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11.フアナの心が溢れる時、私は兄に尻を見せた
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フアナにとって王妃教育は地獄だった。8歳の頃から拒否権なくはじまったそれは母親を亡くしてまもない普通の貴族の娘であったフアナにはとても辛いものだった。
思い出せる限りのないようは、スパルタ式というよりは完全なる根性論を盾にした虐待行為であった。講師と呼ばれる貴族の夫人たちには厳しいながらも愛がある、なんてことはまるでない。
なんなら、ただ自身の家庭の憂さ晴らしに鞭で叩かれるような残酷なことをされたことだってある。幼かったフアナは何度もそこから逃げ出したいと思った。
父なら、兄なら助けてくれると信じて一度決死の覚悟で王城を抜け出して自宅まで逃げ出したことがあった。
懐かしい我が家が見えて思わず泣いてしまったフアナが屋敷に入ろうとしてそこで違和感に気付いた。屋敷には見たことのない女性とフアナのお気に入りのブランドのドレスをきた年の変わらない女の子が居て、その側に優し気に微笑む父と、少しはにかんでいるように見える兄が居た。
(あの子達はだれ??どうしてここにいるの??)
そう思った時、突然真後ろから声が聞こえた。それはフアナを捕まえるためにやってきたエミリーだった。
「ああ、フアナ様はご存じなかったですよね。アウストリア公爵様は再婚されたのですよ」
「再婚??」
フアナは王妃教育を受けていたので通常の幼い子と違ってその意味を理解していた。けれど、意味はわかっても今の状況が理解できなかった。
「ええ、側妃様の妹君であらせられるクリスティーナ伯爵令嬢様と。そうそう、おふたりは元から愛し合っていらっしゃったそうでフアナ様と1つ差のイザベラお嬢様は表向きは秘匿されていますがおふたりの御子なのですよ」
その時、フアナの体中の血が凍ってしまったように感じた。それくらいショックだった。
フアナは父が好きだった。厳しいところもあるが優しい人だと信じていた。けれど、エミリーの話が真実なら母が生きていた頃からあの女性とずっと不倫をしていたといことになる。
この国において貴族の不倫は珍しくはない。それでも実際自分がその当事者になるなんて幼いフアナは思わなかった。
「ふふふ、だからフアナ様に帰る場所なんてもうないんですよ」
毒のようにエミリーに囁かれた言葉、それがフアナの心を汚染するのは僅か一瞬だった。今ならエミリーなど信じるに値しないのでもう少し色々他のことも考えただろうけれど、その時のフアナは幼気で純真な子供だったのだ。
だから、その時にフアナの中で父親は頼ることのできない存在へとなり下がった。その後いかなることがあってもフアナは父親を頼ることはしなかった。
けれど、だからこそ心の中でただひとり自分を裏切らない存在として兄をカールだけは信じていた。信じたかったが王城に行く機会があっても彼は一度もフアナの元を訪れてはくれなかった。
憾みに満ちた記憶、私が蘇ってからはフアナであった頃の感情は希薄だったと思い込んでいたけれどここまで強く刻まれていたそれはあまりにも辛く悲しいものだった。
「お兄様は王城なら安心だって思っていらっしゃるのですね」
そう答えてアルカイックスマイルを浮かべたのは私ではない、いや、私だがこれはフアナだ。
「そうだろう、王妃になる予定のお前を守ってくれる安全な……」
「エミリーは王家が付けた侍女です」
全てを遮断するように冷たく吐き出す絶対零度。まさに氷の令嬢の異名を持っていたフアナだ。自分であるけれど百獣の女王、燃える闘魂の異名を持つ私とは真逆のその佇まいにキュンとしていた。まずい、ナルシストになりそうだ。
「……そうだが」
「お兄様は、ご存じありませんか??王太子殿下と私の仲に関する噂を」
「……不仲だというのだろう??ふざけている、あちらから打診したのに……」
(そうだけど、そうじゃないのよ)
兄の見当違いの言葉にフアナが冷笑した。それはなんの期待もしていなかったけどさらにそれが失望へ変わるようなそんな感情だった。
多分、フアナのままならこれ以上は何も言わないのだろう。けれど、私は黙っていることはできなかった。
「城の中の連中は、初めからフアナに冷たかった。きっとあちらから打診したなんて王家は下々のものに伝えていない。その証拠よ」
私の心のフアナが眉間に皺を寄せる。きっとフアナなら隠したいのだとわかるけれど私はそれでは腹の虫がおさまらないのでスカートを捲り上げてパンツを大胆に下ろして尻を出した。
「なっ、なにし……えっ??」
はじめはいきなり始まったストリップに驚いたカールだったが、すぐにそれに気づいた。今の尻の皮膚に残る虐待の跡……鞭で何度も叩かれたことで治らない傷跡。
カールが目を見開くのを確認して私はパンツを再び穿いてスカートを元に戻した。
「どうして、そんな……」
「王妃教育の時に、確か子爵の夫人のマナー講師が私を何度も鞭で叩いてできた傷。ストレスを発散するように些細な事で叩かれて完全に傷になってるんだよ。でも見えないところ、いや、見せないところだから今までバレなかったし、フアナは恥だとおもってずっと隠していた」
その言葉に先ほどまで王城へ戻そうとしていたカールの勢いは全くなくなる。見たことのないような苦々しい顔をして黙り込んでいる。
(今更、罪悪感を感じてももう遅いわ)
フアナの冷えた心を感じながら、けれど私は……。
「そうだな、王城は悪意の巣窟だから身を守らせるなら別のところに預ける方がいいとおもうよ」
私の中のふたつの心が分離しかけた時、突然現れたのは未だかつて写真でしか見たことのないような、まるでビスクドールみたいな、プラチナブロンドの絶世の美少年だった。
思い出せる限りのないようは、スパルタ式というよりは完全なる根性論を盾にした虐待行為であった。講師と呼ばれる貴族の夫人たちには厳しいながらも愛がある、なんてことはまるでない。
なんなら、ただ自身の家庭の憂さ晴らしに鞭で叩かれるような残酷なことをされたことだってある。幼かったフアナは何度もそこから逃げ出したいと思った。
父なら、兄なら助けてくれると信じて一度決死の覚悟で王城を抜け出して自宅まで逃げ出したことがあった。
懐かしい我が家が見えて思わず泣いてしまったフアナが屋敷に入ろうとしてそこで違和感に気付いた。屋敷には見たことのない女性とフアナのお気に入りのブランドのドレスをきた年の変わらない女の子が居て、その側に優し気に微笑む父と、少しはにかんでいるように見える兄が居た。
(あの子達はだれ??どうしてここにいるの??)
そう思った時、突然真後ろから声が聞こえた。それはフアナを捕まえるためにやってきたエミリーだった。
「ああ、フアナ様はご存じなかったですよね。アウストリア公爵様は再婚されたのですよ」
「再婚??」
フアナは王妃教育を受けていたので通常の幼い子と違ってその意味を理解していた。けれど、意味はわかっても今の状況が理解できなかった。
「ええ、側妃様の妹君であらせられるクリスティーナ伯爵令嬢様と。そうそう、おふたりは元から愛し合っていらっしゃったそうでフアナ様と1つ差のイザベラお嬢様は表向きは秘匿されていますがおふたりの御子なのですよ」
その時、フアナの体中の血が凍ってしまったように感じた。それくらいショックだった。
フアナは父が好きだった。厳しいところもあるが優しい人だと信じていた。けれど、エミリーの話が真実なら母が生きていた頃からあの女性とずっと不倫をしていたといことになる。
この国において貴族の不倫は珍しくはない。それでも実際自分がその当事者になるなんて幼いフアナは思わなかった。
「ふふふ、だからフアナ様に帰る場所なんてもうないんですよ」
毒のようにエミリーに囁かれた言葉、それがフアナの心を汚染するのは僅か一瞬だった。今ならエミリーなど信じるに値しないのでもう少し色々他のことも考えただろうけれど、その時のフアナは幼気で純真な子供だったのだ。
だから、その時にフアナの中で父親は頼ることのできない存在へとなり下がった。その後いかなることがあってもフアナは父親を頼ることはしなかった。
けれど、だからこそ心の中でただひとり自分を裏切らない存在として兄をカールだけは信じていた。信じたかったが王城に行く機会があっても彼は一度もフアナの元を訪れてはくれなかった。
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「お兄様は王城なら安心だって思っていらっしゃるのですね」
そう答えてアルカイックスマイルを浮かべたのは私ではない、いや、私だがこれはフアナだ。
「そうだろう、王妃になる予定のお前を守ってくれる安全な……」
「エミリーは王家が付けた侍女です」
全てを遮断するように冷たく吐き出す絶対零度。まさに氷の令嬢の異名を持っていたフアナだ。自分であるけれど百獣の女王、燃える闘魂の異名を持つ私とは真逆のその佇まいにキュンとしていた。まずい、ナルシストになりそうだ。
「……そうだが」
「お兄様は、ご存じありませんか??王太子殿下と私の仲に関する噂を」
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(そうだけど、そうじゃないのよ)
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多分、フアナのままならこれ以上は何も言わないのだろう。けれど、私は黙っていることはできなかった。
「城の中の連中は、初めからフアナに冷たかった。きっとあちらから打診したなんて王家は下々のものに伝えていない。その証拠よ」
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「なっ、なにし……えっ??」
はじめはいきなり始まったストリップに驚いたカールだったが、すぐにそれに気づいた。今の尻の皮膚に残る虐待の跡……鞭で何度も叩かれたことで治らない傷跡。
カールが目を見開くのを確認して私はパンツを再び穿いてスカートを元に戻した。
「どうして、そんな……」
「王妃教育の時に、確か子爵の夫人のマナー講師が私を何度も鞭で叩いてできた傷。ストレスを発散するように些細な事で叩かれて完全に傷になってるんだよ。でも見えないところ、いや、見せないところだから今までバレなかったし、フアナは恥だとおもってずっと隠していた」
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