百獣最強と言われた私が転生したのは婚約破棄後に不治の病で死ぬ悪役令嬢でした

ひよこ麺

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08.フアナを冬の雀みたいにする騎士とイザベラに侍る騎士と忘れられたカール

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私の中のフアナの記憶がイザベラへの苦いもので満たされるのが分かった。彼女はまさにか弱い淑女を演じてしたたかに男を操るタイプだった。

「イザベラか、危ないから屋敷の中に戻れ」

カールが慌てた様子でそう告げるが何故かそのままその腕にしがみつくのが分かる。しかもそのあるかないかよくわからない胸を腕に押し付けながらわざとらしくまるで携帯のバイブレーション機能くらい小刻みに震えながらうっすら涙ぐんでいった。

「カールお兄様、イザベラ怖いですわ」

(自分のことを名前で呼ぶ女は大体あざとい。なるほど、女豹もどきだな)

女豹は峰〇二子のようなメリハリのあるボディにならないと流石に名乗れないと思うので、イザベラでは女豹もどきがいいところだろう。

しかし、その動作に大半の男は鼻の下を伸ばすはずだ。実際、カールの側に居る騎士達はデレデレしているのがわかる。

「怖いなら、俺にしなだれかかるより屋敷に戻るべきだ。おい、イザベラを護衛しながら屋敷へ戻ってほしい」

側のデレデレしていた騎士達にカールが声をかける姿に意外だなと思った。

今まで、いや、兄とは割と長らく会っていなかったので推測でしかないが、カールは義妹を可愛がっていると思っていた。しかし、義妹に対してもあまり優しくはないので元からそういう性格の疑惑も出てきた。

(よく考えたら緊縛名人だったのでドS的な性癖の持ち主なのかもしれない)

ぼんやりと、カールの様子を見ていた時だった。

「フアナお嬢様、これを羽織ってください」

そう言ってひとりの騎士が自身の羽織りを手渡した。中々に良い筋肉をした短髪黒髪の男らしい騎士で個人的には筋肉談義が出来そうな雰囲気の青年だったが、フアナの記憶にはない顔でもあった。

「ありがとう、貴方の名前は??」

「俺、いえ、私はジョンと申します」

家名がないということは平民出身の騎士のようだがフアナとして目覚めてから、昨日証言してくれたランドリーメイドと同じ位信頼がおけそうな人物だと野生の勘が告げている。

(筋肉を愛するものに悪い者は居ない)

何故なら、筋肉は裏切らないので、筋肉を愛する人も誠実だと経験的に思っている。だから、私はジョンから受け取った羽織りを纏ったが……。

「あ、フアナお嬢様、俺もこれを」

「抜け駆けはずるいぞ、これも受け取ってください」

「ああ、僕も負けないよ、あのこれを!!」

何故かあまり今まで接点がなかったはずの騎士達が私にどんどん羽織やマントを着せようとした。結果まるで冬の雀くらいに私は着ぶくれしてしまった。

(これはどういう状況なの??)

自体が読み取れず首を傾げていると、ジョンがとても心配そうな顔をしているのが分かった。そしてあり得ないことを口にし始めた。

「フアナお嬢様を襲ってドレスを切り裂くなんて、本当に酷い女です」

元々、ジョギングすべくこの姿できたのだけれど、何故か私は身ぐるみを剥がれた可哀そうな子という扱いを受けている。これは百獣の女王としては物凄く屈辱なので訂正しようとしたが私を冬の雀にした騎士達が続く。

「そうです、ああ、フアナお嬢様の美しい肌にお怪我はありませんか??」

「本当に、もし何かあったら僕が八つ裂きにしますから安心してください」

「……いや、この状況は……」

「フアナお姉様!!」

何故か説明しようとした時、いつの間にかこちらに来たらしいイザベラが睨みつけている。そして、思いがけない言葉を口にした。

「そんな恰好をして悲劇のヒロインぶって騎士達に同情を買うなんて、アウストリア公爵家の公女であり淑女である自覚はございませんの??」

周りのデレデレしている騎士達もその言葉にうんうんと頷いている。なんとも面倒くさいと感じながらイザベラをどうやって物理的に倒すか考えていると、いつの間にか冬の雀にした騎士達が私の前に守るように立ちふさがった。

「イザベラお嬢様、恐ろしい通り魔に襲われて悄然とされているフアナお嬢様様に何故そのようなことをおっしゃれるのですか??」

「通り魔??さっき連れていかれた女を見たがフアナお嬢様の専属メイドのエミリーだったのは確認しているんだよ。直接専属メイドに命じてそんなことするなんてひどい自作自演だ」

なんとも失礼な発言をしたイザベラが侍らせている騎士の顎割れは、今後確実に倒すべく顔と弱点を見つけるためにその姿をジッと凝視する。

(顎が割れているのだから、やはり顎が急所か??)

「……お前たち、妹らに気を取られて俺のことを忘れているようだな」
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