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第五十二章 怒涛の2年生編

食欲=性欲(♂)

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「でもな、新宮。冗談じゃないが……シンデレラってのはさ。午前零時で魔法がとけちまう、お姫様だよな?」
「はぁ……」
「結局のところ、お前が作り上げた幻想だろ? 古賀 アンナっていう女は」
「そ、それは……」

 言葉につまる俺に対し、宗像先生はそっと肩に触れる。

「私は心配なんだ。急に痩せちまう新宮と、自分を女だと言い張る古賀がな」
 先生の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
「宗像先生……」
「お前がかけた魔法だろ? なら王子様の新宮が、古賀を解き放ってやれ」
「解き放つって……どうやってするんですか?」
「そんなものは簡単だ! スカートをめくって男だということを、クラスのみんなに教えてやれ。そして、そのままお前が襲えばいいだろ♪」
「……」

 できるわけないだろ、そんなこと。
 聞いた俺が、バカだった。

  ※

 とりあえず宗像先生から事情を聞いて、ホッとしたいうか。
 ミハイルの考えを、理解できた気がする。
 要は、女であるアンナだけを見て欲しいってことだろう。

 事務所を出て、廊下を歩いていると。
 二年生の教室が何やら騒がしい。
 窓から中を覗くと、たくさんの男子生徒がアンナを囲んでいる。
 みんな別人だと思い込んでいるようだ。

「アンナちゃん。この前はマジでサンキューな! おかげでほのかちゃんとイブを過ごせたよ。でも一ツ橋高校へ来るなんて、奇遇だね」
 と話しかけるのは、スキンヘッドの千鳥 力だ。
 幼なじみだと気がついてない。
「ううん☆ ほのかちゃんと仲良くなれて、アンナも嬉しいよ。取材の効果が出たみたいだね☆」
「おお! 取材もバリバリやってるぜ! この前なんか、ネコ好きおじさんと出会いのバーに行ってきてさ……」

 ちょっと、リキ先輩たら。どんどん界隈の深いところまで、取材しているじゃない。
 とりあえず放っておこう。

 教室の扉を開こうとした瞬間。
 ガラっと中から、開けられてしまう。
 目の前に立つのは、ギャルのここあ。
 腕を組んで、俺を睨んでいる。

「あんさぁ……ちょっと、廊下で話そうよ」
「お、おう」

 きっとアンナのことだろう。
 とりあえず、教室に入るのは諦めて、彼女の話を聞くことに。

「ねぇ、どうして。ミーシャじゃなくて、女装したアンナが学校へ来たの?」
「いや……この前も話したが、俺が抱きしめたり……色々とあって。女装した姿を見てほしいみたいだ。ミハイルは」
「は? 言っている意味が分かんないんだけど?」
「まあ、そうだろな……」

 俺は宗像先生が話してくれた内容を、ここあにも説明した。
 すると、ここあは難しい顔で考えこむ。

「え? マジで頭が混乱するんだけど……女役だから、カワイイ自分を見てってこと?」
「そんなところだ」
「ふぅ~ん。でもさ、それって元はと言えば、オタッキーのせいじゃん!」
 と俺の胸に人差し指を突き刺す。
「うっ……」
 何も言い返せない。

「オタッキーさ。わがままだよ! ミーシャも欲しがって、女役まで欲しいなんて! ミーシャがかわいそう!」
 気がつくと、ここあの瞳は涙でいっぱいだった。
 一日に二人も女を泣かすなんて……最低だ。

「わ、悪い……」
 とここあをなだめようとした瞬間。
 廊下の奥から、誰かがこちらへ近づいてきた。

「え? ケンカ?」

 眼鏡女子の北神 ほのかだ。
 えらく怯えた顔をしている。

「あ、ほのか。違うぞ! こ、これは……」
 上手く言い訳できない俺を見かねて、ここあが代弁してくれた。
「違うんよ。ほのかちゃん……オタッキーにミーシャの相談をしてたの。急に引っ越したていうじゃん? だから寂しくてさ」
 アホなここあにしては、ナイスなフォローだ。
 これで女装の話やアンナの正体を隠せる。

「ミーシャって……ミハイルくんのことでしょ? 引っ越してなんか、してないでしょ」

 これには、俺とここあも驚きを隠せない。

「「え?」」

「今も教室の中で、リキくんと仲良く話しているじゃん。なんかアンナとかいう、謎の設定で先生に紹介された時は、ビックリしたけど……」
 まさか……バレているの?

「な、なにを言っているんだ、ほのか。あの子はミハイルのいとこだぞ。紛れもない女の子だ」
 ここあも俺の話に合わせる。
「そうそう! 双子ってぐらい似ているけど、全然違うって!」

 俺たちの話を聞いて、ほのかは真顔で答える。

「いや、どう考えてもミハイルくんでしょ? 女装しているけど……」

「「……」」

 よりにもよって、腐女子のほのかにバレてしまった。
 担当編集の白金にこれ以上、関係者を増やすなと言われていたのに……。

  ※
 
 もうバレてしまったことは、仕方ないので。
 ほのかにも、ミハイルが女装をする理由を簡単に説明した。
 そのうえで協力してほしいと、ここあと頭を下げる。

「そっかぁ。なるほどねぇ……そんな趣味があったんだぁ~ うーん、琢人くんって受けだと思ってたのに、バリバリ攻めだったとは」
 そう言うと、眼鏡を怪しく光らせる。
「あ、あの……ほのか? なんか勘違いしていないか?」
「私のことなら大丈夫よっ! ミハイルくんの女装も黙っておくわ。二人で好きにヤッちゃっていいわ! 校内でも無理やりするんでしょ!?」
「……」

 やっぱり言わなければ、良かった。
 腐女子のネタにされちゃう。

「いやぁ~ 琢人くんが弱みを握って、女装させる鬼畜プレイが好きとか……盲点だったわ! 忘れないうちにペンタブで漫画にしよっと♪」
 もう勝手にしてくれ……。

 とりあえず、三人の中で話はついたので。
 教室へ戻ることに。

 相変わらず、たくさんの男子生徒がアンナを囲んでいた。
 女装した途端、ミハイルを見る目が違う。
 なんというか……いやらしい目つきに感じる。

 俺は強い憤りを感じていた。

「あ、タッくん~☆ 戻ってきたんだ☆」
 アンナの声がなかったら、こいつらをぶっ飛ばしているところだ。
「ああ……待たせたな」
 自分の席に座り、次の授業。数学の準備をしようとした瞬間。
 思い出す。なにも教科書を持って来ていないことに。

「タッくん、どうしたの?」
「その……今日の教科書を、全部忘れて……」
「なら、アンナと一緒に読もうよ☆」

 そう言うと彼女は、机をピッタリとくっつけて、教科書を広げる。

「これで一日、一緒にいられるね☆」
「あ、ああ……」

 無意識にやっていると思うが、肘と肘がくっつく距離感。
 間接的とはいえ、久しぶりにアンナの肌に触れられて、嬉しかった。
 その証拠に……最近、無反応だった股間が、ギンギンに盛り上がってしまう。

 これで一日を過ごすのか……本当に持つかな?
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