432 / 490
第四十九章 どこかで誰かが見ている。
ファッションってのは自由ですから……。
しおりを挟むまだ”三が日”の二日目だというのに。
朝早くから、電車に乗りこみ……博多へと向かっている。
今回の目的は、取材なのだろうか?
正直、博多にこだわらなくても、良い場所だ。
だって、ラブホテルだもの。
田舎でもあるだろうに。
去年、俺がひなたやアンナとラブホテルへ行った……と作品に書いてしまったため。
マリアが例の如く。記憶の改ざんを行うため、三度同じホテルへ行くことになった。
なにが楽しくて、童貞が3回もラブホテルへ行くんだ……。
そう思いながら博多駅の中央広場へと向かう。
説明は不要だと思うが、一応……黒田節の像で、待ち合わせすることになっている。
ジーパンのポケットから、スマホを取り出すと。
何件かメールが入っていた。
ミハイルからだ。
『タクト。お正月を楽しんでる? オレはね、今勉強しているの☆ ほら、もうすぐ一ツ橋高校の期末試験じゃん? だから、返却されたレポートを頑張って覚えているの☆』
「ぐっ!?」
その文章を見た瞬間、胸に激しい痛みを覚える。
罪悪感からだ。
アホのミハイルが、お正月だというのに。
期末試験の勉強だと!?
昨年と違い、めっちゃ真面目になってる。
きっと……俺と一緒に卒業したいから、苦手な勉強を頑張っているんだろう。
まあ、天才である俺は、あんな動物園の試験なんて、予習復習する必要はない。
しかし、そんな頑張っているミハイルを思うと。
今から行く場所に、ためらいを感じる。
とりあえず、ミハイルのメールに返信を送ることにした。
『正月から偉いな。そんなに頑張っているなら、今度の試験は良い結果になるかもな』
それに対して、すぐに彼から返事が届く。
『ホント!? じゃあ、頑張る☆ タクトはなにしているの? 勉強?』
いかん、この回答に失敗すれば、ミハイル……いや、アンナがホテルへ襲撃に来るはずだ。
それだけは阻止せねば……事件になりかねない。
言葉を選び、慎重にメッセージを打ち込む。
『俺はミハイルが作ったお雑煮とおせち料理で、お腹がいっぱいだ。それでちょっと休んでいる』
うむ。これならば、彼が不快な思いをしない。
尚且つ、マリアの存在も隠せる。
『そっか~☆ タクトがひとりで食べちゃったんだぁ☆ じゃあまた来年も作るよ☆ お腹を横にして休んだ方がいいよ。またね、タクト☆』
「よし……今回は大丈夫だ」
小さく拳を作って、勝利を確信する。
いや、恐怖が薄れたにすぎない。
背後からマリアを刺す……恐れがあったからな。
※
「ごめんなさい。待たせでしょ?」
視線を上げると、ひとりの少女が目の前に立っていた。
金色の長い髪に、宝石のような碧い瞳。
こちらをじっと見つめて、笑みを浮かべる。
待っていた人間が、俺だと分かったからだろう。
「いや、そこまで待ってないさ。マリア」
彼女の名前を口に出すと、嬉しそうにする。
「ふふふ。ごめんなさいね。ちょっと寝ぐせが直らなくて……」
「ほう。俺は別に髪型なんて、気にしないが」
「私が気にするのよ! タクトって本当にデリカシーがないわね!」
笑ったと思ったら、怒ったよ……。
なんで?
今日のマリアも、ファッションは普段と変わらず。
黒を基調としたシンプルなデザインのワンピースを着ている。
胸元には、白い大きなリボン。
細くて長い脚は、白のタイツで覆われている。
まあ真冬なので、上着として、ファーコートを羽織っているが。
しかし、あれだな。
アンナとは違い、なんというか色合いがシンプルで、つまらない。
それでいて、毎度同じ服を着ているような……。
俺はその疑問をマリアにぶつけてみた。
「なあ……気になることがあるのだが、聞いてもいいか?」
「え? タクトが私に質問なんて……珍しいわね。良いわよ、なんでも聞いて♪」
そう言って、胸を張るマリア。
ノーブラだから、トップが透けてしまいそう。
「あのさ。お前ってなんで毎回、同じ服を着ているんだ? 1着しか持ってないのか?」
俺がそう言った瞬間、整った彼女の顔がグシャっと歪む。
「はぁっ!? 私がそんな貧乏に見えるの!? 失礼ね! こう見えて、アパレルブランドの社長よ! ファッションには気を使っているわ!」
また怒られてしまった。
「しかしだな……俺から見るに、同じ色のワンピースを、着ているように見えるのだが」
「それは、タクトの目が腐っているからよ! 分かる人には分かるの!」
確かに俺は、ファッションには疎い。
でも、素人から見ても、同じ服にしか見えない。
「じゃあ……同じように見えても、全然違うファッションなのか?」
「そうよ! こう見えて、私は自分でデザインした服を着ているの。モデルもやっているわ。だから宣伝も兼ねて人気の商品を、自ら着て歩いて回るのよ」
「つまり、今一番人気な商品だから、着ているということか?」
「ええ。今着ている服も全て、売れているベスト5から決めたわ!」
「なるほどな……」
でも、その考えだと。
売れ行きによって、自身のコーディネートがランキングで固定されるんだろ?
じゃあ、変動がない限り、同じ服じゃんか。
なんか前にもこんな話を、誰かとしたような……。
あ、退学した制服を大量に購入し、着回している北神 ほのかと話した時か。
俺は年がら年中、タケノブルーだけ着ているから、関係ないね。
このブランドだけで良し。俺はマリアと違う。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
僕は絶倫女子大生
五十音 順(いそおと じゅん)
恋愛
僕のコンプレックスは、男らしくないこと…見た目は勿論、声や名前まで男らしくありませんでした…。
大学生になり一人暮らしを始めた僕は、周りから勝手に女だと思われていました。
異性としてのバリアを失った僕に対して、女性たちは下着姿や裸を平気で見せてきました。
そんな僕は何故か女性にモテ始め、ハーレムのような生活をすることに…。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
お兄ちゃんは今日からいもうと!
沼米 さくら
ライト文芸
大倉京介、十八歳、高卒。女子小学生始めました。
親の再婚で新しくできた妹。けれど、彼女のせいで僕は、体はそのまま、他者から「女子小学生」と認識されるようになってしまった。
トイレに行けないからおもらししちゃったり、おむつをさせられたり、友達を作ったり。
身の回りで少しずつ不可思議な出来事が巻き起こっていくなか、僕は少女に染まっていく。
果たして男に戻る日はやってくるのだろうか。
強制女児女装万歳。
毎週木曜と日曜更新です。
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
なりゆきで、君の体を調教中
星野しずく
恋愛
教師を目指す真が、ひょんなことからメイド喫茶で働く現役女子高生の優菜の特異体質を治す羽目に。毎夜行われるマッサージに悶える優菜と、自分の理性と戦う真面目な真の葛藤の日々が続く。やがて二人の心境には、徐々に変化が訪れ…。
女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男
湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。
何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる