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初めてだから、痛くしないでね……
しおりを挟む僕は今年、40歳になる。
最近になって、気になることがある。
それはわき毛だ。
タンクトップで、鏡の前でポーズして見ると、ニョキッとボーボーくんがはみ出る。
なんか臭そうだし、僕は切りたい衝動を抑えられなくなった。
だから、持っていたハサミで、じょきじょきと切りまくる。(幼児が使うような小さなやつ)
洗面所で切ったせいか、詰まってしまった……。
割り箸を使い、全て除去したが。
仕事中の奥さんに相談した。
ハサミで切ったとはいえ、まだまだボーボーだ。
「え? なんで今更切るの!?」
奥さんは突然の告白に驚いていた。
「だってわき毛があるから、臭い気がするんだよ。それに軽くなる気がする。だから切りたい」
僕は妻がいつもムダ毛処理をしている方法を聞いた。
女性用のカミソリがあるらしい。
そういえば、妻は夜な夜な風呂場でやっていたような……。
僕は洗面所からピンクのカミソリを発見。
風呂場で、ボディソープを脇に塗り、恐る恐る剃ってみる。
だって脇って色んな血管があって、傷つけると、神経とか痛めると聞くから。
「じょりじょり……」
これがなかなか難しい。
剃っては、水で流し、剃っては、水で流し……の繰り返し。
30分間ほど剃りまくって、ようやく黒いもじゃもじゃは無くなった。
だが、まだ縮れ毛がいくつも残っている。
帰宅した妻へ、すぐ脇を見せてみた。
「キンモッ!」
うぇ~ と苦い顔をされてしまった。
「ねぇ、これからどうするの?」
妻はカミソリを使い終えたあと、いつも開かずの間で、なにやら一人、後処理をしていたはず。
ドアを開けようとすると、
「味噌くんは絶対に入ってこないで!」
といつも怒られていた。
妻曰く「脇は墓場まで持って行く」そうな。
確か、その時の音は、かなり凄まじい大きな音だった。
『ガガガガガッ!』
と。
僕は電動シェーバーみたいなので、剃っているのかと想像していた。
だが、違うらしい。
「あれのこと? 剃るんじゃなくて、抜くんだよ?」
「ウソ!?」
「本当だよ。電動のやつで抜くの」
「痛そう!」
「そら、痛いよ。初めは血も出るからね」
「えぇ……」
晩ご飯を食べ終えたあと、妻に再度、訊ねる。
「本当に抜くの?」
「うん」
「じゃあ怖いから、妻子ちゃんが抜いて」
「いいよ」
子供が寝静まったダイニングキッチンで、僕は仰向けに寝転がる。バンザイ状態で。
妻が小型の機械を持ってきた。
スイッチを入れると、『ガガガガガ!』と恐ろしい音が鳴り響く。
「こ、怖い! ゆ、ゆっくりして!」
「わかったから、動かないで。痛かったら、教えてね……」
そう言って、妻は僕の左脇に機械を当てる。
「あっ……」
思ったより、痛くない。
むしろ、気持ち良い。
「どう?」
「すごく良いです……」
「ハハハ! 長い毛だから、面白いように抜けるわ!」
どうやら、妻のムダ毛処理魂に、火がついてしまったようだ。
結局、反対側の脇も抜くことになった。
「あっ……あっ……」
「痛くない?」
「まだやめないで。もっと抜いて」
「え~ もう赤いよ? 初めてだから、今夜はこれぐらいにしなよ」
「はい……」
パイ●ンぽくなった僕の脇を、再度妻に見せつける。
「どう? 女の子ぽい、キレイな脇になれた?」
「えぇ……黒いし、そこまではキレイじゃない。むしろ、キモい」
「そうかな? 面白くない?」
「いや、キモい。あと、まだ縮れ毛が残っているから。もし、女の子だとしたら、アウトだね」
「え、じゃあ、女の子ってデート前とかに、毎晩こんなことするの?」
「毎日はないけど、まあ三日に一度ぐらい?」
「じゃあ、これで僕も乙女化できたね♪」
「それは違うと思う……」
人生、何事も経験だと痛感しております。
わき毛を抜くの、とても気持ちいいですよ。
お試しあれ。
了
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