449 / 490
第五十一章 暗黒時代
青春時代
しおりを挟むヒロインであるアンナが、男だと分かった以上。
このままアニメ化するには、不安要素が多すぎると白金は頭を抱える。
とりあえず、原作は売れているので、設定は女の子のまま……。
またアンナ役にYUIKAちゃんを、起用することも保留にするらしい。
可愛い女の子としてオファーしたのに。正体が女装男子だとバレたら、役とは言え、炎上しかねない。
俺を元気にするため、博多社まで呼んだ白金だったが。
結局、何の解決にも至らず。
アニメの話さえ、ボツになりそうだ。
なんだったら白金の方が、ダメージが大きく見える。
「ま、まあ……DOセンセイ。どうにか、ミハイルくん。いや、アンナちゃんとしっかり仲直りしてください」
青ざめた顔で、視線は床に落ちている。
「善処してみる……」
覇気のない声で呟くと、その場を去った。
※
何度かミハイルに、連絡を取ろうと電話をかけてはみた。
しかし電源を切っているようで、出てくれない。
メールも同様だ。
仕方がないので、今度はアンナのL●NEに、メッセージを送ってみたが。
既読マークすらつかない。
完全に、心を塞いでいるようだ。
最初こそ、宗像先生に言われた通り、SNSを使い。
楽しんでいる自分を演じ、発信していたが……。
俺自身が耐えられなくなり、今は放置している。
毎日、あの日を思い出す。
ミハイルに、絶交された日のことを……。
俺があの時、ちゃんとアイツの想いに答えることが出来たら。
今でも二人仲良く学校へ、行けたのだろうか?
後悔だけが残り、何もやる気が出ない。
前回の試験が実質、最後のスクリーングだった。
あとは、終業式のみ。
一ツ橋高校は単位制の高校だ。編入して、半年で卒業する生徒も多い。
だから終業式と合同で、卒業旅行を行う。
去年、みんなで別府温泉へ旅行に行ったのは、そのためだ。
ある日、宗像先生から電話がかかってきて。
『新宮。終業式に必ず来るんや! 今回は大阪に行くんやで! 食いだおれやで!』
と誘われたが……。
ミハイルが来ないなら、意味がない。
俺は初めて、高校をサボってしまった。
~それから時は経ち~
もう俺には、限界だった。
この終わらない毎日が……。
白うさぎを食べられるとは言え、体重は下がる一方だ。
空腹により、思考が上手くまとまらない。
小説を書く以前に、日常生活に支障をきたすレベル。
気がつけば、俺もミハイルと同じ行動を取っていた。
退学届……。
これを宗像先生に渡して、終わりにしよう。
そう決断したのは、季節が変わり、春になったころ。
2年生になったばかり。
今期、1回目のスクリーングの日。
本当なら、教科書や体操服で、リュックサックはパンパンに膨れ上がるはずだ。
しかし、俺が中に入れたのは、一枚の封筒のみ。
軽くなったリュックサックを背負うと、リビングへ向かう。
「あら、おにーさま。おはようございます♪」
妹のかなでが、テーブルに並べられた朝食を、美味そうに食べていた。
玉子焼きに鮭。納豆と味噌汁。大盛りの白飯。
実に健康的な食事。最後にこんなご飯を食べたのは、何時だろう……。
俺とは対照的で顔色も良く、新しいセーラー服は持ち前の乳袋で破れそうだ。
高校生になって、更に胸が巨大化したような。
猛勉強の末、かなでは見事、国立の名門校に合格した。
福岡県内では、トップレベル。
いつも男の娘ゲーで興奮している変態だが、偏差値が70越えという結果が出ているので。
実力なんだろうな……。
「か、かなで……。お前、今日は高校、休みじゃないのか?」
「そうですけど。高校の友達と天神で待ち合わせしてますの♪」
日曜日に天神で、級友と遊ぶだと?
こいつが? 高校デビューってやつか。
「な、なるほど……。気をつけてな」
「気をつけるも、なにも。インテリぶったJKを沼に落とすだけですから♪ “オタだらけ”で薄い本を買い漁るのですわ!」
「……」
うちの妹のせいで、優等生が腐ってしまうのか。
かわいそうに……。
「それより、おにーさま。最近ご飯を食べませんのね? 一体どうしてです?」
「ちょっと色々あって……」
ミハイルに振られたから、ショックでとは言えん。
「何か悩み事のようですね。でも、ご安心くださいな。今日あたり必ず良いことが、起こりそうですよ♪」
「え?」
妙に自信たっぷりのかなでを見て、まさか……とは思ったが。
ミハイルは今、携帯電話の電源を切っているし。
※
地元の真島駅から、小倉行きの列車に乗り込み。
一ツ橋高校がある赤井駅へと向かう。
本当なら、2駅離れた席内駅で。
「おっはよ~☆ タクト☆」
と一人のショーパンの少年が、駆け込んでくるのだが。
なにも起こらない。
ため息を漏らして、赤井駅にたどり着くまで、待つことに。
駅から15分ほど歩いた先に、名物である心臓破りの地獄ロードが見えてきた。
もう慣れたと思っていたが、久しぶりにこの坂道を歩くと。
足が鉛のように重く感じた。
リュックサックには、何も入れてないのに。
誰かが俺の肩を引っ張っているような……。
息遣いも荒くなる。
「はぁ……はぁ……」
今日で終わりだ。
もうこの坂道とも、お別れ。
俺にはやっぱりガッコウなんて、居場所は似合わない。
宗像先生に怒られても良いから、退学届を出して。
さよならだ。
自分にそう言い聞かせて、坂道を登る。
登り切ったところで、強い風が吹きつけた。
今のやせ細った身体では、立っていることさえ困難だった。
ふらつくとバランスを崩し、俺はそのまま坂道へ転げ落ちる……。
そう思った瞬間、誰かが優しく背中を押してくれた。
「危ないよ☆」
この声は、まさか。
そんなことは……ありえない。
だって、俺を捨てたはずだ。
「タクトはやっぱり、オレがいないとダメだな☆」
そう言って、エメラルドグリーンを輝かせるアイツ。
胸に空いた大きな穴が、やっと塞がった気がする。
彼の顔を確認しようと、振り返る。
「み、ミハ……?」
後ろに立っていたのは、俺が待っていたアイツじゃなかった。
桜の花びらが舞い散る坂道で、優しく微笑むのは。
胸元に大きなピンクのリボン、フリルのワンピースをまとった女の子。
カチューシャにも、同系色のリボンがついている。
美しい金色の長い髪を、肩から流していた。
「タッくん。おはよう☆ こんなところから落ちたら大変だよ☆」
「あ……アンナ? なぜ、お前がここに?」
「ふふっ。なんでだろね☆」
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
女ハッカーのコードネームは @takashi
一宮 沙耶
大衆娯楽
男の子に、子宮と女性の生殖器を移植するとどうなるのか?
その後、かっこよく生きる女性ハッカーの物語です。
守護霊がよく喋るので、聞いてみてください。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる