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白い車のジョニー!
しおりを挟む僕は大阪で一人もお友達が出来ず、お父さんの転勤のせいで、今度は名古屋に引っ越すことになった。
そこでも、やっぱりなかなかなじめず、僕はいつも一人だった。
「はぁ~あ、お友達が欲しいなぁ」
お母さんからもらった100円玉を、ショーパンのポケットに入れて、近所の駄菓子屋におやつを買いに行くことにした。
僕が新しく引っ越してきた町は、坂道が多くて、静かな住宅街だった。
家の近くの駄菓子屋に行く時、大きな国道があって、片道が三車線もあるから、信号が青になるのが長い。
じーっと、信号のランプが変わるのを待つ。
お尻がかゆくて、ポリポリかいてみる。
「ふわぁ~」
その時だった。
後ろからクラクションが鳴り響く。
なんだろうと思って、振り返ると近くに白い車が一台止まっていた。
運転席には、この時代にしては珍しい。金髪の白人のお兄ちゃん。
カッコイイなぁ。
映画に出てくるハリウッドスターみたいだ。
ランニングにたくましい腕が見える。
それにリーゼントでサングラスが似合っている。
だけど、僕とは無関係だろう。
きっとあの人の知り合いに鳴らしたクラクションだ。
そう思って、また視線を信号に戻す。
プップ~!
「ん?」
まただ、ウソでしょ?
そう思って振り返ると、お兄ちゃんが笑顔でピースしていた。
「んん?」
いや、まさかね……。
別の人に挨拶をしているんだよ、きっと。
そしてまた視線を信号に戻そうとしたら。
プップ~! プーーーッ!!!
「な、なになに?」
ビックリして振り返ると、金髪のお兄ちゃんがムスッとした顔で、ピースを連発する。
ああ、そっか。
この人、僕とお友達になりたいんだ!
僕は恥ずかしかったけど、ピースしてみせる。
するとお兄ちゃんは、「イエ~ス」と笑顔で頷いてみせた。
その日以来、僕と金髪のお兄ちゃんはお友達になった。
学校帰り、いつものように寂しく一人で歩いていると……。
「ヘーイ!」
わざわざ歩道脇に車を停めて、声をかけてくれる。
「あ、へーい」
慣れない英語を使ってみる。
「セイ、ピ~スぅ!」
「う、うん! ピース!」
「イエス~ イエス~」
いつもこんなやりとりを繰り返していた。
僕も英語は話せないし、金髪のお兄ちゃんも日本語は話せないみたいだった。
それでも、僕たちには確かに友情が芽生えだしたのかもしれない。
彼の名前は「ジョニー」だと教えてくれた。
だから、僕も「ショタ次郎だよ」と答えてあげると、大喜び。
その日も僕は一人でおやつを買いに国道沿いの信号機で待っている。
お尻がかゆくて、ショーパンに指を突っ込んでいると……。
プップ~!
クラクションが鳴り響く。
あ、この音は!?
振り返ると、ジョニーだった。
白い車に金髪の白人なんて、この街にはジョニーしかいないもんね!
「ヘーイ! ショタジロー! セイ、ピース!」
「イエーイ! ジョニー、ぴーす!」
僕とジョニーはもう仲良しだ。
「ショタジロー! カモン!」
なにやら手招きしている。
「ん? どうしたの?」
「カモン! カッ~モン!」
一生懸命、身振り手振りで、なにかを僕に伝えようとしている。
どうやら僕を車で駄菓子屋まで送りたいと行ってくれているみたいだ。
意味がわかった僕は、やんわりと断った。
「のーのー! 大丈夫! 近いから」
するとジョニーはムスッとした顔で、こういう。
「ヘーイ、ショタジロ~ カッモーン!」
「いや、いいってば……またね、ジョニー!」
信号が青になったので、僕は走って駄菓子屋まで向かった。
彼が気になったので、振り返ると、なんだか顔を真っ赤にして、ハンドルを握っていた。
せっかくジョニーが気をきかせてくれたのに、悪い事したかな?
今度、誘われたら、乗ってみようか。
あの白い車、お父さんのよりも新しくてカッコいいもんね。
~それから数日後~
朝、校長先生に呼ばれて、グラウンドで全校集会が始まった。
「えぇ~ ここにいるみんなは知らないと思うけど、実は昨日、うちの生徒が誘拐されそうになりました」
それを聞いた僕は、ビックリした。
「ゆーかいだって!? 一体どうして!?」
校長先生が話を続ける。
「幸いにもその子は叫び声をあげて、近くの人に助けてもらえました。皆さんも気をつけましょう!」
「怖い人がいるもんだなぁ」
「一応、犯人の特徴を言っておきます。20歳ぐらいの男で白い車を乗り回しているそうです。皆さんも知らない車には乗っていったら絶対ダメですよ。犯人は生徒に『おやつを……』」
校長先生がまだ話をしてたけれど、僕は頭に入って来なかった。
「ふーん、僕には縁のない話だなぁ……」
だけど白い車って……いや、まさかね。
ジョニーは僕と仲良しだもん。
その後、僕は彼と再会することはなかった。
「はぁ。ジョニーの車に乗って見たかったなぁ……」
了
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