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第五十三章 ヘタレ主人公改造計画
生まれ変わり
しおりを挟む宗像先生は今夜から早速、この個室で寝泊りするそうだ。
部屋には、折り畳み式の簡易ベッドが備えてあり、それを使うらしい。
俺が意識を取り戻して、数時間経ったが……。
先生以外、誰も部屋に訪れることはなかった。
「そういえば、先生。家族以外は面会禁止なんですよね?」
「ああ、それがどうかしたか?」
「どうかしたって……なんで、他人の先生が来ているのに。俺の家族は見舞いにすら、来ないんですか」
「え? それはアレだろ? お前のお母さんが、育児で忙しいからだろ?」
「い、育児……?」
一体、誰を育児しているってんだ。
「お前の妹さん。大変なんだろ?」
「妹って……かなでは、もう高校生ですよ。一人で色々とやれますよ」
「違うよ。そっちの子は養女だろ? 最近、産まれたもう一人の方だよ」
「は……?」
「なんでも、18年ぶりのお産だから、大変だったそうじゃないか。今は、中洲のおばあちゃん家でお世話になってるらしいな」
ちょっと待ってよ。
誰の子?
母さんが妊娠していただと……。
そういえば、最近母さんの姿を見ないと思っていたが。
まさか、里帰り出産だったのか?
当たり前のことだが、どうしても疑いがあったので、質問してみた。
「その妹って、父親は誰ですか?」
「はぁ? そりゃ、お前のお父さんだろ。名前もお父さんが決めたって聞いたぞ」
ファッ!?
六弦の野郎……たまに帰って来て、激しく愛し合っていたと思ったら。
ちゃんと、避妊しとけよ! ガキじゃないんだから。
一体、何を考えているんだ。あの親父。
「へ、へぇ……それで名前は?」
「うむ。やおいちゃんって言うらしいぞ」
「……はぁあああ!?」
これには入院中の俺でも、ブチギレてしまった。
「なんだ? いきなりうるさいな。可愛らしい名前じゃないか」
どこがだ! その名前でよく役所に通ったな。
「先生は意味を知らないからでしょ? 子供につける名前じゃないですよ!」
「そうか? でも、戸籍上は“やよい”らしいぞ」
「な、なら、どうして……?」
「やよいって呼びかけると、泣き叫ぶそうだ。そこで、おばあちゃんがやおいちゃんと言ってみたら、落ち着いたそうだ。だから、やおいと呼ぶことにしたらしい」
「……」
ばーちゃん、もうやめてよ。
これ以上、被害者を増やさないで。
その後、宗像先生から詳しい話を聞くと。
母さんは実家の中洲で、寝込んでおり。
代わりに、ばーちゃんが俺の妹であるやおいのお世話をしているそうな。
なんて、かわいそうな妹だ。
きっと今頃、ばーちゃんお手製のBL絵本で洗脳されているに違いない。
※
それから数日後。
宗像先生は、スクリーングのために一度、学校へ行くことになった。
折れた脚や傷を治すのも当然だが。
それよりもまずは、ちゃんと食事を取れるようにならないと。宗像先生からきつく注意された。
だが……ベッドテーブルに置かれた病院食は、一切手をつけていない。
病院の食事だから、薄味というのもあるが。
それよりも、まだ胸の痛みが激しく、喉を通らない。
部屋の奥から、扉をノックする音が聞こえてきた。
若いナースさんが、新しい点滴の袋を持って、問診に訪れた。
俺が未だに食べられないので、栄養を補う点滴は外せないらしい。
「あらぁ、また食べてないじゃない。ミハイルくん、ダメでしょ!」
「すみません……」
俺が病院に担ぎ込まれた際、ずっとミハイルの名を呼び続けていた為、そのまま登録されてしまった。
「そんなんじゃ、また高校の先生に怒られるよ? ずっと看病してくれる良い先生じゃない~ 今時あんな教師いないよ」
「はい。頭では分かっているんですけど。どうしても食べられないんです……」
「困った子ね。あ、違ったらごめんね。ひょっとして、恋わずらいとか?」
ギクッ! なぜ女性には、すぐにバレるんだ?
「その……はい」
もうめんどくさいので、認めてしまった。
「はは、若いねぇ。いいなぁ~ ならちゃんと、相手に想いを伝えるためにも、しっかり食べなきゃ」
「がんばります」
「そうだよ。健康になったら、当たって砕けておいで♪」
なぜ、砕ける前提なの?
看護婦だってのに、酷くね。
「じゃあ、また何かあったら言ってね。食べられるようになったら、点滴の交換も無くなるから。あ……それとさ、ミハイルくんって、全然ハーフぽくないね」
「……」
当たり前だろ。
※
夕方になり、宗像先生が病院に戻ってきた。
かなり不機嫌そうだ。眉間に皺をよせ、簡易ベッドにダイブする。
「あ~、疲れたぁ」
「お疲れ様です。どうでした?」
特に悪気はなかったのだが、その言葉で先生に火がついてしまう。
「どうかしただと? 新宮っ! 全部、お前のせいだ!」
「え、俺の?」
「ああ……これを見てみろ」
先生は自身のスマホを、ベッドテーブルの上に置いて見せる。
画面を確認してみると、遠くから誰かを撮影した写真だ。
「あ、アンナ……?」
ツインテールの金髪美少女が、ベンチに座っている。
前回、俺とサンドイッチを一緒に食べたあの場所だ。
ひとり、しかめっ面で何かを咥えている。
チェック柄のミニワンピースに、リボンのついたローファー。
相変わらずガーリーなファッションで、可愛らしい。
しかし問題がある。
その態度だ。
女装している時は、完全に女として演じるのがアンナだ。
だが、この写真ではガニ股で、パンツが丸見え。
今日は白か……じゃなかった。
なんでこんなにガラが悪いんだ?
「せ、先生……これは一体?」
「見りゃわかるだろ? タバコを吸っているんだよ」
「なっ!?」
もう一度写真を確認すると、口に咥えているのは白いタバコだ。
当然、火がついている。
「どうしてタバコを吸っているんですか!? ミハイルはもう喫煙者じゃないですよ!」
「そんなのものは、私が知りたいぐらいだ。あんなに素直で可愛い古賀だったのに……。新宮が事故で一ヶ月以上、入院。面会もできないと伝えたら、一気にグレてしまったんだ!」
「えぇ……」
その後、先生に「もう一枚の写真も見てみろ」と言われたので、画面をスワイプしてみる。
全日制コースの男子たちが、アンナを囲み。
何やら、いやらしく笑っている。
「古賀がパンツ丸見えの状態で、タバコを吸っていると話題になってな。三ツ橋高校の生徒たちがナンパに来たのだ」
「そ、それで?」
「答えは最後の写真を見ろ」
恐る恐る、次の写真を見てみると。
ボコボコにされた全日制コースの男子たちが、アスファルトの上で倒れていた。
可愛らしいツインテールの少女が、体格の良い少年の胸ぐらを掴んで、睨みつける。
そして、少年の瞳に向かって、火のついたタバコを近づけようとしていた。
「私が止めなかったら、危なかったぞ」
「え……?」
宗像先生は咳ばらいした後、ブリブリした女を演じてみせる。
『ねぇ☆ あなたの瞳、涙でいっぱいだから。このタバコの火を消すのにちょうど良いよね☆』
と脅したらしい。
「新宮、やはりお前らはどちらが欠けると、全然ダメだ。さっさと身体を治せ!」
「は、はい……」
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