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07.百獣の女王VS暴走闘牛エミリー

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カールの言葉に2重に驚いた。

まず、ひとつ目は彼がフアナを嫌っていないと言っていた言葉、これについてはフアナの記憶がそれを否定している。幼い頃にふたりの実母が亡くなってからカールはフアナとほとんど接していない。

それでありながら、義妹とは仲良く過ごしているということはエミリーやら王妃教育をしている際に噂として小耳に挟んでいた。

もし、カールの言葉が嘘でないとしたら少なくともフアナを妹と認識しているのなら会いに来るなりするものではないだろうか。

また、もうひとつどうも私が動きやすいなと選んで着た服がどうやら下着だということだ。

どうみてもサバンナで修行していた時代よりもずっと布面積のある服なのにこれが下着だとしたらあの重くて動くことに全く適さない服を着てこれからは生活しないといけないということだろうか。

(そうなると、筋力トレーニングの方法も別の物で考えないといけない。病気を治すためにもまず裏切らない筋肉から鍛えようと考えていたのに……)

そんなことを考えていた時、近くの茂みから殺気を感じたので私はその気の正体を見極めるために集中する。何か兄のカールが言っているようだが、今はそれどころではない。

しばらく様子を見ていると、殺気を放つ人物が何の躊躇もなく私を襲おうと一直線に襲ってきた。あまりのことに動けないカールを無視して、私は無理やり包まれていたマントをまるでマタドールのようにひらめかせながら、一直線に向かってきた相手をヒラリとかわした。

かわした際に、マントがまるで暖簾のように真ん中から裂けたことで、そいつが刃物で切りつけようとしたということが分かるった。

丸腰の相手に刃物で立ち向かった不届き者。私の中の闘魂が燃える。

かわされた後に怒りに満ちた顔でこちらをさらに襲おうとした人物の顔を確認する、エミリーだった。

ただ、昨日までの狐のような雰囲気はなく、まるで興奮していきり立つ闘牛のような姿に私の中の百獣の女王の血が騒ぐのが分かった。

(闘牛を倒す方法は……)

私は、素早く脳内に戦をシュミレートする。闘牛で弱点の急所を一撃で貫くマタドールの姿が浮かぶ。

(これだ)

再度、刃物を持って襲い掛かろうと一直線に襲い掛かるエミリーの体を翻すようにひるがえしてから、後頭部にある急所を先ほどのマタドールのイメージで完璧に捕らえる。

ドス!!

「ぐっ……」

私の完璧な手刀を受けて喉がつぶれたカエルのような声を上げると、エミリーはその場に倒れこんだ。

「私は百獣の女王。闘牛に負けるほどやわではない」

前世、私が勝利した時のキメ台詞のひとつを口にする。最高の情熱が迸る場面に水を差すように今まで完全に硬直していた役立たず、もといカールが話しかけてきた。

「フアナ!!これは、どういうことだ??」

「見ての通り。私を襲ってきた刺客を無力化したのです。お兄様、早くその者を縛り上げてどこかに閉じ込めておいてください」

「いや、あのな……」

ごにょごにょ口ごもる姿に、冷ややかな目で見つめる。明らかに通り魔に襲われた妹の心配ができないのならやはり嫌われている認識に違いはないのだろう。そう思って気絶しているエミリーの体を肩に担いで移動しとうとすると、焦ったように私の前に来て兄が静止させた。

「ああ、そんな華奢な体で無茶するな、この女のことはこっちで処理する」

正直、フアナの体でもエミリー程度なら枕くらいのイメージで簡単に持ち上げられたのだがそのエミリーを兄が重そうにしながら奪ってから、どこからともなく取り出した縄で手慣れたように縛った。

そのあまりの手際の良さに、カールには緊縛趣味がある疑惑が生まれて、有難さよりチベットスナギツネのような顔で見つめてしまったけれど、カールはそれを気にせずにそのままエミリーはいつの間にかやってきていた騎士達により気絶したまま連れていかれた。

(そろそろ、立ち去っても問題ないわよね……)

一応、公女を狙った通り魔的な犯行であったので割と大ごとになっているようだが、私にもやることが沢山あるのと何よりお腹が空いたのでこの混乱に乗じて気配を消しながら部屋に戻ろうとした時だった。

「これは何の騒ぎ、すごく怖いわ~っ」

そう妙に鼻にかかった甘い声で言いながらこちらにやってきた見覚えのある赤毛に緑の瞳をした少女。間違いない、義妹のイザベラだった。
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