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ふざけるのは召喚だけにして―1

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「…で?なんで私なの?こういう召喚とかって確か『他人の召喚に巻き込まれちゃった!』とか『クラス皆で召喚されて一人だけ外れスキルかと思いきや!?』とか『ブラック企業勤務の人が疲れて帰宅して家でも仕事するためにパソコン立ち上げたら画面に謎の選択肢が!』とかが定番なんじゃないの?いや、私も一応突然魔法陣が足元に出現したけど」


 少したれ目気味の蒼い瞳と濡羽色の艶やかな髪に小柄だが四分の三は欧米の血が流れているからか、出ているところは出ている肢体。
 黙って入れば庇護欲をそそる見た目であるもののその実は気が強い藍蘭は、目の前にいる神を自称する存在を睨んだ。


《おー、詳しいねぇ。1つ目と2つ目は人為的に召喚する時によくあるヤツで3つ目は他の神がよくやってるヤツだねー。我は確実に藍蘭を連れて来たかったからね、神の力で狙い撃ち☆だよ♪》


 そう言って狙い撃ちポーズ+ウインクを決めたまま反省のない神の様子に、随分と傍迷惑だな…と藍蘭は更に眉間に皺を寄せる。
 けれど名乗ったはずのない名前を知っているし、こうして実際に神の居所らしき場所へ喚ばれたからにはは紛うことなき神なのだろう。

 甚だ傍迷惑であることに変わりはないが。


《…ねぇ、何かさっきから失礼なこと考えてなーい?ていうかこんな状況なのに随分と冷静なんだね?》
「…神とはいえ本人の許可もなく連れ去る失礼をやらかしたヤツに敬意なんて払えないでしょ。それに拉致誘拐なんてあっちでもしょっちゅうあったから慣れてるし。一般的な被害者のように怖がったり取り乱すなんて感覚は疾うの昔に消え去ったの。可愛げがなくてごめんなさいね」


 全く怖くないといえば嘘になるが、藍蘭にとって一々気にしていられない程度には誘拐は身近なものだった。
 どの世界に於いても、力ある者やそれの弱点となる者は狙われやすい。
 両方を兼ね備えているのならば尚更のことだ。
 現にこの神もを欲している。


《でも我は神だから許されるんだよ。それに誘拐だなんて人聞きが悪いなぁ。召喚だよ、しょ・う・か・ん♪藍蘭1人に関する記憶なんてちょっと操作しちゃえば簡単に消せちゃうし問題ないからね》


 それは神にかかれば造作もないことだろう。
 神が人と考え方が違うのは当然で、ともすればそれは人にとって傲慢とも取れることでも神にとっては当たり前なことだってある筈だ。
 けれどこの神は少し言葉を交わしただけだが、ただ単に自分本位にものを言っているだけのように藍蘭は感じた。
 そう、それはまるで幼子が欲しい物を手に入れたいと我儘を言うような。

 そりゃあ神だから何をしたって許されるかもしれない。
 でもそれは飽くまで自分の世界の理に関してであって、別の世界の理に干渉するのは違うのではないだろうか。
 そして此方に連れて来られたということは、藍蘭は元の世界の理から外れたということになる。
 つまり、多分もう元の世界には戻れないだろうし、家族や友人達に会うこともきっともう叶わない。


「……あ」
《ん?》


 家族、と言うワードで藍蘭は思い出した。
 母方の家系が異能者を多く排出していることを。
 どの宗教でも大概の場合、いる。
 その理屈を当て嵌めれるのなら、帰れないにしても一矢報いれるはず。


「貴方が異世界の神だというのなら、うちの考え方からすれば貴方は人を誑かした悪魔と同義。つまり滅していいってことね」
《えー、それはヤダ。てゆーか無理だよ。確かに我が藍蘭を連れてきたのはあっちの世界で一番魔を払う力が強かったからだし既にチート能力を与えたけど、我には勝てないよ。だってここは我の世界だし》


 確かに人間が神に勝つというジャイアントキリングなんて普通ならそうそう出来ない。
 けれど藍蘭は、元の世界で既にファンタジーな家系に名を連ねているのである。
 事実この神はその力に惹かれ連れて来たが、先程までの会話からそれ以外に興味がなく表面だけしかいないようだ。


「…もしかしてカミサマ、あっちの世界であの時感じた私の力が全力だと思ってる?違うよ?」
《えー、神相手に強がってかーわいい♪》
「……」
《因みに我の名はアロガンザだよ。君はもうすぐ我の愛し子になるんだから、特別に名前で呼ばせてあげる》

(ーーあぁ、やっぱりコイツは)

「アロガンザ…」
《なーに藍蘭?》
「…うるさいから【黙って】」
《?ーー!?ーーーっ!!》

(後先なんて考えてなかった。そしてやっぱり、私はもう…)

「易々と名前を教えるなんて世間知らず過ぎない?神ならは解るでしょうに…。まぁ楽に事が済むようになったし結果オーライ?」
《ーーっ!》
「簡潔に説明するとね、私の力って強過ぎるみたいで逆に良くないものを引き寄せちゃうから、普段はかなり抑えてるの」
《?!》


 そう言った藍蘭に答えるように、空間に見えない何かがブワリと広がった。


「私は元の世界の理から外れてしまっているから、戻ることは出来ないんでしょう?勝手な都合で連れて来られて、既に必要ないほど力があるのに更に与えられて。挙げ句の果てに大切な人達にはもう会えない。……ねぇ、どう責任、取ってくれるの?戻れないならいっそこのまま私ごと消えちゃおうか?」
《っ…!!》


 藍蘭の怒りに比例して膨れ上がるその圧に、空間が更に震える。
 それに当てられた神の中に恐怖が生まれた、その時。

 ーーパリンッ!!

 真っ白な空間の一部が割れ、そこから崩れるように穴が広がっていく。
 その中から大量の足音が聞こえ、そして。


「藍蘭っ!」
「!…さ、きょう?みんなも……」


 元の世界で魔法陣の存在に気付いた紗杏を先頭に、親族と使用人一同が現れたのだった。


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