上 下
1 / 1

初めてだから、痛くしないでね……

しおりを挟む

 僕は今年、40歳になる。
 最近になって、気になることがある。
 それはわき毛だ。

 タンクトップで、鏡の前でポーズして見ると、ニョキッとボーボーくんがはみ出る。
 なんか臭そうだし、僕は切りたい衝動を抑えられなくなった。
 だから、持っていたハサミで、じょきじょきと切りまくる。(幼児が使うような小さなやつ)
 洗面所で切ったせいか、詰まってしまった……。
 割り箸を使い、全て除去したが。

 仕事中の奥さんに相談した。
 ハサミで切ったとはいえ、まだまだボーボーだ。
「え? なんで今更切るの!?」
 奥さんは突然の告白に驚いていた。
「だってわき毛があるから、臭い気がするんだよ。それに軽くなる気がする。だから切りたい」
 僕は妻がいつもムダ毛処理をしている方法を聞いた。

 女性用のカミソリがあるらしい。
 そういえば、妻は夜な夜な風呂場でやっていたような……。

 僕は洗面所からピンクのカミソリを発見。
 風呂場で、ボディソープを脇に塗り、恐る恐る剃ってみる。
 だって脇って色んな血管があって、傷つけると、神経とか痛めると聞くから。

「じょりじょり……」

 これがなかなか難しい。
 剃っては、水で流し、剃っては、水で流し……の繰り返し。

 30分間ほど剃りまくって、ようやく黒いもじゃもじゃは無くなった。
 だが、まだ縮れ毛がいくつも残っている。

 帰宅した妻へ、すぐ脇を見せてみた。
「キンモッ!」
 うぇ~ と苦い顔をされてしまった。

「ねぇ、これからどうするの?」
 妻はカミソリを使い終えたあと、いつも開かずの間で、なにやら一人、後処理をしていたはず。
 ドアを開けようとすると、
「味噌くんは絶対に入ってこないで!」
 といつも怒られていた。
 妻曰く「脇は墓場まで持って行く」そうな。

 確か、その時の音は、かなり凄まじい大きな音だった。
『ガガガガガッ!』
 と。
 
 僕は電動シェーバーみたいなので、剃っているのかと想像していた。
 だが、違うらしい。

「あれのこと? 剃るんじゃなくて、抜くんだよ?」
「ウソ!?」
「本当だよ。電動のやつで抜くの」
「痛そう!」
「そら、痛いよ。初めは血も出るからね」
「えぇ……」


 晩ご飯を食べ終えたあと、妻に再度、訊ねる。
「本当に抜くの?」
「うん」
「じゃあ怖いから、妻子ちゃんが抜いて」
「いいよ」


 子供が寝静まったダイニングキッチンで、僕は仰向けに寝転がる。バンザイ状態で。
 妻が小型の機械を持ってきた。
 スイッチを入れると、『ガガガガガ!』と恐ろしい音が鳴り響く。

「こ、怖い! ゆ、ゆっくりして!」
「わかったから、動かないで。痛かったら、教えてね……」
 そう言って、妻は僕の左脇に機械を当てる。

「あっ……」
 思ったより、痛くない。
 むしろ、気持ち良い。
「どう?」
「すごく良いです……」
「ハハハ! 長い毛だから、面白いように抜けるわ!」
 どうやら、妻のムダ毛処理魂に、火がついてしまったようだ。

 結局、反対側の脇も抜くことになった。

「あっ……あっ……」
「痛くない?」
「まだやめないで。もっと抜いて」
「え~ もう赤いよ? 初めてだから、今夜はこれぐらいにしなよ」
「はい……」

 パイ●ンぽくなった僕の脇を、再度妻に見せつける。
「どう? 女の子ぽい、キレイな脇になれた?」
「えぇ……黒いし、そこまではキレイじゃない。むしろ、キモい」
「そうかな? 面白くない?」
「いや、キモい。あと、まだ縮れ毛が残っているから。もし、女の子だとしたら、アウトだね」
「え、じゃあ、女の子ってデート前とかに、毎晩こんなことするの?」
「毎日はないけど、まあ三日に一度ぐらい?」
「じゃあ、これで僕も乙女化できたね♪」
「それは違うと思う……」


 人生、何事も経験だと痛感しております。
 わき毛を抜くの、とても気持ちいいですよ。
 お試しあれ。

  了
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

Family 〜愛の歌〜

帆希和華
エッセイ・ノンフィクション
 愛の歌と題して今まで3作書きました。今回、ほっこり、じんわり賞をやっているのを知り、いいチャンスだと思いました。伝えていきたい、知ってもらいたいという願いを叶えられるかもしれないからです。  3作を少し編集して新たに書いたものです。  産まれた赤ちゃんわんこの4匹のうち、2匹が天国へと旅立ってしまい、その悲しさで心が崩れてしまいそうだった。そんなときにそのことを書き残して、産まれてきたことを伝えていきたい、そう思い書き始めました。  どういうことかは内容を読んでいただけるとありがたいです。    小説ではないですが、心を込めて書きました。  自分とわんことそれを支えてくれる彼氏との日常です。    

平々凡々 2021

るい
エッセイ・ノンフィクション
毎日、何かを考えてる。   日々の出来事。 人間は、いつも“何か“を考えている。 そんな「考え事」を吐き出しております。

記憶のかけら

Yonekoto8484
エッセイ・ノンフィクション
アルツハイマー病を患う祖母の介護を手伝いながら,楽しい思い出や辛い思い出など,祖父母と様々な時間を共にしながら,大人になって行く一人の少女の想いを綴った作品。最終的に祖父母の最期に立ち会うことになる少女は,深く傷つくがその心の痛手を生きる力に変えていこうと決意する。 家族を看取るとはどういうことなのか,病気の人の尊厳をどう守るのか,大事な人の臨終に立ち会った遺族は心の傷とどう向き合えばいいのか、自問自答を重ねた回想録。  あなたにとって、本当に大切な記憶は何ですか?あの時の大好きな人に、今、会えますか?   言えなかった言葉、できなかった行為。 過去を振り返ることで、あなたの背中が温まり、そっと前に押し出してくれる、かもしれません。

嵐を呼んだ英国男子

あおみなみ
エッセイ・ノンフィクション
1996年9月、台風17号(ヴァイオレット)の中、家族で行ったライブの思い出をだらだら書きました。 昨年9月に公開したものを加除修正を含めて再アップします。

いつも元気な私が突然、盲腸になった話。

まる
エッセイ・ノンフィクション
これは私の入院記録。

現在、自作にお気に入り付けれる件

ぷにぷに0147
エッセイ・ノンフィクション
おっと、不具合かあ?

実はおっさんの敵女幹部は好きな男と添い遂げられるか?

野田C菜
エッセイ・ノンフィクション
Life is color. Love is too.

あなたの鼓動が聞きたくて

あきの さち
エッセイ・ノンフィクション
結婚前から不特定多数の相手と交際を続けていた男性とは知らずに結婚。結婚生活26年の間にも数々の疑惑・事実が巻き起こったが現実に目を伏せていた。そんな26年目に夫の真実の顔を知った精神崩壊時にある人に出会う。 

処理中です...