451 / 490
第五十二章 怒涛の2年生編
女の子になっちゃうよぉ~!
しおりを挟むアンナが自己紹介を終えると、生徒たちがざわめき始める。
無理もない。
男のミハイルが、急に遠くへ引っ越し……。
女として、別人のアンナが編入してきたのだから。
その場で立ち尽くす俺に、アンナが手を振る。
「タッくん~☆」
これには、周りの生徒たちも驚きを隠せない。
だって俺たち二人は、仮にとはいえ、彼氏彼女の関係みたいなものだから。
何も言わなくても、友達以上の関係に見えるだろう……。
そこへ宗像先生が「静かにせんかっ!」と一喝し、場をなだめる。
生徒たちが静かになったところで、アンナに「新宮の隣りに座れ」と促す。
コツコツと音を立てて、優雅に歩いて見せるアンナ。
よく見れば足もとは上靴ではなく、ヒールが高いローファーだ。
大きなリボンがついた可愛らしいデザイン。
完全に、デートモード。
嬉しそうに、俺の隣の席へ座るアンナ。
「タッくん。今日からよろしくね☆」
「あ、ああ……」
この時、心の中で2つの強い気持ちがぶつかり合っていた。
それは安心感と寂しさ。
目の前に元となるミハイルがいるのに、女として振舞うアンナ。
せっかく俺のために、学校へ編入してくれた彼女には悪いが……。
「そこは、ミハイルの場所だ」と思ってしまった……。
※
ホームルームが終わると、宗像先生が俺を呼びつける。
「新宮! ちょっと話がある。一人で事務所へ来いっ!」
「は、はい……」
話し方からして、きっとお説教だろう。
次の授業まであまり時間がないのだが、とりあえず、事務所へ向かう。
って、教科書を一冊も持って来なかった奴が、何を言ってんだか……。
事務所へ入ると、宗像先生が不味そうなコーヒーを用意して、俺を待っていた。
またアレを飲まされるのか。
「なにを突っ立っておるか? 早くソファーに座れ」
「はい」
俺は二人掛けのソファーへ腰を下ろし、反対側のソファーにガニ股で座る宗像先生。
こういう時の先生は、絶対に怒っている。
興奮のあまり、太ももを閉じないから、今日も紫のレースが丸見え。
しんどい。
「……新宮。一体どうしてこうなったんだ? 私は古賀を呼び戻せ、と言ったはずだが。なぜ女装したブリブリのアンナが編入したんだ?」
「えっと、それは俺にもわかりません……ずっと連絡が取れなくて……」
そう答えると、宗像先生は深いため息をつく。
「はぁ……どうせ、お前たちの歪んだ愛情表現のせいだろ?」
「え、どういうことですか?」
「数日前のことだ。急に古賀から私に電話がかかってきてな。遠くへ引っ越すから、代わりにいとこを編入させてくれと言われたんだ」
「ミハイルがですかっ!?」
「当たり前だ……。でもその本人は引っ越していないよな? 現に今も女装してクラスにいるのだから」
「うっ……」
何も言い返せなかった。
「去年の運動会を覚えているか?」
「あ、はい……ミハイルがMVPを獲ったんですよね」
「うむ。その時に私が何でも願いを叶えてあげると、約束したろ? あれを使ったんだ古賀は」
「?」
俺が黙って首を傾げていると、宗像先生が代わりに答えてくれた。
「わからんか? ヒソヒソ声だったからな。古賀はあの時『オレのいとこをいつか編入させてください』と私に頼んだのだ」
「なっ!?」
「私もその時は、女装する趣味とか知らなかったから、了承したが。まさかこんな形で利用されるとはな……」
「じゃあ……アンナは女の子として、編入したんですか?」
「ま、そういうことだな」
と肩をすくめて見せる先生。
ていうか、あんたが願いを断れば良かったじゃん……。
※
アンナが編入してきたことは、全く予想できなかった。
まだ頭の中は混乱している。
しかし、少しずつ。彼……ミハイルが望んでいることが見えてきた気がする。
俺と絶交する際、ミハイルは男の自分を選んだことに傷つき、怒っていた。
女のアンナではなく、素の彼を抱きしめ、キッスまでしようとした俺に。
つまり逆ならば、ミハイルは傷つかなったのかもしれない。
女装した状態……完璧な女の子。アンナならば。
「先生……ミハイルを、いやアンナを女子として、編入させたんですよね?」
「そりゃそうだろ? だってお前らが作った設定だし……それに古賀を取り戻すには、嘘を突き通さないとなぁ」
「でも、中身はあくまでも、男のミハイルですよ? トイレとか、更衣室とか一体どうする気ですか?」
「うむ……私もそれは悩んだが、大丈夫だろう。便所は3階の職員用を使えば良い。スクリーングは日曜日だから、他の女性教員は使用しない。私ぐらいだ。逆にどんな下着をつけているのか、覗いてやろうと思っている」
ふざけろ。見ていいのは、俺だけだ。
「そ、そんな……無理があるでしょ?」
「無理なもんか。私はお前ら生徒たちが、一番だと言っているだろ! 更衣室も時間をずらして使わせたら良い。その辺はちゃんと配慮してやるから大丈夫だ。それよりも……いつまで持つか? って話じゃないのか?」
宗像先生はそう言うと、鋭い目つきで俺の顔を睨みつける。
「え?」
「あのな。私はお前ら二人とも、心配なんだよ……。女装して恋愛ごっこをするのも結構だ。しかし、新宮。そのやせ細った身体はなんだ?」
薄くなった胸板を、人差し指で小突かれてしまう。
「こ、これは……最近、食欲がなくて。でも、さっきアンナが作ってくれたサンドイッチを食べられましたよっ!」
それを聞いた先生は、鼻で笑う。
「フンッ。アンナね……どっちでも良いが、この前古賀に振られたのが原因だろ?」
「はい……」
「新宮、お前。あれから何キロ瘦せた?」
「えっと……3キロぐらいですかね、ははは」
笑ってごまかそうとしたら、更に宗像先生を怒らせてしまう。
「なめるな! 10キロ近く痩せたんだろ!? 何年教師をやっていると思うんだ! 見ればわかるっ!」
「すみません……その通りです。今52キロぐらいです……」
「ほれみろ。言わんこっちゃない! ちなみに身長はどれぐらいある?」
「え、170センチですけど?」
俺がそう答えると、宗像先生は自身のスマホを取り出し、何かを検索し始めた。
「おい……お前は、シンデレラになりたいのか?」
「え? なんのことですか?」
「身長が170センチで、体重が52キロだと“シンデレラ体重”になるんだよっ! 女の私より細くなりやがって!」
「はぁ……」
なんだ、ただの嫉妬か。
しかし……ミハイルがいなくなっただけで、俺はここまで落ちてしまうのか。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
クールな生徒会長のオンとオフが違いすぎるっ!?
ブレイブ
恋愛
政治家、資産家の子供だけが通える高校。上流高校がある。上流高校の一年生にして生徒会長。神童燐は普段は冷静に動き、正確な指示を出すが、家族と、恋人、新の前では
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる