幼馴染を忘れられなくて童貞34年極めたらリア充になれた話

味噌村 幸太郎

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第11話

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 足取りは重いまま、自分の背より高い外壁をずっと歩いてようやくイッチーの家の玄関にたどり着いた。
 高い外壁と大きな門で、中の様子は分からない。
 門の隣りにあるインターホンを鳴らすとスピーカーから女性の声が聞こえた。

「はい、御用はなんでしょう?」
「あー、俺です。同じ小学校の本田 広です」
 俺の名を聞いて、驚く。
「まあ本田くん! ちょっと待っててね」

 待つこと3分ほど。
「お待たせ。まあ! 大きくなってぇ♪」
 めんどくさ。駄弁る気分じゃねーのに。

「あの、イッチー、海人くんはいますか?」
「え? 海人? あの子なら5年前に出ていったけど?」
 なんか様子がおかしい。
「出ていった?」
 すぐさま携帯でイッチーに電話する。

『もしもし、どうしたの?』
「お前、名古屋に住んでないのかよ!?」
『え? 住んでるけど?』
「お前ん家に来たけど、おばちゃん、お前は出て行ったって言ってるぞ!」
 しばらく沈黙が続く。

『あ! ごめん……。俺、実家出て同じ町内に引越してるんだった』
 相変わらずの能天気くんだな。
「笑いごとじゃねーよ! 迎えに来てくれ」
『5分もかからないよ』


 携帯を切るとおばちゃんが「ごめんね」と家へ通そうとしてくれたが、「すぐ来るので」と断った。
 ピッタリ5分後にイッチーこと市村 海人はこれまた高そうな車に乗って現れた。
 車から下りた久しぶりのイッチーは紺のポロシャツにチノパンツ、キャンパスシューズを履いていた。

 体格は痩せ型で、華奢な顔を覆う様に、もみあげからあごまで髭を伸ばしている。目は傷口かってくらい細く、赤いフレームのメガネをしている。
 いつもニコニコ笑っていて、怒ったところをみたことがない。
 まあそれは母親であるおばちゃんも髭以外は全部同じなのだが。

「わりーね。ヒロちゃん」
「あんた、笑いごとじゃないでしょ!」
 おばちゃんがキレる。
「いやいや、俺も聞いてないのが悪いんですから……」
「ごめんねー、また今度、実家にも遊びに来てね!」

 イッチーの車は車高が高く、デブの俺には乗るのに一苦労だった。
「んじゃ、どこいこっか? いやー、ヒロちゃん急に来るんだもん」

「とりあえず、なんかうまいもん食わせてくれ。 てか、おめーもメールで急に来いって言ったろ? 」
「あ、そうだった。アハハハ!」
 なんでこんなにこいつはいつもゲラゲラ笑っているのだろうか?
 小さいころから麻薬でも常用しているのだろか。


 車に乗っている間、イッチーには「あそこも潰れた」「ここも潰れた」そればっか聞いていた。
「なんだか、寂しいな……」
「ん、どうして?」
「笑うところじゃないだろ…いや、いろいろ変化しちゃってさ。町も人間もさ」
「お、急に言うじゃない、ハハハ!」
 殴ろうかな。

「俺…神埼に会ってきた」
「え!?」
 車を急停止し、お互いが反動で放り出される前にシートベルトが身体を抑える。
 俺を見るイッチーの薄い目がブワッと大きくなった。
 こんな目は見たことがない。

「マ、マジで!? ヒロちゃん…神埼の家に行ったの?」
「会ったっても遠くから見てきただけさ……」
 後ろの車から怒号が上がる。
「早く行けよ!」
 イッチーが窓から顔だけを出し、後ろの運転手に怒鳴り返す。
「うるせー! こっちは今、マジな話してんだ! 先行きたきゃ勝手に行けよ!」
 は、初めて見た。イッチーの怒るところを。
 こんなにこえーのかよ。


「ご、ごめんね。メシ食う前にちょっと寄ってもいいかな?」
「ああ、いいよ…」
 車をUターンさせる。

 住宅街の細い道に入り、見覚えのある公園で車は泊まった。
「懐かしいだろ。『ひこうき公園』」
「ああ、ここだけは変わってないんだな!」

 2人とも打ち合わせなどしてないのに、一直線に走り、ブランコに立ち乗る。
「うひょー」
「俺、100キロだけど大丈夫かよ!?」
「大丈夫じゃない?」
「適当だな」



 しばらくブランコを動かした後、近くの自動販売機でジュースを買った。もちおごりで。
 イッチーが開けて渡してくれる。
「久しぶりの再会に乾杯!」
「俺たちの友情に乾杯!」
 力いっぱいぶつけたので、中のジュースが顔にかかるが、気にせず一気に飲む。

「かぁー、うめーな!」
「なんでここのジュースだけはうまく感じるだろうね!? まずいジュースなのに」
 しばらく笑ったあと、また公園に戻った。
 夕陽も既に落ちかけ、暗くなりだした。

 なぜかイッチーは俺の気持ちを悟っているかのように、静かになっている。
 2人の足は自然と公園の象徴でもあるジャングルジムに似た遊具『ひこうき』に向かう。
 当然、大人が遊べるものではないので、ひこうきの前に、横に並んでもたれ掛かっただけだ。

「なあ……なんで、神埼の家に行ったんだ?」
 友人の微かに潤んだ目は俺の胸を強く打つ。
「いやぁ、想いだけでもってね」
 しばらく沈黙が続いたあと、イッチーが切り出す。

「僕がもっと早くに神埼の『状況』を教えていれば……」
 イッチーの手にあるジュースの缶が潰れる。

「お前のせいじゃないよ。全部、俺のせいだ。俺の思い過ごしだ。ストーキングしちまったみたいだ」
 自分の缶を少し離れた公園に向かって投げようと構えようとしたら、

「そんなことないよ!」

 イッチーの手で制御される。

「今さら言っても仕方ないことだけどさ。神埼、小学校の時、ヒロちゃんのことずっと好きだったんだよ?」
 その言葉に驚き、手から缶がズルっと地面に落ちる。
 風でコロコロとどこかにいってしまった。
「うそ…だよな?」
「本当だよ!」
 イッチーはよく笑うヘラヘラした奴だが、芯は熱い奴だ。
 嘘はついたことがない。変態ではあるが。
 俺のことを思って嘘をついてるようには見えなかった。

「小学生の時、神埼は何回もヒロちゃんのことを俺に聞いてきたんだ……」
「お、俺のことを!?」
「う、うん」
「どんなことを!?」
 イッチーの肩を強く両手で揺さぶる。

「どんな食べ物が好きかとか、好きな女の子はいるのかとか…」
 真実を俺に告げれば告げるほど、俺は涙が邪魔でイッチーの顔が見えなかった。
「最終的に神埼はヒロちゃんの引越しが決まった時、告白しようと決意はしたんだ……。したんだけど」
 足がガクガクと震えて、立てなくなってしまう。
「僕もその日、告白の準備を手伝ってあと一歩のところで……神埼のお母さんが倒れたんだ」

「うわあああ!」
 自分の不運と不甲斐なさに公園の地面を叩き続けた。

「引っ越す前にお別れパーティーを僕の家でしただろ? あの日さ」
「はあはあ……」
 呼吸が苦しくなる。
 すかさずイッチーが背中をさする。耳元でまだ物語は続く。

「神埼はその後も倒れた母が死ぬまで、看病していた。だからあの子は学校をよく休んでいたろ?」
「か、神埼……」
「結局、神埼は想いを告げられず、ヒロちゃんが引越してしまったんだ。その直後さ。今の旦那。本田 達也ほんだ たつやが引越してきたのは」

「なんだと!?」
 驚きよりも怒りでイッチーの襟を掴む。

「僕もビックリしたよ……苗字も一緒だったし。正直、見た目が昔のヒロちゃんに似ていたんだ」
「あいつが!? 俺に!?」
「うん…そりゃ、今のヒロちゃんとあいつは似てないよ。でも、子供の頃は本当に似ていたんだよ。見た目も性格も」


「なんだそりゃ!?」
「その頃、ちょうど神埼は母親が死んで、ヒロちゃんがいなくなって、ものすごく落ち込んでいた。最初は受けつけなかったけど。だんだんヒロちゃんに良く似ていた、達也に心を開いていったんだ」
「お前、ふざんけんなよ!」
 強く掴みすぎてイッチーの顔が上にあがる。
 公園に高校生のカップルが入ってきたが、俺らを見て逃げていった。


「その後は成長と共にあの2人は……」
 イッチーの告白を俺の拳でとめた。地面に投げだされる。
「もういいってんだろが!」
 イッチーは俺の顔を見ず、地面を見たまま。
「ごめん…本当にごめん。ヒロちゃん…」
「ふざけんなよ、イッチー! 俺たち友達だろが!」
「だからだよ! 子供だった俺には隠すことがヒロちゃんのためになるって思ったんだ!」
 イッチーの涙に俺は自分に嫌気がさした。
 確かに神埼は告白できなかった。
 だが、俺だって彼女に告白できるチャンスだって何回もあったはずだ。
 それを彼女まかせ、そして、イッチーのせいにするのはクソすぎる。

「はぁはぁ…俺も殴れ、イッチー」
「な、なんでだよ? 嫌だよ!」
「ダメだ! 仲直りはいつもこうだったろ!」
「わ、わかったよ……」
 立ち上がって、イッチーは目をつぶって俺を殴った。
 正直、俺のパンチよりも数倍強く感じられた。
 巨漢でブッ飛ばされはしなかったが。

「いってぇ……ボクシングとかやってんのかよ?」
「ヒロちゃんが弱くなったんだよ、ハハハ!」
 公園にはしばらく笑い声が絶えなかった。
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