10 / 38
09.思いもよらない事態(アウストリア公爵(フアナ父視点)視点)
しおりを挟む
少し時間は遡り……フアナがナチュラルな人間の臭いからキラキラに磨かれて夢の国に旅立った辺りの話です。
「フアナが完全に放置されていただと??」
「はい、間違えございません」
本宅の執務室に座っている私に、家令がフアナの口にした件についての報告に訪れて聞いた内容に私は呆然としていた。
(なぜ、どうしてそんなことになった??まさかあのクリスティーナがこんなに残酷な仕打ちをしたというのか??)
そこまで考えて体の中を流れている血が冷えていくような、静かな怒りの感情を感じた。
カールとフアナの母である、カタリナとの結婚は確かに政略結婚だった。現在の正室である皇后様の従姉妹にあたるカタリナは絵にかいたような淑女だった。
美しい銀の髪にまるでサファイアのような瞳をしていた彼女は、社交界では月の女神と呼ばれているほどの美貌の持ち主だった。
だから、カタリナがどう私を想っていたかは知らないが少なくとも私は、カタリナを妻として愛していたし、亡くなった後も唯一の女性として愛し続けている。
(カタリナ……)
机の上に伏せられた写真立てには薄く埃が積もっている。他の物は磨かれているのにそれだけはあの日、これを伏せた時から動かされていないらしい。この執務室には長い間帰れなかった。
クリスティーナは、側妃様の妹であったが結婚した相手が病死し、婚家からは追い出されてしまった後で、妊娠が発覚し、ろくに支援も受けられないまま実家で子を育てていたらしい。
しかし、出戻りであることもあり実家でも肩身が狭い思いをしていると姉の側妃に泣きついたことで同じく妻を亡くした子持ちの私に再婚相手としての白羽の矢がたったのだ。
はじめて会った彼女は姉である側妃様とは真逆の慎ましい女性に見えた。けれどカタリナだけを愛していたことと正妃様側であるアウストリア公爵としては、彼女と再婚することは望ましくなかったので一度断りを入れていた。
しかし、そんな最中に領地で酷い魔物の被害と災害が起きてしまい急ぎで向かわないといけなくなってしまい、本宅を守る女主人が急遽必要になった。
本当は叔父である辺境伯を頼ろうと思ったが、クリスティーナとの結婚せよとの王命が出てしまった。
ただ、それはあまりにもアウストリア公爵家にとって望ましい婚姻ではなかったのと、アウストリア公爵は王家と縁戚であるためある程度のことは言える立場だったので、私はクリスティーナと婚姻を結ぶにあたりいくつかの契約をした。
だからこそ、女主人としての権限を与えていても、安心してしまっていたがまさかフアナを害していたなんて当然許すわけにはいかない。
「……その指示を出したのはクリスティーナで間違いないとしたら、今この屋敷で雇っている全ての使用人を入れ替える必要があるな。領地のごたごたが落ち着いたのでそのままあちらの使用人達を連れてくればいい」
「待ってください、今まで奥様はこの家をよくするために女主人としての仕事をしっかりとされてきました。ですから今回の件も穏便に……」
リチャードのその言葉に、私は自分からこれほど冷たい声が出るのかというくらいの声色で答えた。
「家を良くしたいのなら、社交界で『私がカタリナと結婚していた頃からすでにクリスティーナと愛人関係だった』などというバカげた噂が流れているんだ??それに、フアナと1つしか差のないイザベラが私の実子であるとも吹聴しているそうだな。イザベラはこの家の娘でもないのに、それでもこの家を良くしていたなどと言えるのか??」
「それは……」
項垂れるリチャードに私は失望していた。リチャードは我が家に長年仕えている家令の家系の人間だ。それなのに何故、クリスティーナに唆されて家の評判を落としような真似をしたのか。
(この件についても調べる必要があるな、後、昨日フアナがメイドから取り上げたあの瓶の粉についてもこの分では早めに調べた方が良いだろう)
なにやら言い訳をしているリチャードを一旦追い出して、私は執務室にひとりになった。そして、それと同時に彼を呼び出した。
「アインハルト、話は聞いていただろう??」
「全く、ルータス、相変わらず君は無能だよね」
辛辣な言葉を吐きながら美しいプラチナブロンドの髪にアイスブルーの瞳をした少年が現れる。この口が悪い存在は魔法搭の主であり見た目は少年だが中身は年齢は私などよりはるかに上である。
彼とは、遠い昔にした契約があるため困った時は呼び出すことができた。
「そうだな、まさかフアナが……。アインハルト、この瓶の中身が何か調べて欲しい。それと……」
私は懐から1枚の手紙を彼に渡した。
「念のため叔父上にこの手紙を届けてほしい。なるべくなら迷惑はかけたくないが今回はそうも言ってられない気がしている」
「……この借りは高くつくからね」
不機嫌にそう返しながらもツンデレのアインハルトは、少し耳を赤くしながら薬と手紙を受け取ると煙のように消えた。
「クリスティーナをどうしたものか……」
今後の対策を考えることに必死だったため、背後に影が迫っていたことに私は気付くことができなかった。
「フアナが完全に放置されていただと??」
「はい、間違えございません」
本宅の執務室に座っている私に、家令がフアナの口にした件についての報告に訪れて聞いた内容に私は呆然としていた。
(なぜ、どうしてそんなことになった??まさかあのクリスティーナがこんなに残酷な仕打ちをしたというのか??)
そこまで考えて体の中を流れている血が冷えていくような、静かな怒りの感情を感じた。
カールとフアナの母である、カタリナとの結婚は確かに政略結婚だった。現在の正室である皇后様の従姉妹にあたるカタリナは絵にかいたような淑女だった。
美しい銀の髪にまるでサファイアのような瞳をしていた彼女は、社交界では月の女神と呼ばれているほどの美貌の持ち主だった。
だから、カタリナがどう私を想っていたかは知らないが少なくとも私は、カタリナを妻として愛していたし、亡くなった後も唯一の女性として愛し続けている。
(カタリナ……)
机の上に伏せられた写真立てには薄く埃が積もっている。他の物は磨かれているのにそれだけはあの日、これを伏せた時から動かされていないらしい。この執務室には長い間帰れなかった。
クリスティーナは、側妃様の妹であったが結婚した相手が病死し、婚家からは追い出されてしまった後で、妊娠が発覚し、ろくに支援も受けられないまま実家で子を育てていたらしい。
しかし、出戻りであることもあり実家でも肩身が狭い思いをしていると姉の側妃に泣きついたことで同じく妻を亡くした子持ちの私に再婚相手としての白羽の矢がたったのだ。
はじめて会った彼女は姉である側妃様とは真逆の慎ましい女性に見えた。けれどカタリナだけを愛していたことと正妃様側であるアウストリア公爵としては、彼女と再婚することは望ましくなかったので一度断りを入れていた。
しかし、そんな最中に領地で酷い魔物の被害と災害が起きてしまい急ぎで向かわないといけなくなってしまい、本宅を守る女主人が急遽必要になった。
本当は叔父である辺境伯を頼ろうと思ったが、クリスティーナとの結婚せよとの王命が出てしまった。
ただ、それはあまりにもアウストリア公爵家にとって望ましい婚姻ではなかったのと、アウストリア公爵は王家と縁戚であるためある程度のことは言える立場だったので、私はクリスティーナと婚姻を結ぶにあたりいくつかの契約をした。
だからこそ、女主人としての権限を与えていても、安心してしまっていたがまさかフアナを害していたなんて当然許すわけにはいかない。
「……その指示を出したのはクリスティーナで間違いないとしたら、今この屋敷で雇っている全ての使用人を入れ替える必要があるな。領地のごたごたが落ち着いたのでそのままあちらの使用人達を連れてくればいい」
「待ってください、今まで奥様はこの家をよくするために女主人としての仕事をしっかりとされてきました。ですから今回の件も穏便に……」
リチャードのその言葉に、私は自分からこれほど冷たい声が出るのかというくらいの声色で答えた。
「家を良くしたいのなら、社交界で『私がカタリナと結婚していた頃からすでにクリスティーナと愛人関係だった』などというバカげた噂が流れているんだ??それに、フアナと1つしか差のないイザベラが私の実子であるとも吹聴しているそうだな。イザベラはこの家の娘でもないのに、それでもこの家を良くしていたなどと言えるのか??」
「それは……」
項垂れるリチャードに私は失望していた。リチャードは我が家に長年仕えている家令の家系の人間だ。それなのに何故、クリスティーナに唆されて家の評判を落としような真似をしたのか。
(この件についても調べる必要があるな、後、昨日フアナがメイドから取り上げたあの瓶の粉についてもこの分では早めに調べた方が良いだろう)
なにやら言い訳をしているリチャードを一旦追い出して、私は執務室にひとりになった。そして、それと同時に彼を呼び出した。
「アインハルト、話は聞いていただろう??」
「全く、ルータス、相変わらず君は無能だよね」
辛辣な言葉を吐きながら美しいプラチナブロンドの髪にアイスブルーの瞳をした少年が現れる。この口が悪い存在は魔法搭の主であり見た目は少年だが中身は年齢は私などよりはるかに上である。
彼とは、遠い昔にした契約があるため困った時は呼び出すことができた。
「そうだな、まさかフアナが……。アインハルト、この瓶の中身が何か調べて欲しい。それと……」
私は懐から1枚の手紙を彼に渡した。
「念のため叔父上にこの手紙を届けてほしい。なるべくなら迷惑はかけたくないが今回はそうも言ってられない気がしている」
「……この借りは高くつくからね」
不機嫌にそう返しながらもツンデレのアインハルトは、少し耳を赤くしながら薬と手紙を受け取ると煙のように消えた。
「クリスティーナをどうしたものか……」
今後の対策を考えることに必死だったため、背後に影が迫っていたことに私は気付くことができなかった。
17
お気に入りに追加
1,145
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます
葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。
しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。
お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。
二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。
「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」
アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。
「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」
「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」
「どんな約束でも守るわ」
「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」
これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。
※タイトル通りのご都合主義なお話です。
※他サイトにも投稿しています。
どう頑張っても死亡ルートしかない悪役令嬢に転生したので、一切頑張らないことにしました
小倉みち
恋愛
7歳の誕生日、突然雷に打たれ、そのショックで前世を思い出した公爵令嬢のレティシア。
前世では夥しいほどの仕事に追われる社畜だった彼女。
唯一の楽しみだった乙女ゲームの新作を発売日当日に買いに行こうとしたその日、交通事故で命を落としたこと。
そして――。
この世界が、その乙女ゲームの設定とそっくりそのままであり、自分自身が悪役令嬢であるレティシアに転生してしまったことを。
この悪役令嬢、自分に関心のない家族を振り向かせるために、死に物狂いで努力し、第一王子の婚約者という地位を勝ち取った。
しかしその第一王子の心がぽっと出の主人公に奪われ、嫉妬に狂い主人公に毒を盛る。
それがバレてしまい、最終的に死刑に処される役となっている。
しかも、第一王子ではなくどの攻略対象ルートでも、必ず主人公を虐め、処刑されてしまう噛ませ犬的キャラクター。
レティシアは考えた。
どれだけ努力をしても、どれだけ頑張っても、最終的に自分は死んでしまう。
――ということは。
これから先どんな努力もせず、ただの馬鹿な一般令嬢として生きれば、一切攻略対象と関わらなければ、そもそもその土俵に乗ることさえしなければ。
私はこの恐ろしい世界で、生き残ることが出来るのではないだろうか。
父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです
珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。
その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。
そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。
そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。
全ては望んだ結末の為に
皐月乃 彩月
恋愛
ループする世界で、何度も何度も悲惨な目に遭う悪役令嬢。
愛しの婚約者や仲の良かった弟や友人達に裏切られ、彼女は絶望して壊れてしまった。
何故、自分がこんな目に遇わなければならないのか。
「貴方が私を殺し続けるなら、私も貴方を殺し続ける事にするわ」
壊れてしまったが故に、悪役令嬢はヒロインを殺し続ける事にした。
全ては望んだ結末を迎える為に──
※主人公が闇落ち?してます。
※カクヨムやなろうでも連載しています作:皐月乃 彩月
とある悪役令嬢は婚約破棄後に必ず処刑される。けれど彼女の最期はいつも笑顔だった。
三月叶姫
恋愛
私はこの世界から嫌われている。
みんな、私が死ぬ事を望んでいる――。
とある悪役令嬢は、婚約者の王太子から婚約破棄を宣言された後、聖女暗殺未遂の罪で処刑された。だが、彼女は一年前に時を遡り、目を覚ました。
同じ時を繰り返し始めた彼女の結末はいつも同じ。
それでも、彼女は最期の瞬間は必ず笑顔を貫き通した。
十回目となった処刑台の上で、ついに貼り付けていた笑顔の仮面が剥がれ落ちる。
涙を流し、助けを求める彼女に向けて、誰かが彼女の名前を呼んだ。
今、私の名前を呼んだのは、誰だったの?
※こちらの作品は他サイトにも掲載しております
執着王子の唯一最愛~私を蹴落とそうとするヒロインは王子の異常性を知らない~
犬の下僕
恋愛
公爵令嬢であり第1王子の婚約者でもあるヒロインのジャンヌは学園主催の夜会で突如、婚約者の弟である第二王子に糾弾される。「兄上との婚約を破棄してもらおう」と言われたジャンヌはどうするのか…
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる