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第三章 青山
3-2
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とても暑い夏の日だった。
僕はやっとのことで警らを終え、急いで署に戻って着替えを済ませた。
ロッカーから携帯電話を取り出して、電源を入れた途端、ベルが鳴った。
電話をかけてきた相手は妹のくるみだった。
今日はくるみと港祭りに行く予定だ。くるみは友達と水着を買いに行ったあと、そのまま友達と海峡に行って僕を待っている。
僕とくるみに両親はいない。
正確には、わからない……。
僕は三歳の時に本当の両親に捨てられ、施設に入り十五歳になると、奨学金を得て高校に入学した。
そして、十九歳で警察官になった日、施設から一本の電話が掛かってきた。
それは僕に妹がいるという知らせだった。
また、捨てたんだ……。父さんと母さんはまた子供を捨てたんだ。
僕は何も考えずに、彼女を引き取った。
くるみは八歳。えくぼがとても可愛い子。
僕が施設に引き取りに行った時もニコニコ笑っていた。
小さなリュックサックを抱えて、僕を待っていた。
とてもうれしかった。相手は女の子だから拒絶されるかもしれないと思っていた。
だが、くるみはいつも僕に微笑んでくれる。
例え一緒に育たなかったとしても、本当の兄妹だ。
携帯から「お兄ちゃん、早く来てよ! 花火大会、始まっちゃうでしょ」とくるみに弾んだくるみの声が響く。
急いで署の駐輪場から自転車を引っぱり出し、猛スピードで海峡へと向かった。
もう既に海は夕日で赤く染まっていた。
この景色は毎日、見ているはずなのに、その日の夕焼けはとても印象的だった。
だが、気のせいか、海峡の上には暗雲が昇っている。
「雨かな……でも、天気予報では晴れだったけど」
僕は首を傾げながら自転車を降りた。
会場に設置された即席の駐輪場に自転車を置いてくるみのもとへ走った。
「くるみ、怒ってなきゃいいけど」
そう言いながらも、自分で笑っているのを感じた。
くるみはお土産屋の近くにいると言っていた。
お土産屋はちょうど、小高い丘の上にあって、花火が一番きれいに見える場所だ。
僕は必死に汗を掻きながら、階段を上っていった。
近くの公園にくるみはいた。
「おーい、くるみ」
僕はくるみを呼んだものの、ぜいぜいと荒い息をたててその場で足をとめた。
くるみが僕の声に気づいた。
「あ、お兄ちゃん!」
くるみが振り返ろうとしたその時、海峡の前に巨大な真っ黒な巨人が立っていた。
僕は考えるよりも先に走っていた。
笑いかけているくるみに手を伸ばそうとした。
だが、もう遅かった……。
僕の手が伸びるよりも先に、巨人が大きな口から吐いた金色の光りが海峡の辺り一面を覆った。
光りはちょうど、くるみのいた場所までとどいた。
そして、くるみは一瞬にして、かき消された。
「くるみ!」
あっという間だった。
光りは海峡まるごと、根こそぎ奪っていった。
その直後に、残された人々の悲鳴、その場から逃げようとする足音、大事な人を奪われて悲しむ人の泣き声、それらが一斉に広がると、光りの余波が僕達を襲った。
怒る暇も憎しむ暇も与えられなかった。
ただ、その惨劇に嘆き、泣き叫ぶだけだった。
僕はやっとのことで警らを終え、急いで署に戻って着替えを済ませた。
ロッカーから携帯電話を取り出して、電源を入れた途端、ベルが鳴った。
電話をかけてきた相手は妹のくるみだった。
今日はくるみと港祭りに行く予定だ。くるみは友達と水着を買いに行ったあと、そのまま友達と海峡に行って僕を待っている。
僕とくるみに両親はいない。
正確には、わからない……。
僕は三歳の時に本当の両親に捨てられ、施設に入り十五歳になると、奨学金を得て高校に入学した。
そして、十九歳で警察官になった日、施設から一本の電話が掛かってきた。
それは僕に妹がいるという知らせだった。
また、捨てたんだ……。父さんと母さんはまた子供を捨てたんだ。
僕は何も考えずに、彼女を引き取った。
くるみは八歳。えくぼがとても可愛い子。
僕が施設に引き取りに行った時もニコニコ笑っていた。
小さなリュックサックを抱えて、僕を待っていた。
とてもうれしかった。相手は女の子だから拒絶されるかもしれないと思っていた。
だが、くるみはいつも僕に微笑んでくれる。
例え一緒に育たなかったとしても、本当の兄妹だ。
携帯から「お兄ちゃん、早く来てよ! 花火大会、始まっちゃうでしょ」とくるみに弾んだくるみの声が響く。
急いで署の駐輪場から自転車を引っぱり出し、猛スピードで海峡へと向かった。
もう既に海は夕日で赤く染まっていた。
この景色は毎日、見ているはずなのに、その日の夕焼けはとても印象的だった。
だが、気のせいか、海峡の上には暗雲が昇っている。
「雨かな……でも、天気予報では晴れだったけど」
僕は首を傾げながら自転車を降りた。
会場に設置された即席の駐輪場に自転車を置いてくるみのもとへ走った。
「くるみ、怒ってなきゃいいけど」
そう言いながらも、自分で笑っているのを感じた。
くるみはお土産屋の近くにいると言っていた。
お土産屋はちょうど、小高い丘の上にあって、花火が一番きれいに見える場所だ。
僕は必死に汗を掻きながら、階段を上っていった。
近くの公園にくるみはいた。
「おーい、くるみ」
僕はくるみを呼んだものの、ぜいぜいと荒い息をたててその場で足をとめた。
くるみが僕の声に気づいた。
「あ、お兄ちゃん!」
くるみが振り返ろうとしたその時、海峡の前に巨大な真っ黒な巨人が立っていた。
僕は考えるよりも先に走っていた。
笑いかけているくるみに手を伸ばそうとした。
だが、もう遅かった……。
僕の手が伸びるよりも先に、巨人が大きな口から吐いた金色の光りが海峡の辺り一面を覆った。
光りはちょうど、くるみのいた場所までとどいた。
そして、くるみは一瞬にして、かき消された。
「くるみ!」
あっという間だった。
光りは海峡まるごと、根こそぎ奪っていった。
その直後に、残された人々の悲鳴、その場から逃げようとする足音、大事な人を奪われて悲しむ人の泣き声、それらが一斉に広がると、光りの余波が僕達を襲った。
怒る暇も憎しむ暇も与えられなかった。
ただ、その惨劇に嘆き、泣き叫ぶだけだった。
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