上 下
39 / 39
最終章 ルージュ

14-1

しおりを挟む
 俺はただ泣くだけだった…。

「なんで俺は二人も大事な人を同時に……」
 涙をぬぐって、紫色の化け物と、真帆に大穴をあけた野郎を睨みつけた。

「ちょっと待てぇ! てめぇ!」
 真帆に穴をあけた張本人は振りかえることもなく、代わりに紫色の化け物が黙ってこっちをみている。
「なんとか言えよ!」
 悲しそうな顔で化け物は言った。

「そうか…お前も元は人間なんだったな…。お前のせいでこの青山という人間も大事な妹を亡くしたんだ。だが、お前もずっと一人だったんだな…」
 俺は首をひねった。
「あ? なに言ってんだ!」
「どうだ? 〝悪魔の蓄音機〟を壊してくれれば、私もお前を殺さない。それで、どうだ?」
「ふざけやがって! 俺だって、こちとら好きで魔王になったんじゃない! それなのに、どいつこいつも……それに大事なものをなくしちまう…てめぇらも同罪じゃねぇか! ぶっ殺してやる!」
 
 どくん…どくん…どくん…どくん…。
 
 また魔王の鼓動が聞こえてきた。
 俺の身体全身が金色に光る。

「もう……てめぇらもこれで終わりだ」
 俺はもうどうでもよくなっていた。
 守るべき姫もミノもみんな俺の前から消えていった。
 一番大事だった真帆も……。
 こんな世界、ブッ壊れちまえ。
 

 その時だった。誰かが俺の肩をひきとめるような感じがした。

『ダメだ! 俊介!』
「誰だ?」
 その声は俺の胸の中から発していた。

『僕だよ、ショーンだよ!』
「ショーンだって!?」
『そうさ、今まで魔王の力が強すぎて僕は縛り付けられていたけど、今やっと君に話しかけられるようになったんだよ』
 久しぶりの彼の声はとても優しく感じた。

『今までのことは僕も全部見てきたよ。辛かったんだね…。』
「ショーン。俺、真帆を守るはずが逆に守られたんだ。もう、どうでもよくなったよ」
『何を言ってるんだ、俊介! 彼女はまだ生きている!』
 俺は耳を疑った。
「ほ、本当か!?」
『ああ、わずかだが、まだ息はある。それにどうやら彼女にも魔族の血をひいているらしい。』
「なんだって!? でも、どうやったら助けられる?」
『君の魔王の力は破壊する力だけじゃない、彼女を助けられる力も持っているんだ』
「でも、どうやって?」
『簡単さ、人口呼吸と同じだよ。眠れるお姫様にキスをすればいいだけさ』
「そんなことで……。ありがとう、ショーン!」


 俺はショーンに言われたとおりに、真帆に身を寄せ、かすかに残っているルージュのかかった唇にキスをした。
 すると、真帆の背中に生えていた白い翼がバサッと広がる。
 大きく開いた胸の穴もみるみるうちに塞がっていく。
 そして、瞼をゆっくり開いた。

「せ、先輩…?」
「真帆!」
 俺は嬉しさのあまり、真帆を抱きしめた。
 こちらを見ていた化け物も驚いていた。

「奇跡だ。そうか、あの娘、魔族の子か!?」
 俺に背を向けていた野郎も振り返った。
「な、なんだって!?」
「青山、お前の復讐も分かるが、あの二人も不運で生き抜いてきたんだ。ここは私たちのいる場所ではない。私たちの月花の道はお前の代で終わらせよう。帰ろう、故郷へ」
「ああ、そうだな」
 そういうと、二人は俺たちに背を向け飛びたった。

 真帆が俺の胸に顔を埋めて、匂いをかぐ。
「久しぶりの先輩だぁ」
 嬉しそうに微笑む。
 俺もつられて笑みがこぼれた。
「そうだなぁ、久しぶりだよな」
 もう離れたくないと、強く抱きしめ合う。

 互いの体温を感じることで、俺と真帆は安心できた。
 すると真帆はなにかを思い出したかのように、ハッと顔をあげる。

「先輩、私たちにはまだやり残してる事がありますよ!」
「え?」
「これを壊さないと!」
「そうだったな……この城ごと〝悪魔の蓄音機〟をこなごなにぶっ壊そうぜ!」



  3年後


 関門海峡に新しくかけ直されたその大きな橋は真っ白で、橋の下はたくさんの船が行き交っている。

 そして、その日、私は真っ白なウェディングドレスを纏って手にはブーケを持っている。
 隣には白い燕尾服を着た大好きな先輩がいる。
 その日、大きな橋には遠く遠く、長く続いているレッドカーペットを私たちは歩いている。

 一生忘れない日、この日が私たちのスタートラインとなった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

異世界に降り立った刀匠の孫─真打─

リゥル
ファンタジー
 異世界に降り立った刀匠の孫─影打─が読みやすく修正され戻ってきました。ストーリーの続きも連載されます、是非お楽しみに!  主人公、帯刀奏。彼は刀鍛冶の人間国宝である、帯刀響の孫である。  亡くなった祖父の刀を握り泣いていると、突然異世界へと召喚されてしまう。  召喚されたものの、周囲の人々の期待とは裏腹に、彼の能力が期待していたものと違い、かけ離れて脆弱だったことを知る。  そして失敗と罵られ、彼の祖父が打った形見の刀まで侮辱された。  それに怒りを覚えたカナデは、形見の刀を抜刀。  過去に、勇者が使っていたと言われる聖剣に切りかかる。 ――この物語は、冒険や物作り、によって成長していく少年たちを描く物語。  カナデは、人々と触れ合い、世界を知り、祖父を超える一振りを打つことが出来るのだろうか……。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

処理中です...