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ふざけるのは召喚だけにして―2

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 紗杏と親族と使用人達の姿を認め、藍蘭は開放していた力を収めた。
 普通の人であればどうやって来たのかと驚きや疑問を感じたりするところだが、その点は藍蘭と一族や使用人にとって瑣末なことでしかないので誰も気にしなかった。


「…何で会場にいた全員がここにいるの?」
「あぁ、藍蘭が消えた場所に魔法陣が残ってたんだ。それに神門の皆が介入して道を開いてここに辿り着いた」
「なるほど」


 一番の疑問を駆け寄って投げ掛けると、安心したようにふわりと微笑んだ紗杏は藍蘭の頭を優しく撫でる。


「…で、着いたらマティスの皆が一通り拷問聞き取りしたあとにクロフォードの皆が半殺ししちょっと締めてレオンカヴァッロの皆が抹殺処理するって流れになってる」
「何て?」


 相槌を打ちつつ大人しく頭を撫でられていた藍蘭だが、不穏な単語が並ぶ発言に紗杏の話を遮った。


「藍蘭に何もなかっ……何もされてないよな?」
「あ、えーと…」
「…されたんだな?何されたんだ?ねぇ、教えて?」


 言い淀んだ藍蘭と目を合わせた紗杏は笑顔ではあるものの、目は笑っておらず瞳孔は開き切っていた。


「紗杏、大丈夫だから落ち着いて?チート能力貰って更に色々強くなっちゃったみたいだけど、何ともないから。さっきちょっとだけ…あっちに帰れないって解って、みんなにもう会えないって思ったから暴走しかけてアロガンザ…私をこっちに呼んだ神を消しそうにはなったけど」
「あぁ、こっちに来た時に一瞬感じたのはそれだったのか。……いや、それ大丈夫じゃないだろ。アレは消しても良かったけど…え、凄い圧だったけど身体は平気?」


 そう言って紗杏は心配そうに眉根を寄せながら藍蘭の頬に両手を添えて引き寄せると、自身と藍蘭の額を合わせる。


「…熱はなさそうだな。ツラいとか苦しいとかはない?」
「大丈夫だよ。もー、紗杏は心配症だなぁ」



 ***



 ふたりがそんな遣り取りをしている一方。
 親族と使用人達は神ーー…アロガンザを難なく拘束していた。


「さぁ、どう落とし前をつけてもらいましょうか」
《…って何で我がただの人間に拘束されてんの!?》
「何で、って…エクソシストや陰陽師が対魔戦で引けを取るわけないでしょう?」


 冷静に言葉を返したのは、気が強そうな綺麗系美人で抜群のスタイルに濡羽色の髪に翠の瞳を持つ女性ーー…藍蘭の母である彩理さあやだった。


《何で…だって我は神だよ?》
「その慢心が敗因だろ。そんなことよりうちの可愛い娘に手を出した罪は重いからな」


 前半はまともだが後半親馬鹿発言をした、垂れ目気味の美丈夫でスラリとしていながらも程よく鍛えられた体躯にプラチナブロンドの髪と蒼い瞳を持つ男性ーー…藍蘭の父であるアルバートは、アロガンザを睨み付けて続ける。


「そもそも我が家の天使を無断で連れて行くなんざテメェどういう了見だ?頭沸いてんのか?あ゙!?」
「アルバート様、話が逸れています」
「けど棗麻そうま、この野郎が藍蘭をっ…」
「いいから落ち着けアル、粗暴な部分が出てるぞ。姫に嫌われたいのか?」
「それは嫌だ…!!」


 今にも殴りかかりそうなアルバートを窘めて藍蘭を姫呼びしたのは、アルバートの友でありクロフォード家の執事長でもある棗麻だ。



「さて、そういう訳なのでここからは私が引き継ぎましょう」


 そう言って棗麻は続ける。
 余談だが、棗麻は紗杏の父であり上司でもある。


「確かに貴方はこの世界の神で、絶対的な力があるのでしょう。ですが貴方が私達の世界の理に干渉して姫を攫ったのは頂けません。先人の言葉を借りるなら『異教の神は悪魔』。ですから我々は貴方をだと認識し、抹消しに伺った次第です」
《拡大解釈が過ぎるな!!》
「それは否めませんが、我々から姫を奪うということはつまりそういうことです」
《何そのトンデモ理論?!てかこんな大人数で世界間を移動なんてしたら世界のバランス崩れて大変なことになるでしょ!?》


 そう言ってアルカイックスマイルを決める姿に少し怯みつつも、だから力の一番強い藍蘭を選んだのに…とブツブツ呟くアロガンザに棗麻は正論をぶつけた。


「お言葉を返すようですが最初に理を侵したのは貴方ですから、非は貴方にありますよね?」
《我は神だから許されるの!あーもう、この件がそっちの神達にバレたら我が怒られるじゃん!どうしてくれるんだよー!!》
「…あ゙?バレたらヤバいことして許されるって考えてるとかお前頭イッてんだろ。つか今懇切丁寧に説明してやったじゃねェか。そもそもは姫を勝手に連れてきたお前が悪ィんだろォが。うちの一族の姫への執着じみた愛舐めんじゃねェよ、世界間移動くらい余裕でやってやるっつーの。怒られるのが嫌だ?ンなテメェの都合なんざこっちの知ったこっちゃねェよ。テメェの落とし前はテメェでつけろや」
「棗麻、落ち着け。お前も元ヤン出てるから。執事長の皮脱ぎ捨てるな、な?」


 平静を装っていたが藍蘭大好き強火ガチ勢執事長は相当ご立腹だったようで。
 語気こそ荒げていないものの、先程のアルバート以上に言葉遣いが乱れていた。


「俺は落ち着いてるっつーの。けどこの馬鹿がガキみてェに駄々こねんのが悪ィんだろーが」
「主語が【俺】になってんじゃん!絶対キレてんじゃん!!ねぇ!?」
「キレてねぇよ、ってやろうと思ってるだけで」
「ガチギレじゃん!止めようにもコレ俺じゃ止めらんないヤツじゃん!!」
「流石は【藍蘭の笑顔を守り隊】の統括主任ね」
「何そのネーミングセンス…じゃなくて!さーちゃん、そんな呑気なこと言ってる場合じゃないからね!?それよりも助けて!!」
「え、普通に無理だけど」
「即答っ!」


 隣で何やら納得している彩理に涙目で助けを求めたアルバートだったが、素気無く返されガックリと項垂れた。


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