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09.思いもよらない事態(アウストリア公爵(フアナ父視点)視点)
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少し時間は遡り……フアナがナチュラルな人間の臭いからキラキラに磨かれて夢の国に旅立った辺りの話です。
「フアナが完全に放置されていただと??」
「はい、間違えございません」
本宅の執務室に座っている私に、家令がフアナの口にした件についての報告に訪れて聞いた内容に私は呆然としていた。
(なぜ、どうしてそんなことになった??まさかあのクリスティーナがこんなに残酷な仕打ちをしたというのか??)
そこまで考えて体の中を流れている血が冷えていくような、静かな怒りの感情を感じた。
カールとフアナの母である、カタリナとの結婚は確かに政略結婚だった。現在の正室である皇后様の従姉妹にあたるカタリナは絵にかいたような淑女だった。
美しい銀の髪にまるでサファイアのような瞳をしていた彼女は、社交界では月の女神と呼ばれているほどの美貌の持ち主だった。
だから、カタリナがどう私を想っていたかは知らないが少なくとも私は、カタリナを妻として愛していたし、亡くなった後も唯一の女性として愛し続けている。
(カタリナ……)
机の上に伏せられた写真立てには薄く埃が積もっている。他の物は磨かれているのにそれだけはあの日、これを伏せた時から動かされていないらしい。この執務室には長い間帰れなかった。
クリスティーナは、側妃様の妹であったが結婚した相手が病死し、婚家からは追い出されてしまった後で、妊娠が発覚し、ろくに支援も受けられないまま実家で子を育てていたらしい。
しかし、出戻りであることもあり実家でも肩身が狭い思いをしていると姉の側妃に泣きついたことで同じく妻を亡くした子持ちの私に再婚相手としての白羽の矢がたったのだ。
はじめて会った彼女は姉である側妃様とは真逆の慎ましい女性に見えた。けれどカタリナだけを愛していたことと正妃様側であるアウストリア公爵としては、彼女と再婚することは望ましくなかったので一度断りを入れていた。
しかし、そんな最中に領地で酷い魔物の被害と災害が起きてしまい急ぎで向かわないといけなくなってしまい、本宅を守る女主人が急遽必要になった。
本当は叔父である辺境伯を頼ろうと思ったが、クリスティーナとの結婚せよとの王命が出てしまった。
ただ、それはあまりにもアウストリア公爵家にとって望ましい婚姻ではなかったのと、アウストリア公爵は王家と縁戚であるためある程度のことは言える立場だったので、私はクリスティーナと婚姻を結ぶにあたりいくつかの契約をした。
だからこそ、女主人としての権限を与えていても、安心してしまっていたがまさかフアナを害していたなんて当然許すわけにはいかない。
「……その指示を出したのはクリスティーナで間違いないとしたら、今この屋敷で雇っている全ての使用人を入れ替える必要があるな。領地のごたごたが落ち着いたのでそのままあちらの使用人達を連れてくればいい」
「待ってください、今まで奥様はこの家をよくするために女主人としての仕事をしっかりとされてきました。ですから今回の件も穏便に……」
リチャードのその言葉に、私は自分からこれほど冷たい声が出るのかというくらいの声色で答えた。
「家を良くしたいのなら、社交界で『私がカタリナと結婚していた頃からすでにクリスティーナと愛人関係だった』などというバカげた噂が流れているんだ??それに、フアナと1つしか差のないイザベラが私の実子であるとも吹聴しているそうだな。イザベラはこの家の娘でもないのに、それでもこの家を良くしていたなどと言えるのか??」
「それは……」
項垂れるリチャードに私は失望していた。リチャードは我が家に長年仕えている家令の家系の人間だ。それなのに何故、クリスティーナに唆されて家の評判を落としような真似をしたのか。
(この件についても調べる必要があるな、後、昨日フアナがメイドから取り上げたあの瓶の粉についてもこの分では早めに調べた方が良いだろう)
なにやら言い訳をしているリチャードを一旦追い出して、私は執務室にひとりになった。そして、それと同時に彼を呼び出した。
「アインハルト、話は聞いていただろう??」
「全く、ルータス、相変わらず君は無能だよね」
辛辣な言葉を吐きながら美しいプラチナブロンドの髪にアイスブルーの瞳をした少年が現れる。この口が悪い存在は魔法搭の主であり見た目は少年だが中身は年齢は私などよりはるかに上である。
彼とは、遠い昔にした契約があるため困った時は呼び出すことができた。
「そうだな、まさかフアナが……。アインハルト、この瓶の中身が何か調べて欲しい。それと……」
私は懐から1枚の手紙を彼に渡した。
「念のため叔父上にこの手紙を届けてほしい。なるべくなら迷惑はかけたくないが今回はそうも言ってられない気がしている」
「……この借りは高くつくからね」
不機嫌にそう返しながらもツンデレのアインハルトは、少し耳を赤くしながら薬と手紙を受け取ると煙のように消えた。
「クリスティーナをどうしたものか……」
今後の対策を考えることに必死だったため、背後に影が迫っていたことに私は気付くことができなかった。
「フアナが完全に放置されていただと??」
「はい、間違えございません」
本宅の執務室に座っている私に、家令がフアナの口にした件についての報告に訪れて聞いた内容に私は呆然としていた。
(なぜ、どうしてそんなことになった??まさかあのクリスティーナがこんなに残酷な仕打ちをしたというのか??)
そこまで考えて体の中を流れている血が冷えていくような、静かな怒りの感情を感じた。
カールとフアナの母である、カタリナとの結婚は確かに政略結婚だった。現在の正室である皇后様の従姉妹にあたるカタリナは絵にかいたような淑女だった。
美しい銀の髪にまるでサファイアのような瞳をしていた彼女は、社交界では月の女神と呼ばれているほどの美貌の持ち主だった。
だから、カタリナがどう私を想っていたかは知らないが少なくとも私は、カタリナを妻として愛していたし、亡くなった後も唯一の女性として愛し続けている。
(カタリナ……)
机の上に伏せられた写真立てには薄く埃が積もっている。他の物は磨かれているのにそれだけはあの日、これを伏せた時から動かされていないらしい。この執務室には長い間帰れなかった。
クリスティーナは、側妃様の妹であったが結婚した相手が病死し、婚家からは追い出されてしまった後で、妊娠が発覚し、ろくに支援も受けられないまま実家で子を育てていたらしい。
しかし、出戻りであることもあり実家でも肩身が狭い思いをしていると姉の側妃に泣きついたことで同じく妻を亡くした子持ちの私に再婚相手としての白羽の矢がたったのだ。
はじめて会った彼女は姉である側妃様とは真逆の慎ましい女性に見えた。けれどカタリナだけを愛していたことと正妃様側であるアウストリア公爵としては、彼女と再婚することは望ましくなかったので一度断りを入れていた。
しかし、そんな最中に領地で酷い魔物の被害と災害が起きてしまい急ぎで向かわないといけなくなってしまい、本宅を守る女主人が急遽必要になった。
本当は叔父である辺境伯を頼ろうと思ったが、クリスティーナとの結婚せよとの王命が出てしまった。
ただ、それはあまりにもアウストリア公爵家にとって望ましい婚姻ではなかったのと、アウストリア公爵は王家と縁戚であるためある程度のことは言える立場だったので、私はクリスティーナと婚姻を結ぶにあたりいくつかの契約をした。
だからこそ、女主人としての権限を与えていても、安心してしまっていたがまさかフアナを害していたなんて当然許すわけにはいかない。
「……その指示を出したのはクリスティーナで間違いないとしたら、今この屋敷で雇っている全ての使用人を入れ替える必要があるな。領地のごたごたが落ち着いたのでそのままあちらの使用人達を連れてくればいい」
「待ってください、今まで奥様はこの家をよくするために女主人としての仕事をしっかりとされてきました。ですから今回の件も穏便に……」
リチャードのその言葉に、私は自分からこれほど冷たい声が出るのかというくらいの声色で答えた。
「家を良くしたいのなら、社交界で『私がカタリナと結婚していた頃からすでにクリスティーナと愛人関係だった』などというバカげた噂が流れているんだ??それに、フアナと1つしか差のないイザベラが私の実子であるとも吹聴しているそうだな。イザベラはこの家の娘でもないのに、それでもこの家を良くしていたなどと言えるのか??」
「それは……」
項垂れるリチャードに私は失望していた。リチャードは我が家に長年仕えている家令の家系の人間だ。それなのに何故、クリスティーナに唆されて家の評判を落としような真似をしたのか。
(この件についても調べる必要があるな、後、昨日フアナがメイドから取り上げたあの瓶の粉についてもこの分では早めに調べた方が良いだろう)
なにやら言い訳をしているリチャードを一旦追い出して、私は執務室にひとりになった。そして、それと同時に彼を呼び出した。
「アインハルト、話は聞いていただろう??」
「全く、ルータス、相変わらず君は無能だよね」
辛辣な言葉を吐きながら美しいプラチナブロンドの髪にアイスブルーの瞳をした少年が現れる。この口が悪い存在は魔法搭の主であり見た目は少年だが中身は年齢は私などよりはるかに上である。
彼とは、遠い昔にした契約があるため困った時は呼び出すことができた。
「そうだな、まさかフアナが……。アインハルト、この瓶の中身が何か調べて欲しい。それと……」
私は懐から1枚の手紙を彼に渡した。
「念のため叔父上にこの手紙を届けてほしい。なるべくなら迷惑はかけたくないが今回はそうも言ってられない気がしている」
「……この借りは高くつくからね」
不機嫌にそう返しながらもツンデレのアインハルトは、少し耳を赤くしながら薬と手紙を受け取ると煙のように消えた。
「クリスティーナをどうしたものか……」
今後の対策を考えることに必死だったため、背後に影が迫っていたことに私は気付くことができなかった。
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