450 / 490
第五十二章 怒涛の2年生編
ヒロインの交代
しおりを挟む「タッくん、久しぶりだね☆」
「……アンナ。どうして?」
俺の隣りに立つ金髪のハーフ美少女は、間違いなく本物だ。
幻影などではない。
その証拠に、2つのエメラルドグリーンを輝かせている。
しかし、なぜ?
「あのね、ミーシャちゃんが教えてくれたの☆」
「ミハイルが?」
目の前に本人がいると言うのに、驚いてみせる。
だって俺は、アイツに絶交されたから……。
もう二度と会ってくれない。そう思っていた。
「うん☆ なんかSNSを見ていて、タッくんがどんどん痩せているから。心配なんだって」
「そ、そうか……ミハイルが、俺を心配してくれたのか……」
安心したところで、どっと気が抜ける。
その場で、地面に倒れ込んでしまった。
するとアンナが慌てて、俺のそばに駆け寄る。
「タッくん!? 大丈夫? やっぱり食べてないから、元気がないんだよ……アンナが作ってきたから、あそこで食べよ」
「え?」
アンナに手を引かれて向かった先は、一ツ橋高校の校舎。
玄関の近くに、ベンチが1つだけある。
ベンチの下には、錆びたペンキ缶が置いてあった。
ここは、宗像先生がスクリーングの時だけに、設ける喫煙所だ。
ヤンキーだけが、利用する場所なのだが……。
今朝は誰も使っていない。
きっと、朝が弱い……というか、やる気がないからだろう。
「さ、タッくん。ここに座って。また倒れちゃうよ?」
「ああ……でも、俺は学校へ来たんだ」
そう断ろうとしたが、アンナの馬鹿力で強制的に座らせられる。
「ダメだよっ! 今のタッくんは、栄養不足で危ないんだから!」
「わ、悪い」
とりあえず、ベンチの隣りにリュックサックを置いて。
彼女に言われるがまま、黙ってベンチで休憩することに。
アンナは持参してきた、かごバッグの中をごそごそと探している。
そこで、俺はようやく気がついた。
髪が長いことに。
この前ミハイルに会った時は、ショートカットへばっさりと短くしていたのに。
彼女の横顔をまじまじと眺めていると、アンナが視線に気がつく。
「どうしたの? 何かアンナの顔についている?」
「いや……髪型が変わってないなって」
「なに言っているの? アンナは最近、美容室とか行ってないよ?」
「そ、そうか……じゃあ、気のせいだな」
ひょっとして、ヅラか?
※
「さ、タッくん。朝ごはんを作ってきたからねぇ☆」
そう言って、弁当箱の蓋を開けるアンナ。
中には、色とりどりの具材が挟まれたサンドイッチが、ギッシリと詰まっていた。
おしゃれなワックスペーパーで、1つずつ包まれている。
最初に渡されたのは、卵サンド。
手に持つと、まだ冷たい。
彼女が持ってきた弁当箱をよく見ると、保冷剤が目に入った。
傷まないように……アンナの優しさを感じる。
「いただきます……」
恐る恐る、ひと口かじってみる。
正直、怖かった。
なにも受けつけない毎日だったから、アンナの食事でも吐き出してしまうのでは?
という恐れがあった。
「……っくん。うまい」
それを隣りで聞いたアンナは、パーッと顔を明るくさせる。
「良かったぁ~! まだまだおかわりがあるから、食べてね!」
「ああ、ありがとう。アンナ、これなら食べられそうだ……」
「うん☆ 魔法瓶に温かいトマトスープを入れているから、それも出すね☆ 身体がぽかぽかするよ☆」
そう言って、コップにスープを注ぐアンナ。
彼女が言う通り、まだ温かいようだ。湯気が立っている。
ふと、アンナの横顔を見つめると、緑の瞳に涙を浮かべていた。
サンドイッチを頬張りながら、呟く。
「アンナ……」
「タッくん。もっともっといっぱい食べてね☆ これからちゃんと食べられるまで、アンナが作ってあげるから!」
「すまん」
ん? 食べられるまで?
どういうことだ?
※
まだ弁当を食べている際中だが、そろそろ生徒たちが校舎に集まってきた。
普段はヤンキーが、タバコを吸っている喫煙所なので。
悪目立ちしていた。
すれ違う生徒たちの視線が、気になったのか。
アンナは慌てて、ベンチから立ち上がる。
「ご、ごめん。タッくん! アンナ、やることがあったの! ちょっと2階の事務所に行かなきゃ……」
「へ?」
「タッくんはまだ食べていてね☆ 食べられるなら全部食べるんだよ!」
「お、おう……」
卵サンドを食べ終え、今度はレタスサンドを味わっている。
非常に美味い。
レストランに出していいレベルだ。
「じゃあ、またあとでね☆」
そう言うとアンナは、一ツ橋高校の玄関へと走り去る。
「……」
一人取り残された俺は、温かいトマトスープをすする。
「っはぁ~」
青空の下で愛妻弁当を、食べられるとか。
幸せだなぁ……って、何を気取っているんだ俺。
部外者であるアンナが、なぜこの一ツ橋高校に来たんだ?
しかも、2階の事務所へ向かった。
わ、分からん……。
彼女に言われたからではないが、とりあえずアンナの作った弁当は残さず、キレイに全部食べた。
空になった弁当箱を持って、俺も校舎の中に入り、2階へと上がる。
今日から俺は、2年生になったので。
教室も隣りのクラスへと移動することになった。
ちなみに教室棟の2階は、3クラスしかない。
だから、真ん中のクラスへ移ったってことだ。
教室のドアを開くと、既にホームルームが始まっていた。
遅れて入ってきた俺を見て、宗像先生がギロっと睨む。
「新宮! 進級したばかりなのに、遅刻か!? たるんでいるぞ!」
えらく機嫌が悪そうだ。
「す、すみません……食事を取っていたので」
「な~にが食事だっ! 終業式をサボりやがって! 去年の単位を全部はく奪しちまうぞっ! 早く席に着け!」
「はい……」
ていうか、俺。
本当は今日、退学届を出しに来たんだけどな。
いつもの癖で、教室に入ってしまった。
前のクラスと同じ位置にある、席へ着くと。
後ろから、肩を突かれる。
「ねぇねぇ……」
振り返ると、赤髪のギャル。花鶴 ここあが座っていた。
専属絵師のトマトさんは、なぜか床で正座している。
ここあに怒られているのかと思ったが、「ブヒブヒ」言いながら、彼女の太ももを拝んでいるので。仲は良いのだろう……。
「どうした? ここあ」
「オタッキーさ。その後どう? ミーシャは戻ってきそう?」
「それなんだが……」
言いかけた瞬間、宗像先生が怒鳴り声を上げる。
「こらぁっ! 新宮と花鶴、私語は慎め! 額にナイフを投げちまうぞ、バカ野郎!」
「す、すみません……」
だから、いつまでそのネタを引きずっているんだよ……。
「ええ……話が逸れた。ごほんっ! 古賀 ミハイルについてだが、事情があって遠くへ引っ越すことになった」
宗像先生の話を聞いた俺は、驚きのあまり席を立つ。
「そ、そんな……ウソでしょ? 先生っ!?」
立ち上がった俺を注意せず、宗像先生は黙って首を横に振る。
ただ、人差し指を唇に当てていた。
黙って見ていろってことか。
「古賀は休学となるが、いとこの女子が編入してくることになった。お前たちと同じ2年生だ。仲良くしてやれ」
「まさか……」
「おいっ! そろそろ良いぞ。教室に入って来い!」
先生が手招きすると、教室の扉がガラっと音を立てる。
現れたのは、先ほど俺に愛妻弁当を作ってきてくれた美少女だ。
「初めまして。古賀 アンナです☆ 皆さん、今日からよろしくお願いします☆」
礼儀良く、おじぎをする金髪のハーフ美少女。
「な、なんで……?」
ミハイルじゃなくて、アンナが戻ってきたのかよ。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる