも宰相にも正妃様にも知られてはいけない。
しかし、何かフアナに関することで今まで当たり前だと思われていた虐待行為について少しでも話したら不利になることが分かる。
「些細なことでも良いの。例えば誰かからフアナの悪口を聞いた程度でも構わない」
正妃様のその言葉に真っ先に浮かんだのはマナー講師の子爵夫人だった。ただ、彼女の話をしてしまえば母上に累が及ぶことが分かっていた。何故なら彼女は母上と仲が良い人だったのだから。
それに、僕が知る限りフアナが愚かなために彼女付きの講師は大半彼女を罵倒したりしていた。だからここでそれを話すのはとてもまずいのだ。
「王太子殿下、ここで真実を発言することで貴方が不利益になることはございません。むしろ言わない方が、後々お立場を悪くされるかと」
顎の髭を撫でながら宰相が鋭い瞳で観察するように僕を見つめている。
「……何も知りません。ただ、フアナがそこまで重い病におかされているのならば今すぐにでも見舞いに行きたいのですが……」
今更、不仲だと言われていたフアナに対して思ってもいないことを口にする。ただ3人にそれぞれ問われて揺らぎそうな心を落ち着けるためにも、一刻も早くこの場から逃げ出すための口実だった。
だから社交辞令で終わると考えていたが、父上の鋭い眼差しが僕を射抜いた。
「それは当たり前だ。お前とフアナ嬢は婚約者だ。重病の彼女の見舞いに行かないなど、いくら気持ちがないとしても当然行うべきことだ」
父の言葉に背筋が冷たくなる。
王都から辺境伯領までは馬車で片道1ヵ月かかる場所にある。魔法を使いたいが、テレポートの魔法は我が国では、最上位魔法使い以外は使えない。
その最上位魔法使いもアウストリア公爵と契約しているため王家は安易に利用できない。それを考えると酷くげんなりするが、ここでその落胆がバレてはいけない。
「はい、肝に銘じております」
「しかし、そなたが何も知らないとはな」
そうどこか落胆したような父上の声色に、胸がズキリと痛んだ。
父上の子は私ひとりだが、父上の兄弟は数人いる。つまり側妃の伯爵家より上位の貴族と王族の血を引いている人間がまだ居るのだ。さらに言えば、アウストリア公爵家だって王の血を引いている。
(だから何としても王太子の座は守らないといけない)
王太子教育を受けてきたのだから、それを無駄にしたくはない。
「陛下、あまりジュリアスを責めては可哀そうですわ」
そう優しく声にした正妃様がなぜか僕のすぐ側まで近づいてきた。
甘い果実のような香りに思わずぼんやりとする。正妃様は母上である側妃と年こそ変わらないはずだが、とても若々しく見えた。
その美しい顔が近づいて私を抱きしめた時、ドキドキと胸が高鳴るのがわかった。しかし、その鈴のように甘い声は僕にだけ囁くようにこう告げた。
「でも、もし知っていて誰かを庇っているならば、それは許されないわ」
あまりの恐怖と言い知れない高揚感で漏らしそうになるが必死に耐えた。僕は必死に首を左右に振ることしかできなかった。
その後、少しして解放されたがあんな怖い目には二度とあいたくない。
僕が行った行為がバレれば面倒になるためその口留めをするためにも、急ぎでフアナへの見舞いを口実に辺境伯領へ向かうことにしたのだった。
内心で不安に駆られながらも国王の執務室へ入ると、父と宰相と正妃様というこの国の中枢メンバーが難しい顔をして立っていた。
それだけですぐにこれからする話が重要であることはわかった。
「お呼びでしょうか??」
なるべく平然と口にした言葉に3対の眼差しが全てこちらを向いた。その威圧感に内心ではドキドキとしていたがなるべく涼しい顔をした。
「これが王家宛てに届いた」
父上が見せえたのは1通の手紙だった。手紙に書かれた紋章には見覚えがあった。間違いないその紋章は辺境伯家の物であった。
「これは……」
「ガルシア辺境伯より届いた。内容は、王妃教育という名目でフアナ公女に対して過剰な虐待を行っていたことに対する抗議と、それによりフアナ公女は重病になり辺境伯領で療養するという内容だった」
その言葉に、自身の行いが知られるのではないかと考えてしまい気でなかったが、必死に冷静を装う。
「これについて、調査を秘密裡に行ったところ辺境伯の訴えは事実であることが判明している。しかし、我々王家はアウストリア公爵家との縁を得るためにあちらに有利な条件まで出して得た婚約を手放す選択肢はない。むしろもしこちらの有責で婚約が破棄されれば我々王家はひとたまりもない。ただ、このような事態になった原因がわからない。少なくとも我々は彼女を大切に扱うように指示を出していたし報告を見る限り問題は見つからない。そこで一番側でフアナ公女と接していたお前に心当たりがないか確認したくて今回は呼び出した」
「それは……」
何を話すべきか逡巡する。少なくとも自身が彼女に行っていた精神的な苦痛を与えた行為をここで父上にも宰相にも正妃様にも知られてはいけない。
しかし、何かフアナに関することで今まで当たり前だと思われていた虐待行為について少しでも話したら不利になることが分かる。
「些細なことでも良いの。例えば誰かからフアナの悪口を聞いた程度でも構わない」
正妃様のその言葉に真っ先に浮かんだのはマナー講師の子爵夫人だった。ただ、彼女の話をしてしまえば母上に累が及ぶことが分かっていた。何故なら彼女は母上と仲が良い人だったのだから。
それに、僕が知る限りフアナが愚かなために彼女付きの講師は大半彼女を罵倒したりしていた。だからここでそれを話すのはとてもまずいのだ。
「王太子殿下、ここで真実を発言することで貴方が不利益になることはございません。むしろ言わない方が、後々お立場を悪くされるかと」
顎の髭を撫でながら宰相が鋭い瞳で観察するように僕を見つめている。
「……何も知りません。ただ、フアナがそこまで重い病におかされているのならば今すぐにでも見舞いに行きたいのですが……」
今更、不仲だと言われていたフアナに対して思ってもいないことを口にする。ただ3人にそれぞれ問われて揺らぎそうな心を落ち着けるためにも、一刻も早くこの場から逃げ出すための口実だった。
だから社交辞令で終わると考えていたが、父上の鋭い眼差しが僕を射抜いた。
「それは当たり前だ。お前とフアナ嬢は婚約者だ。重病の彼女の見舞いに行かないなど、いくら気持ちがないとしても当然行うべきことだ」
父の言葉に背筋が冷たくなる。
王都から辺境伯領までは馬車で片道1ヵ月かかる場所にある。魔法を使いたいが、テレポートの魔法は我が国では、最上位魔法使い以外は使えない。
その最上位魔法使いもアウストリア公爵と契約しているため王家は安易に利用できない。それを考えると酷くげんなりするが、ここでその落胆がバレてはいけない。
「はい、肝に銘じております」
「しかし、そなたが何も知らないとはな」
そうどこか落胆したような父上の声色に、胸がズキリと痛んだ。
父上の子は私ひとりだが、父上の兄弟は数人いる。つまり側妃の伯爵家より上位の貴族と王族の血を引いている人間がまだ居るのだ。さらに言えば、アウストリア公爵家だって王の血を引いている。
(だから何としても王太子の座は守らないといけない)
王太子教育を受けてきたのだから、それを無駄にしたくはない。
「陛下、あまりジュリアスを責めては可哀そうですわ」
そう優しく声にした正妃様がなぜか僕のすぐ側まで近づいてきた。
甘い果実のような香りに思わずぼんやりとする。正妃様は母上である側妃と年こそ変わらないはずだが、とても若々しく見えた。
その美しい顔が近づいて私を抱きしめた時、ドキドキと胸が高鳴るのがわかった。しかし、その鈴のように甘い声は僕にだけ囁くようにこう告げた。
「でも、もし知っていて誰かを庇っているならば、それは許されないわ」
あまりの恐怖と言い知れない高揚感で漏らしそうになるが必死に耐えた。僕は必死に首を左右に振ることしかできなかった。
その後、少しして解放されたがあんな怖い目には二度とあいたくない。
僕が行った行為がバレれば面倒になるためその口留めをするためにも、急ぎでフアナへの見舞いを口実に辺境伯領へ向かうことにしたのだった。
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