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【付記】
読まれなかった手紙
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すみれへ
本当は直接会って話さなければいけないと思うのですが、今の私にそんな勇気はありません。すみれも私の顔なんて見たくないでしょう。だから、クミンのマスターにこの手紙を託します。読んでくれるか分からないけど、今まで話せなかったこと、正直に書きます。
すみれは覚えてる? 私が初めてすみれの家に泊まりに行った日のことを。中学の時は私がバドミントン、すみれはチアダンスで忙しかったから、なかなか泊まりに行けなかったけど、部活がひと段落した中3の夏休み、ようやく実現したんだっけ。
亜弓先生が作ってくれたナポリタン、すみれがいつも自慢してた通り、とっても美味しかった。
ご飯の後は亜弓先生と文彦先生に英語を教えてもらったよね。私、英語が苦手だったでしょう。高校はもっと難しくなるし、英語頑張らなきゃ、と思っていた時期だったから、2人に丁寧に教えてもらえてすごく嬉しかったんだ。
文彦先生と私の誕生日が同じ9月22日だって偶然にもびっくり。夜は夜ですみれの部屋で一晩中喋ったね。よくあんなに喋ることあったなって思うけど、本当に楽しかった。
あれから、すみれの家に泊まりに行くのが待ち遠しくて仕方なかった。文彦先生の教え方がとても上手くて、2学期から私の英語の成績上がったの、すみれも知ってるよね。冬休みに泊まりに行った時も、すぐ次はいつかなって思ってた。文彦先生が自分のパパだったら良かったのにって本気で思った。
あれは忘れもしない、中等部を卒業した春休みにすみれの家に泊まりに行った時のことだった。
もう寝なさいって亜弓先生に怒られるまで二人で喋ってたから、私がお風呂に入ったのは、もう夜遅い時間だった。
お風呂から出た時、脱衣所の扉が急に開いて、私、びっくりしたの。そこには文彦先生が立ってて、向こうもすごくびっくりした顔してた。
私はあわててバスタオルで身体を隠そうとしたんだけど、友達のお父さん、それも学校の先生に裸を見られたのがすごくショックで……。手が動かなくなって、どうしていいか分からなくて固まっちゃったの。
お互い、しばらくの間呆然としてたと思う。気が付いたら抱きしめられて、キスされた。キスしたの、その時が初めてだった。頭がボーッとして、自分が何されてるか分からなかった。
キスの後、文彦先生に「あさってまたおいで。英語、教えてあげるから」って言われたんだ。それから、「今日のことは誰にも話しちゃダメだよ」って。だから裸を見られたこと、キスされたこと、誰にも言えなかった。
言われた通りの日にすみれの家に行ったら、家には文彦先生しか居なかった。後で知ったんだけど、すみれは高等部のチアダンス部の見学に、亜弓先生は出張だったんだよね。文彦先生は私に「この前はごめん」と言いながら、また抱きしめてきたの。私、また頭がボーッとしちゃって、動けなくなったんだ。
そうしたら文彦先生がこう言ったの。すみれが生まれてから、亜弓先生とはずっとセックレスだったんだって。二人とも教師やってるし、家事も育児も分担だったから、それでも当たり前だと思ってたんだって。
それが、思いがけず娘の友達の裸を見て、うろたえるくらい興奮したんだって寂しそうに言ったの。自分が男だって思い出したって悲しそうに言ったの。それで我慢できなくなってキスしたんだって。
それ聞いたら私、何だか無性に文彦先生が愛おしく思えてきたんだ。私、すみれと違って成績は中くらいだったし、バドミントン部でもパッとしなかったし、スタイルだってすみれにはとてもかなわないし、自分に自信が持てなかった。いつもすみれに引け目を感じてた。あんないいお父さんがいるのに嫉妬してた。そんな私なんかに、尊敬する先生が反応してくれたんだと思ったら、無性に愛おしくなったんだ。
だからあの日、文彦さんに自然に抱かれてた。
嬉しかった。
初めての相手が文彦さんで良かったと心から思った。
それから、すみれの家に泊まりに行くのがもっと楽しみになった。部活も勉強も頑張れた。すみれや亜弓先生に悪いことしてるって思う気持ちもあったけど、それより文彦さんの存在がどんどん心の中で大きくなっていった。
大学に入ってからは、文彦さんの出張や講演会に一緒に行くようになったんだ。日本全国、いろんなところに連れて行ってもらった。なんか、夫婦になれたみたいで嬉しかった。
すみれが純平くんと付き合うようになって、私の家に泊まったことにして欲しいって頼まれた時は、逆にラッキーだなと思ったの。だって、そういう日はすみれが家に帰ってこないから、文彦さんと一緒のベッドで寝られるんだと思って。
今、私のお腹には赤ちゃんがいます。昨日、病院に行って分かったんだ。まだ3ヶ月に入ったばかり。誰にも言ってません。もちろん、文彦さんにも。
文彦さんがなんて言うか分からないけど、私、この子を産みたい。
すみれに見られてから、文彦さん、私のこと避けるようになった。すみれのこともすごく心配してる。家庭を壊すつもりはないってはっきり私に言ったの。
こうなってみて、私は初めて自分のしてきたことが、いかに虚しいことだったのか気が付きました。遅すぎるよね。
それでも私、産みたい。文彦さんを愛していた気持ちは嘘じゃないから。
大学は辞めるつもりです。
エイプリルフールの日に言ったこと、あれ、本当になっちゃった。
すみれや亜弓先生を裏切っていたこと、本当にごめんなさい。
もう二度と会ってもらえないと思うけど、すみれと友達になれてよかった。
今まで本当にありがとう。
そして、本当に、本当に、ごめんなさい。
美咲
本当は直接会って話さなければいけないと思うのですが、今の私にそんな勇気はありません。すみれも私の顔なんて見たくないでしょう。だから、クミンのマスターにこの手紙を託します。読んでくれるか分からないけど、今まで話せなかったこと、正直に書きます。
すみれは覚えてる? 私が初めてすみれの家に泊まりに行った日のことを。中学の時は私がバドミントン、すみれはチアダンスで忙しかったから、なかなか泊まりに行けなかったけど、部活がひと段落した中3の夏休み、ようやく実現したんだっけ。
亜弓先生が作ってくれたナポリタン、すみれがいつも自慢してた通り、とっても美味しかった。
ご飯の後は亜弓先生と文彦先生に英語を教えてもらったよね。私、英語が苦手だったでしょう。高校はもっと難しくなるし、英語頑張らなきゃ、と思っていた時期だったから、2人に丁寧に教えてもらえてすごく嬉しかったんだ。
文彦先生と私の誕生日が同じ9月22日だって偶然にもびっくり。夜は夜ですみれの部屋で一晩中喋ったね。よくあんなに喋ることあったなって思うけど、本当に楽しかった。
あれから、すみれの家に泊まりに行くのが待ち遠しくて仕方なかった。文彦先生の教え方がとても上手くて、2学期から私の英語の成績上がったの、すみれも知ってるよね。冬休みに泊まりに行った時も、すぐ次はいつかなって思ってた。文彦先生が自分のパパだったら良かったのにって本気で思った。
あれは忘れもしない、中等部を卒業した春休みにすみれの家に泊まりに行った時のことだった。
もう寝なさいって亜弓先生に怒られるまで二人で喋ってたから、私がお風呂に入ったのは、もう夜遅い時間だった。
お風呂から出た時、脱衣所の扉が急に開いて、私、びっくりしたの。そこには文彦先生が立ってて、向こうもすごくびっくりした顔してた。
私はあわててバスタオルで身体を隠そうとしたんだけど、友達のお父さん、それも学校の先生に裸を見られたのがすごくショックで……。手が動かなくなって、どうしていいか分からなくて固まっちゃったの。
お互い、しばらくの間呆然としてたと思う。気が付いたら抱きしめられて、キスされた。キスしたの、その時が初めてだった。頭がボーッとして、自分が何されてるか分からなかった。
キスの後、文彦先生に「あさってまたおいで。英語、教えてあげるから」って言われたんだ。それから、「今日のことは誰にも話しちゃダメだよ」って。だから裸を見られたこと、キスされたこと、誰にも言えなかった。
言われた通りの日にすみれの家に行ったら、家には文彦先生しか居なかった。後で知ったんだけど、すみれは高等部のチアダンス部の見学に、亜弓先生は出張だったんだよね。文彦先生は私に「この前はごめん」と言いながら、また抱きしめてきたの。私、また頭がボーッとしちゃって、動けなくなったんだ。
そうしたら文彦先生がこう言ったの。すみれが生まれてから、亜弓先生とはずっとセックレスだったんだって。二人とも教師やってるし、家事も育児も分担だったから、それでも当たり前だと思ってたんだって。
それが、思いがけず娘の友達の裸を見て、うろたえるくらい興奮したんだって寂しそうに言ったの。自分が男だって思い出したって悲しそうに言ったの。それで我慢できなくなってキスしたんだって。
それ聞いたら私、何だか無性に文彦先生が愛おしく思えてきたんだ。私、すみれと違って成績は中くらいだったし、バドミントン部でもパッとしなかったし、スタイルだってすみれにはとてもかなわないし、自分に自信が持てなかった。いつもすみれに引け目を感じてた。あんないいお父さんがいるのに嫉妬してた。そんな私なんかに、尊敬する先生が反応してくれたんだと思ったら、無性に愛おしくなったんだ。
だからあの日、文彦さんに自然に抱かれてた。
嬉しかった。
初めての相手が文彦さんで良かったと心から思った。
それから、すみれの家に泊まりに行くのがもっと楽しみになった。部活も勉強も頑張れた。すみれや亜弓先生に悪いことしてるって思う気持ちもあったけど、それより文彦さんの存在がどんどん心の中で大きくなっていった。
大学に入ってからは、文彦さんの出張や講演会に一緒に行くようになったんだ。日本全国、いろんなところに連れて行ってもらった。なんか、夫婦になれたみたいで嬉しかった。
すみれが純平くんと付き合うようになって、私の家に泊まったことにして欲しいって頼まれた時は、逆にラッキーだなと思ったの。だって、そういう日はすみれが家に帰ってこないから、文彦さんと一緒のベッドで寝られるんだと思って。
今、私のお腹には赤ちゃんがいます。昨日、病院に行って分かったんだ。まだ3ヶ月に入ったばかり。誰にも言ってません。もちろん、文彦さんにも。
文彦さんがなんて言うか分からないけど、私、この子を産みたい。
すみれに見られてから、文彦さん、私のこと避けるようになった。すみれのこともすごく心配してる。家庭を壊すつもりはないってはっきり私に言ったの。
こうなってみて、私は初めて自分のしてきたことが、いかに虚しいことだったのか気が付きました。遅すぎるよね。
それでも私、産みたい。文彦さんを愛していた気持ちは嘘じゃないから。
大学は辞めるつもりです。
エイプリルフールの日に言ったこと、あれ、本当になっちゃった。
すみれや亜弓先生を裏切っていたこと、本当にごめんなさい。
もう二度と会ってもらえないと思うけど、すみれと友達になれてよかった。
今まで本当にありがとう。
そして、本当に、本当に、ごめんなさい。
美咲
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