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第四十八章 年越し男の娘
BLはエロ本じゃない。アートだ!と母が言っておりました。
しおりを挟む「うまい……」
新年初めて、口にしたのは暖かい汁。
ミハイルが作ってくれたお雑煮だ。
魚のかつおなど一切、入っておらず。
彼が熱弁していたものは、福岡県の特産野菜で。
かつお菜という、緑色の小松菜みたいなものだ。
ひと口食べてみたが、特に辛くもないし、苦くもない。
だが、風味というか……だしとして、良い野菜だと感じる。
気がつくと、頬から涙が溢れ出る。
「こんな……優しい料理は、久しぶりだ」
愛情たっぷりのお雑煮と豪勢なおせち料理が、とても嬉しかった。
作ってくれたのは、男だけど。
それでも、こんなに愛を感じる食事は、生まれて初めてだ……。
正月といえば、家族でおせち料理を囲み、みんなで仲良く喋りながら、ゆっくり過ごす。
そんなドラマみたいなお正月は、我が家にはない。
リビングで一人、ミハイルが用意してくれたお雑煮を暖めて、静かに食べる。
そばには、誰もいない。
妹のかなでは、受験勉強でダウン中。
久しぶりに帰ってきた親父だが……。
廊下の奥にある書斎で、一晩中『母さんの相手』をしている。
もう朝の10時だってのに、終わる気配がない。
こっちにまで、聞こえてくる始末。
「琴音ちゃん! 今年もよろしくぅ!」
「あああっ! あけおめっ、ことよろ~!」
なんて酷い新年の挨拶をしているんだ。この夫婦は……。
「最高だよ、琴音ちゃん! 18年前を思い出しちまうよ!」
子供を使って、興奮するとか最低な親父だ。
「六さん、私。もう……壊れちゃうぅぅぅ!」
とっくの昔に、壊れてるだろ。
この叫び声と激しい振動で、俺はろくに眠れなかった。
かなでも、うなされていたから、親父と母さんのせいだろう。
「あほらし……」
餅を咥えて、箸で伸ばしてみる。
久しぶりに食う雑煮だから、喉に詰まらせないよう、慎重に食べていたら。
テーブルの上に置いていたスマホが鳴る。
甲高い声で歌を唄うのは、アイドル声優のYUIKAちゃんだ。
年末に発売した新曲、『ピーカブースタイル』。
今回の曲は、なんとYUIKAちゃんがラップにチャレンジしている。
最高かよ。
と曲を楽しんでいる場合ではない。
着信名は、アンナだ。
「もしもし?」
『あ、タッくん! あけましておめでとう☆』
「おお……そうだったな。おめでとう。今年もよろしく」
我が家では、こんな新年の挨拶もしないので、動揺してしまう。
『うん、よろしくね☆ ところで、タッくんは今日、家族と過ごす感じ?』
「え、俺が家族と?」
『だってお正月だからさ。普通はみんなで一緒に初詣とか』
「ああ……そういう話か……」
アンナに指摘されるまで、全然思いつかなかった。
そうだよな。
普通の家族なら、みんなで初詣とかするもんね。
俺ん家が、おかしいんだよ。
赤ん坊の頃から、コミケに連れて行くような家庭だ。
1歳になった時。“選び取り”をさせられたらしいが。
普通は、そろばんとお金か、筆を選ばせるのに……。
お袋とばーちゃんのいたずらで、百合とBLの同人誌を並べられ。
見事、BLを掴んだという、写真を見せられた時は絶句した。
『もしもし、タッくん? 大丈夫、なんか息が荒い気するけど……』
電話の向こうで心配しているアンナが、想像できた。
「はぁはぁ……すまん。嫌な過去を思い出してしまったんだ」
『え? お正月にあまり良い思い出がないの?』
「ま、まあな。うちはちょっと変わっているから」
『ならさ。アンナと今日、いい思い出を作ろうよ☆』
「へ?」
『初詣に行こうよ☆』
「あぁ……初詣か。そうだな、行ってみるか」
俺がそう答えると、アンナは嬉しそうに笑う。
『やったぁ~☆ タッくんと初詣だぁ。お母さん達とどこかに行くんじゃないかって、不安だったから、嬉しいな☆』
「そんな気を使うなよ。アンナの頼みなら、いつでも大丈夫だ」
だって、うちの親だよ?
未だに廊下の奥から、喘ぎ声が止まらないんだ。
むしろ、すぐにでも家から飛び出たい。
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