上 下
430 / 490
第四十八章 年越し男の娘

もう一人の四天王

しおりを挟む

 ばーちゃんがデザインしたBLイラストのせいで、辺りにちょっとしたギャラリーが出来てしまった。
 俺を見ているわけではない。
 あくまでも、俺の背中。
 着物の中でイカされた漢に、注目が集まっている。

 その人だかりを見て、アンナも驚いていた。
「え? なにこれ……みんながこっちを見てる」
「すまん。どうやら、俺の着物が気になるようだ。ほら、背中にばーちゃんが、イラストを刺しゅうしたからさ……」
 彼女に背中を見せてやると、「あぁ~」と納得していた。
「タッくんのおばあちゃんって器用だもんねぇ。すごいよ~ マネできな~い☆」
 あなたは真似しなくていいです。絶対に。

 
 最初の頃は、ノンケじゃなかった……一般の人々。
 耐性のない人たちが、それを見て言葉を失ったり。吐き気を催すこともあった。
 しかし、噂を聞きつけた一部の女性陣が、スマホを持って撮影会を始めやがる。

「すごい! 神絵師!」
「これ……どこかで見たことなかったけ?」
「Oh my God!! Isn't that a phoenix?」
(なんてことだ! あれはフェニックスじゃないのか?)


 ん? 最後の人って、外国人か?
 あ、そうか。きっと遠い国から、日本へ旅行に来たというのに……。
 お正月から汚いものを見せられて、ショックを受けたんだろう。

 悪いことをしたなと、振り返ってみると……。

 背の高い白人男性がこちらを指差して、口を大きく開いていた。
 かなり驚いている様子で、隣りにいたパートナーの女性の肩を激しく揺さぶる。

 何が起きた分からない金髪の女性が、男性の指さす方向に視線を合わせると。

「It's God……」
(神だ……)

 二人して、手で口を塞ぎ。お互いの顔を確かめている。


 一体、何が起きたんだ……と思っていたら。
 白人の男性が、こちらに近づいてくる。

「あの……チョット。良いデスか?」
 カタコトだが、日本語を話せるようだ。
「はい? なんでしょう?」
「そ、その……着物デスが。どこで買ったのデスか?」
「へ?」
「ワタシたちは、アメリカから旅行に来ました。クリスマスをコミケで祝おうとしたからデス」
「はぁ……」
 なんだよ。アメリカからやって来たオタクくんじゃん。
 ったく、ビビらせんなよ……。
 
「あなたの着物。フェニックスのデスよね?」
「え、フェニックス……?」

 それを聞いて、すぐに察した。
 ばーちゃんの和服って、海外のお客さんにも売っているんだった!
 店の名前も『腐死鳥フェニックス』だし……。

  ※

 白人男性の彼から、ばーちゃんのブランドが、母国で大人気だと教えてもらった。
 粋な着物に卑猥なイラストが、プリントされているのが斬新で。バカ売れしているらしい。
 それで、彼の隣りに立っている女性は、アメリカの腐女子らしく。
 コミケのあと、初詣に筥崎宮へ来たら、俺の着物に目がいったそうだ。

 やっぱアメリカにもいるのか……腐女子って。

「それで、どこに行けば。買えますデスか?」
 彼氏の方は日本語を話せるようだが、彼女さんは無理みたいだ。
 ニコニコと笑ってはいるが、俺の答えを黙って待っている。
「あ、えっとですね……」
 俺が孫だということは伏せて、説明を始める。

 中洲なかす川端かわばたの商店街に行けば、ど真ん中にあるし。
 看板も派手に『腐死鳥』と書いてあるから、間違えることはない。と伝えた。

 それを教えると、彼氏さんは大喜び。
「ありがと、ございます! あなたはホントーに優しいデスね! わたしたち、ついてます! BL界のシテンノウがひとり。”キクのモンドコロ”に会えるのデスから!」
 それを聞いた俺は、頭が真っ白になる。
「え……あの、今BL界の四天王って言いました?」
「ハイ! アメリカでも有名なインフルエンサーなのデェス! BLグッズを作らせたら、世界一の人デス!」
「……」

 BL界の四天王。
 もう一人は、うちのばーちゃんだった……。

 聞いてもいないのに、彼氏さんはスマホを取り出し、自身のフォローしているインスタを見せてくれた。
 確かに『腐死鳥 phoenix』という名前で活動している。

 しかしだ……四天王の名前だよ。
 娘がケツ穴 裂子。
 母親が、菊の紋所って酷すぎだろ。

 ただの下ネタじゃねーか!

 ツボッターで検索したら、すぐにヒットした。
 フォロワーも500万人を超える、世界的な有名人。
 我が家から、どんだけの恥部を晒す気なんだ……。
 これ以上、デジタルタトゥーばかり、生み出すのは止めて欲しい。
 
「はぁ……」
 うなだれる俺とは対照的に、アンナは嬉しそうだ。
「タッくんのおばあちゃん。有名人なんだね☆ なんだか自分のように嬉しいな☆」
「ははは……そ、そうだね……」

 アンナの前では、気丈に振舞っていたが。
 どうしても、気持ちの整理がつかず。
 彼女に一言。「トイレに行きたい」と伝えて、その場を離れる。

 トイレの個室に駆け込むと、ひとりで壁を殴りながら、泣き叫ぶ。

「クソがぁっ! なんで、俺ばかりこんな目にっ!」

 このあと、落ち着くために、30分を要した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...