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第6話
しおりを挟む『おはようございます。もうすぐ、名古屋駅です』
目を覚ますとビルとビルの隙間から綺麗な朝日が昇っていた。
「おお、久しぶりの名古屋だぜ」
「おめーさん、名古屋の人間だぎゃ?」
「だぎゃ? ああ、いや、違います…」
隣りに座っていたサラリーマン風のおっさんに話しかけられた。
「そうか、そうか。草加せんべい。だぎゃ!」
なんだこのうぜーおっさんは。
「んで、何しに来たんだぎゃ? ひょっとして、女だぎゃ?」
「まあ、そんなもんですね」
既に自分の女と化す初恋の相手(20年以上前の)
「そりゃ良いだぎゃ。んじゃ、フラれたら俺んとこ来いだぎゃ!」
渡されたのは、ピンクの名刺サイズのカードだった。
「なんすか、これ……」
風俗のチラシだった。
「ぎゃっぎゃっ! ウチなら可愛い女の子もぎょうさんおるだぎゃ! あ、着いたぎゃ……んじゃ、それじゃな!」
風俗の店長らしきおっさんは、ニコニコ笑いながら去っていった。
「いや…俺には必要ないっしょ!」
バスから降りると、たくさんの人たちが広い駅の中を行き交っていた。
「うわー、俺のいた頃と全然違うじゃん! マジで迷うな」
20年以上の違いを感じながら、案内を見たり、人の歩く方向を見たりして、改札口を目指す。
脇汗をかきまくって、ちょうど良い頃合の男性フェロモン全快の悪臭が鼻にまで伝わってくる。
やっとのことで切符を買い、電車に走り乗る。
祭日だったので比較的、座席は空いていた。だが、立って窓から見える風景を楽しんでいた。
といっても、しばらく地下が続き、目標の駅に近づかないと外に出ない路線なのだが。
やっと見えた外の風景はたくさんの思い出がよみがえってくる。
「おお、動物園か懐かしいな! あそこはやっぱコースターだよな」
「あのデパートまだやってんのかよ? チャリでいったよな」
懐かしい風景に嬉しさも覚えたが、同時に胸に大きな穴ができたようで、すごく苦しかった。
近くに座っているカップル、若い女子大生。家族連れ。
みんな…みんな…この20年で大人になったんだよな。
俺は20年で何も…1つも成長できてない。
イッチーや神埼は…。悪い予感が胸をしめつける。
頭を強く左右に振る。
(そ、そんなの許さない! 認めない! 俺は…俺は今度こそ神埼と…)
少年時代を過した馴染のある駅についた。
駅に着くとそんなことは忘れ、腹が鳴りまくっていた。
「腹へったな。この近くでうまいメシ屋は……お! 『ガキガキ屋』があったな♪ あそこの五目ごはんがうまいんだよ」
ガキガキ屋というのは中部地方ではよく見られるラーメンなどを主にしたファーストフード店だ。
俺は子供の頃、ラーメンと五目ごはんを食べたあと、デザートにソフトクリームを食べるのが大好きだった。
駅近くの店舗はいつも女子高生がたむろしていて、デザートを食べなら学校帰りに化粧をしていたものだ。
そのガキガキ屋は歩けども歩けども見つからない。
「なんでだ? あそこはでかいチェーン店だろ?」
だが、やはりなかった。移転とかかな? まあ考えたって仕方ない。
舌打ちをしながら違う店を記憶の中から考えて歩く。
「んー、この近くなら…ちょっと歩くが、どうせイッチーの家に行くんだし、『キャビア』に行くか!」
キャビアというのは近所にあったゲームセンター。なのだが、同時に店内で弁当も売っていた。
そこの海苔弁当がマジでうまい。
思い出していると胃袋が踊りだし、歩調が自然と速くなる。
だが、目標らしき場所についても、これまた見つからない。
「うそだろ? あの、俺たちのキャビアだぞ?」
いらつきながら、イッチーに電話する。
「おい、キャビアがないぞ? どういうことだ?」
『え? キャビア? なんのこと?』
「ほら、駅近くのゲーセン」
『ええ!? ヒロちゃん、もう名古屋にいるの!? キャビアならかなり前に潰れたはずだよ?』
「はあ!? 俺たちのキャビアが!?」
『そんなにゲームしたかったの? 僕ん家ですればいいじゃん』
「ちげーよ、あそこの海苔弁当が好きだったんだよ!」
携帯の向こうでしばらく爆笑している声が途切れなかったので、とりあえず電話を切ってコンビニに向かった。
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