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第七章 裏切らない人
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「くッ、はあぁぁぁ……。ねぇぇ、も、もうイカせてください。もっと激しく、つ、突いてぇぇ。こんなのイヤぁぁ」
ベッドに突っ伏し、ヒップを高々と上げた格好ですみれはバックから貫かれていた。両手は麻縄で後ろに縛り上げられ、胸がきつく絞り出されている。連日にわたって男性ホルモンを注ぎ込まれたせいか、パンパンに張った乳房は何だか少し大きくなった気がした。
長門はペニスが奥まで届かないよう、細いウエストを両手でコントロールしてゆっくり抜き差ししている。すみれがイキそうになるとピタッと動きを止めて、触れるか触れないかのところで乳首を弄んでいた。
「ンあぁぁぁ。どうして意地悪するの……。こ、こんな焦ったいの、もうイヤッ。お願いします、お願いだから奥まで挿れてぇぇ。乳首も、もっと……」
長門は中指の第二関節までアナルに突っ込むと、ゆっくり動かした。
「はぁぁぁッ! ダメッ、ダメよッ、そっちじゃないのッ。そんなとこ、汚いからやめてぇぇ」
悲鳴とは裏腹に、菊穴をほぐされると、鳥の羽根で脳味噌をくすぐられているような妖しい快感が湧き上がってくる。
「アナルの良さは病みつきになるんだろ、すみれ。だから西巻先生もやめられないんだよな」
「イヤぁぁ、お、お父さんのことは言わないで……」
「美咲ちゃんも、もう掘られてるんじゃないのか、西巻先生に」
「やめてッ! そんな話、聞きたくない。もうお父さんや美咲のことは……ン、くッ、はあぁぁぁぁ……」
「ははは、オマンコに入ったチンポとサンドウィッチされてるの、分かるだろ」
「ああ、ダメぇぇ。そんな、か、掻き回したらダメになっちゃうぅ。くッ、狂っちゃうよ、もう……」
長門がグイッと腰を突き出した。
「ンンン、はぁぁ、気持ちイイッ! イイッ、イイの」
「そんなにこのチンポがいいのか、すみれは。じゃあ、いつものおねだり、してもらおうか。キチンとできたら動かしてやる」
「ン、あン、言います、だからお願い、もっと奥まで……。すみれの、いやらしいオマンコに、サトシさんのぶっといチンポ挿れてください……。も、もうサトシさんのチンポじゃなきゃダメなのッ」
「純平のじゃなくていいのか」
「イヤよッ、じゅ、純平のことも、もう言わないでッ。すみれはサトシさんの女です、だ、だから、もう意地悪しないで。早く挿れてください、奥まで突いてくださいッ」
パシーン、パシーン。
「ああぁ、い、痛いッ」
真っ赤な手の跡がすみれのヒップに刻み込まれる。と、同時に強烈なピストン運動が始まった。
腰を掴む両手を時折離して平手で尻肉を叩きながら、長門はグイグイと責めたてていく。
膣道が巨根で埋め尽くされる圧迫感と平手打ちの痛みがすみれの性感を交互に刺激する。カリ首が子宮に押し付けられると媚声がひときわ大きくなった。
「くッ、気持ちイイッ! イクイク、イっちゃうぅぅ。、も、もうダメ、もう死んじゃうッ! イクッ、イクッ、はぁぁぁぁ……ね、ねぇぇ、サトシさん、ちょうだいッ。すみれのオマンコにいっぱいかけてッ」
膣壁が肉棒をキューッと締め付けた。快感を余さず貪るように。
「うおぉぉぉぉ。すみれ、気持ちイイぞ、すっかり俺のオマンコになったな。いっぱい中にかけてやるからな」
「あぁぁぁ……嬉しい。すごい、来て……中に出してぇぇぇ」
ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ。
熱いシャワーがこれでもかと注がれるのを、すみれは子宮で感じた。
(はぁぁぁ。なんで、なんでこんなに気持ちイイの……)
白濁液を膣奥に浴びて、頭の中まで真っ白になる。全身を駆け巡る多幸感に包まれながら、すみれは深いオルガスムスに浸っていた。
クミンに転がり込んで二週間がたとうとしていた。長門は朝に晩に求めてくる。セックス漬けの毎日で、肉体はすっかり開発されていた。
女の悦びを知った身体は、快楽を求めてどんどん貪欲になっている。特に縄で縛られて貫かれると、狂ったように反応してしまうのだ。身も心も長門に委ねることによって、すみれは快感とともに心の安寧を感じるようになっていた。
キャンパスの一角ではスミレが見ごろを迎えている。深い紫が鮮やかな花壇の横には、女子学生を見守るように銅像が立っていた。
柊木フミ。この花をこよなく愛したと言われる学園の創設者だ。
昔はこの胸像の前を通る時に軽く一礼するのが柊泉の学生のたしなみとされていたが、そんな習慣もすたれて久しい。学園のOGでもある母の亜弓からそのことを聞かされていたすみれは、今では数少ない、一礼する学生の一人だった。
「すみれ、手話サークル辞めたんだって?」
授業が終わると、高校の時のクラスメイトが話しかけてきた。
「え、ああ。うん」
「だったらうち、入らない? 結構本気でやってるのよ」
ラケットを振る仕草をしながら誘ってきた。確か、高校時代はテニス部だったはずだ。
「女子はうちだけ、男の子は文嘉大だけなの」
「文嘉大、か」
あれから純平とは一切連絡を取っていない。あんなに好きだったのに。
浮気されたのは今でもショックだが、自分も長門とのセックスに溺れてしまった負い目がある。
ただあの文嘉大の部長、玲子さんだっけ、あの人だけは許せない。あんな画像を純平のスマホから送ってくるなんて、悪意しか感じない。どちらにしろ、もう元の鞘に戻れるはずはなかった。
「実は今、留学考えてるんだ。誘ってくれて悪いんだけど」
適当な理由をつけて断ると、教室を後にした。
クミンはそろそろ中休みに入る頃だ。急いで帰る必要はない。構内を南北に走るメイン通りを歩きながら、すみれはいつもの癖でバッグの中からスマホを取り出そうとして思い出した。
(あれ? ああ、そういえば、もう持ってないんだ)
文彦と美咲の不倫現場を目撃してしまってから、すみれはスマホを解約した。二人からメッセージや電話が来るのが煩わしかったからだ。純平の二股写真もトラウマになっていた。周りの友人には「なんで?」と不思議がられたが、「スマホばっかり見てる生活に疲れちゃって」と言い訳していた。
友達がSNSに写真をアップするたびに、「いいね」を付けてまわっていた。他愛もない食べ物やありふれた風景でも、リアクションすることが大事なのだ。
スマホを持たなくなって分かったことがある。「いいね」をしなくてもいい生活、それはそれで結構快適だ。
バッグの中の手が一通の封筒に当たった。
「これ、美咲ちゃんから預かった」
バイトを切り上げて三限の授業に出る前、長門から手渡されたものだ。開店前、すみれが店に出ていない時間を見計らうように来たのだという。
「読んでも読まなくても、好きにしてくれ。なんか思い詰めた顔してたぞ、美咲ちゃん。ま、とにかく渡したからな」
長門も扱いに困っていたようだ。すみれに渡してホッとしたような表情を浮かべていた。
腑に落ちなかったことも、今なら説明がつく。父が純平との交際を知っていたのは、美咲から聞いたのだろう。美咲が自分の恋愛は一切語らずにはぐらかしていたことも。喋れる訳がなかった。
バッグの中で封筒を弄びながら、いろんなことを思い出す。そう言えば父に不倫は絶対ダメだからね、とクギを刺した時、なんか妙な表情をしてたっけ。あれ、美咲のことだったんだ……。
上の空で歩いていたから、急に「すみれちゃん」と声をかけられびっくりした。
「どうしたの、難しい顔して」
「あ、詩織先生……」
ピンクのジャージ姿でも女子高生とは一線を画す色香が漂っていて、思わずドキドキした。
「今年は新入生がたくさん入ってきてくれたわ。入学式のパフォーマンスが良かったのかしら」
笑顔が眩しい。
(詩織先生もセックスするのかな。エッチな声あげたりするのかな……)
なんだか無性に聞いてみたくなった。
「詩織先生って、お付き合いしてる人、いるんですか?」
「なーに、いきなり」
「だって、なんだかすごく綺麗になった気がするから」
「あー、それじゃ、今まではそうじゃなかったみたいじゃない」
詩織は口を尖らす真似をする。
「……ごめんなさい。そういうつもりじゃなくて」
「嘘よ。学生時代はいたけど、今は誰もいないわ、そういう人は。今はいい先生になるのが一番で、そんな余裕ないもの。変わったとすれば……そうね、強いて言えば、悩みが一つ消えたから、かしら。指導教員、大橋先生から西巻先生に代わったの。西巻先生が教頭先生に掛け合ってくれてね。すごいやりやすくなったわ。お父さんにお礼言っておいて」
「……はい」
「西巻先生、おうちでも頼りになるでしょう?」
どうやらすみれが家を飛び出したことは伝わっていないらしい。大橋に盗撮されていたことも詳しいことは知らされていないに違いない。スカートの中を撮られてたなんて聞いたら、ショックで学校になんか来られないだろう。
(何にも知らないんだ……ま、そうだよね)
「ねぇ、詩織先生、一つお願いがあるんですけど」
「何?」
「職員室にシュレッダー、ありますよね。これ、裁断して欲しいんですけど」
すみれは美咲からの手紙を差し出した。
「いいけど……なに、これ」
「バイト先で男の人から渡されちゃって……気持ち悪いから処分したいんです」
「まだ中見てないんでしょ。いいの?」
「はい。全然タイプじゃなかったんで。読みたかったら読んでもいいですよ。でも処分はちゃんとして下さい」
「すみれちゃん宛てのラブレターか。何が書いてあるのかしらね。とにかく処分は任せて。じゃあ、私は部活あるから。たまには練習にも顔見せて。麻紀たちも喜ぶわ」
「はい」
封筒を片手に立ち去る詩織を見送りながら、すみれは心の中で呟いた。
詩織先生の思ってるような人じゃないの、うちのお父さんは。学校では違う顔をしてるかもしれないけど、娘の親友と不倫してるの。いやらしいセックスしてるの……。
ドロドロした気持ちを溶かすような、さわやかな春の陽光が降り注いでいる。詩織と別れたすみれは胸像にペコリと頭を下げると、真向かいにあるベンチに腰を下ろした。
「んー、いい気持ち」
両腕を青空に向かって伸ばした。いつもは賑やかな平日のキャンパスも、大型連休の谷間とあって今日は休講にしている教授も多い。学生はまばらだった。ついついメッセージを確認しようとしてしまって苦笑いする。やっぱりスマホがないと手持ち無沙汰だ。
「さてと、戻ろうかな」
立ち上がろうとした瞬間、視界の先に長門の姿が見えた。
「お、すみれ、こんなところで授業サボってるのか」
「もう終わりました。出前ですか」
長門はスッと並んで腰掛ける。
「文学部の小岩井教授のところに行ってきたんだ。あの先生、カレーは食べに来ないのに、コーヒーの出前はやけに多いんだよな。すみれも授業取ってるんだろ。今度カレーも食べに来るように言っておいてくれよ。それにしても、いい天気だなぁ」
長門まで両腕を伸ばすのが可笑しくて、思わず、ふふふ、と声を上げて笑ってしまう。
「なんだ、いい天気がそんなおかしいか?」
とんちんかんな顔をしている長門を見ながら、すみれはふと思った。周りから見たら、私達ってどんな風に映るんだろう……。
そんなことを考えていると、出し抜けに声をかけられた。
「今日は夜営業はやめだ。この前のトラットリア、予約したから。もうワインも堂々と飲めるだろ」
「え?」
「バースデーケーキ付きだぞ」
いろんなことがあり過ぎて、すっかり忘れていた。今日がハタチの誕生日だったことを。
長門の左手が伸びてくる。首筋を掴まれると、顔が迫ってきた。
「ダメよッ、学校でなんて」
「人なんていないじゃないか。誰も見てないよ」
顔は万力でガッチリ固定されたように動かない。それでもなんとか逃れようと抵抗する。
「ダメッ。柊木先生が見てるもん。あッ、ン、ンン……」
あっという間に舌を絡め取られた。
「ンン……ン、ね、ねぇ、ン、ンぁぁぁ」
真昼間の濃厚なキスに膣奥が熱くなってくる。
もう、ここがキャンパスだとかどうでも良く思えてきた。
(この人は、サトシさんは私を裏切らない……)
身体から力がスーッと抜けていく。
すみれは両手を長門の首に回すと、長い舌をそっと差し出すのだった。(完)
ベッドに突っ伏し、ヒップを高々と上げた格好ですみれはバックから貫かれていた。両手は麻縄で後ろに縛り上げられ、胸がきつく絞り出されている。連日にわたって男性ホルモンを注ぎ込まれたせいか、パンパンに張った乳房は何だか少し大きくなった気がした。
長門はペニスが奥まで届かないよう、細いウエストを両手でコントロールしてゆっくり抜き差ししている。すみれがイキそうになるとピタッと動きを止めて、触れるか触れないかのところで乳首を弄んでいた。
「ンあぁぁぁ。どうして意地悪するの……。こ、こんな焦ったいの、もうイヤッ。お願いします、お願いだから奥まで挿れてぇぇ。乳首も、もっと……」
長門は中指の第二関節までアナルに突っ込むと、ゆっくり動かした。
「はぁぁぁッ! ダメッ、ダメよッ、そっちじゃないのッ。そんなとこ、汚いからやめてぇぇ」
悲鳴とは裏腹に、菊穴をほぐされると、鳥の羽根で脳味噌をくすぐられているような妖しい快感が湧き上がってくる。
「アナルの良さは病みつきになるんだろ、すみれ。だから西巻先生もやめられないんだよな」
「イヤぁぁ、お、お父さんのことは言わないで……」
「美咲ちゃんも、もう掘られてるんじゃないのか、西巻先生に」
「やめてッ! そんな話、聞きたくない。もうお父さんや美咲のことは……ン、くッ、はあぁぁぁぁ……」
「ははは、オマンコに入ったチンポとサンドウィッチされてるの、分かるだろ」
「ああ、ダメぇぇ。そんな、か、掻き回したらダメになっちゃうぅ。くッ、狂っちゃうよ、もう……」
長門がグイッと腰を突き出した。
「ンンン、はぁぁ、気持ちイイッ! イイッ、イイの」
「そんなにこのチンポがいいのか、すみれは。じゃあ、いつものおねだり、してもらおうか。キチンとできたら動かしてやる」
「ン、あン、言います、だからお願い、もっと奥まで……。すみれの、いやらしいオマンコに、サトシさんのぶっといチンポ挿れてください……。も、もうサトシさんのチンポじゃなきゃダメなのッ」
「純平のじゃなくていいのか」
「イヤよッ、じゅ、純平のことも、もう言わないでッ。すみれはサトシさんの女です、だ、だから、もう意地悪しないで。早く挿れてください、奥まで突いてくださいッ」
パシーン、パシーン。
「ああぁ、い、痛いッ」
真っ赤な手の跡がすみれのヒップに刻み込まれる。と、同時に強烈なピストン運動が始まった。
腰を掴む両手を時折離して平手で尻肉を叩きながら、長門はグイグイと責めたてていく。
膣道が巨根で埋め尽くされる圧迫感と平手打ちの痛みがすみれの性感を交互に刺激する。カリ首が子宮に押し付けられると媚声がひときわ大きくなった。
「くッ、気持ちイイッ! イクイク、イっちゃうぅぅ。、も、もうダメ、もう死んじゃうッ! イクッ、イクッ、はぁぁぁぁ……ね、ねぇぇ、サトシさん、ちょうだいッ。すみれのオマンコにいっぱいかけてッ」
膣壁が肉棒をキューッと締め付けた。快感を余さず貪るように。
「うおぉぉぉぉ。すみれ、気持ちイイぞ、すっかり俺のオマンコになったな。いっぱい中にかけてやるからな」
「あぁぁぁ……嬉しい。すごい、来て……中に出してぇぇぇ」
ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ。
熱いシャワーがこれでもかと注がれるのを、すみれは子宮で感じた。
(はぁぁぁ。なんで、なんでこんなに気持ちイイの……)
白濁液を膣奥に浴びて、頭の中まで真っ白になる。全身を駆け巡る多幸感に包まれながら、すみれは深いオルガスムスに浸っていた。
クミンに転がり込んで二週間がたとうとしていた。長門は朝に晩に求めてくる。セックス漬けの毎日で、肉体はすっかり開発されていた。
女の悦びを知った身体は、快楽を求めてどんどん貪欲になっている。特に縄で縛られて貫かれると、狂ったように反応してしまうのだ。身も心も長門に委ねることによって、すみれは快感とともに心の安寧を感じるようになっていた。
キャンパスの一角ではスミレが見ごろを迎えている。深い紫が鮮やかな花壇の横には、女子学生を見守るように銅像が立っていた。
柊木フミ。この花をこよなく愛したと言われる学園の創設者だ。
昔はこの胸像の前を通る時に軽く一礼するのが柊泉の学生のたしなみとされていたが、そんな習慣もすたれて久しい。学園のOGでもある母の亜弓からそのことを聞かされていたすみれは、今では数少ない、一礼する学生の一人だった。
「すみれ、手話サークル辞めたんだって?」
授業が終わると、高校の時のクラスメイトが話しかけてきた。
「え、ああ。うん」
「だったらうち、入らない? 結構本気でやってるのよ」
ラケットを振る仕草をしながら誘ってきた。確か、高校時代はテニス部だったはずだ。
「女子はうちだけ、男の子は文嘉大だけなの」
「文嘉大、か」
あれから純平とは一切連絡を取っていない。あんなに好きだったのに。
浮気されたのは今でもショックだが、自分も長門とのセックスに溺れてしまった負い目がある。
ただあの文嘉大の部長、玲子さんだっけ、あの人だけは許せない。あんな画像を純平のスマホから送ってくるなんて、悪意しか感じない。どちらにしろ、もう元の鞘に戻れるはずはなかった。
「実は今、留学考えてるんだ。誘ってくれて悪いんだけど」
適当な理由をつけて断ると、教室を後にした。
クミンはそろそろ中休みに入る頃だ。急いで帰る必要はない。構内を南北に走るメイン通りを歩きながら、すみれはいつもの癖でバッグの中からスマホを取り出そうとして思い出した。
(あれ? ああ、そういえば、もう持ってないんだ)
文彦と美咲の不倫現場を目撃してしまってから、すみれはスマホを解約した。二人からメッセージや電話が来るのが煩わしかったからだ。純平の二股写真もトラウマになっていた。周りの友人には「なんで?」と不思議がられたが、「スマホばっかり見てる生活に疲れちゃって」と言い訳していた。
友達がSNSに写真をアップするたびに、「いいね」を付けてまわっていた。他愛もない食べ物やありふれた風景でも、リアクションすることが大事なのだ。
スマホを持たなくなって分かったことがある。「いいね」をしなくてもいい生活、それはそれで結構快適だ。
バッグの中の手が一通の封筒に当たった。
「これ、美咲ちゃんから預かった」
バイトを切り上げて三限の授業に出る前、長門から手渡されたものだ。開店前、すみれが店に出ていない時間を見計らうように来たのだという。
「読んでも読まなくても、好きにしてくれ。なんか思い詰めた顔してたぞ、美咲ちゃん。ま、とにかく渡したからな」
長門も扱いに困っていたようだ。すみれに渡してホッとしたような表情を浮かべていた。
腑に落ちなかったことも、今なら説明がつく。父が純平との交際を知っていたのは、美咲から聞いたのだろう。美咲が自分の恋愛は一切語らずにはぐらかしていたことも。喋れる訳がなかった。
バッグの中で封筒を弄びながら、いろんなことを思い出す。そう言えば父に不倫は絶対ダメだからね、とクギを刺した時、なんか妙な表情をしてたっけ。あれ、美咲のことだったんだ……。
上の空で歩いていたから、急に「すみれちゃん」と声をかけられびっくりした。
「どうしたの、難しい顔して」
「あ、詩織先生……」
ピンクのジャージ姿でも女子高生とは一線を画す色香が漂っていて、思わずドキドキした。
「今年は新入生がたくさん入ってきてくれたわ。入学式のパフォーマンスが良かったのかしら」
笑顔が眩しい。
(詩織先生もセックスするのかな。エッチな声あげたりするのかな……)
なんだか無性に聞いてみたくなった。
「詩織先生って、お付き合いしてる人、いるんですか?」
「なーに、いきなり」
「だって、なんだかすごく綺麗になった気がするから」
「あー、それじゃ、今まではそうじゃなかったみたいじゃない」
詩織は口を尖らす真似をする。
「……ごめんなさい。そういうつもりじゃなくて」
「嘘よ。学生時代はいたけど、今は誰もいないわ、そういう人は。今はいい先生になるのが一番で、そんな余裕ないもの。変わったとすれば……そうね、強いて言えば、悩みが一つ消えたから、かしら。指導教員、大橋先生から西巻先生に代わったの。西巻先生が教頭先生に掛け合ってくれてね。すごいやりやすくなったわ。お父さんにお礼言っておいて」
「……はい」
「西巻先生、おうちでも頼りになるでしょう?」
どうやらすみれが家を飛び出したことは伝わっていないらしい。大橋に盗撮されていたことも詳しいことは知らされていないに違いない。スカートの中を撮られてたなんて聞いたら、ショックで学校になんか来られないだろう。
(何にも知らないんだ……ま、そうだよね)
「ねぇ、詩織先生、一つお願いがあるんですけど」
「何?」
「職員室にシュレッダー、ありますよね。これ、裁断して欲しいんですけど」
すみれは美咲からの手紙を差し出した。
「いいけど……なに、これ」
「バイト先で男の人から渡されちゃって……気持ち悪いから処分したいんです」
「まだ中見てないんでしょ。いいの?」
「はい。全然タイプじゃなかったんで。読みたかったら読んでもいいですよ。でも処分はちゃんとして下さい」
「すみれちゃん宛てのラブレターか。何が書いてあるのかしらね。とにかく処分は任せて。じゃあ、私は部活あるから。たまには練習にも顔見せて。麻紀たちも喜ぶわ」
「はい」
封筒を片手に立ち去る詩織を見送りながら、すみれは心の中で呟いた。
詩織先生の思ってるような人じゃないの、うちのお父さんは。学校では違う顔をしてるかもしれないけど、娘の親友と不倫してるの。いやらしいセックスしてるの……。
ドロドロした気持ちを溶かすような、さわやかな春の陽光が降り注いでいる。詩織と別れたすみれは胸像にペコリと頭を下げると、真向かいにあるベンチに腰を下ろした。
「んー、いい気持ち」
両腕を青空に向かって伸ばした。いつもは賑やかな平日のキャンパスも、大型連休の谷間とあって今日は休講にしている教授も多い。学生はまばらだった。ついついメッセージを確認しようとしてしまって苦笑いする。やっぱりスマホがないと手持ち無沙汰だ。
「さてと、戻ろうかな」
立ち上がろうとした瞬間、視界の先に長門の姿が見えた。
「お、すみれ、こんなところで授業サボってるのか」
「もう終わりました。出前ですか」
長門はスッと並んで腰掛ける。
「文学部の小岩井教授のところに行ってきたんだ。あの先生、カレーは食べに来ないのに、コーヒーの出前はやけに多いんだよな。すみれも授業取ってるんだろ。今度カレーも食べに来るように言っておいてくれよ。それにしても、いい天気だなぁ」
長門まで両腕を伸ばすのが可笑しくて、思わず、ふふふ、と声を上げて笑ってしまう。
「なんだ、いい天気がそんなおかしいか?」
とんちんかんな顔をしている長門を見ながら、すみれはふと思った。周りから見たら、私達ってどんな風に映るんだろう……。
そんなことを考えていると、出し抜けに声をかけられた。
「今日は夜営業はやめだ。この前のトラットリア、予約したから。もうワインも堂々と飲めるだろ」
「え?」
「バースデーケーキ付きだぞ」
いろんなことがあり過ぎて、すっかり忘れていた。今日がハタチの誕生日だったことを。
長門の左手が伸びてくる。首筋を掴まれると、顔が迫ってきた。
「ダメよッ、学校でなんて」
「人なんていないじゃないか。誰も見てないよ」
顔は万力でガッチリ固定されたように動かない。それでもなんとか逃れようと抵抗する。
「ダメッ。柊木先生が見てるもん。あッ、ン、ンン……」
あっという間に舌を絡め取られた。
「ンン……ン、ね、ねぇ、ン、ンぁぁぁ」
真昼間の濃厚なキスに膣奥が熱くなってくる。
もう、ここがキャンパスだとかどうでも良く思えてきた。
(この人は、サトシさんは私を裏切らない……)
身体から力がスーッと抜けていく。
すみれは両手を長門の首に回すと、長い舌をそっと差し出すのだった。(完)
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