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第四十七章 初めてのイブ
暑いとロンスカで、寒いとミニスカで……(困惑)
しおりを挟む夕方と言っても、ちゃんと時刻は指定されていなかった。
しかし、少なくとも16時ごろには、博多駅でデートをするんだろう……。
と思った俺は、昼食を取った後、早めに電車へ乗って、博多に向かった。
博多口を出た瞬間から、人でごった返していた。
こんなにもイブの博多駅は、大勢の人で賑わっているとは……。
万年童貞だった俺には、見たことのない光景だ。
やはり若者が多く感じる。
特にカップル。ていうか、カップルしかいねーじゃん!
クソがっ! イチャイチャしやがって。
こいつら、あれじゃないか?
もう事後なんじゃないの……。
だって、こんな寒い日だってのに、彼女たちはみんなマイクロミニのスカートだぜ。
意味がわからん。
お腹はちゃんと、暖めておけよ。
クリスマス会場でもある駅前広場は、いつもと違い、そこだけ幻想的な空間と化していた。
右手には、たくさんのイルミネーションがキラキラと輝いている。
家族連れやカップルで賑わっており、早くも写真撮影で盛り上がっていた。
反対側の左手に、巨大なツリーが飾られており。
そこを中心にクリスマス会場が、設けられている。
様々な屋台が並んでおり、主に海外の伝統工芸品を販売している。
クリスマスにまつわる物。キャンドルやアートグラス。アクセサリーに、鹿の角まで……。
本当ならすぐに、いつもの待ち合わせ場所である、黒田節の像へ向かいたいところだが。
特設のフードコートで、像が封鎖されていた。
参ったな……と思い、とりあえず、人ごみを搔き分けて、像の近くまで辿りついた。
近づけないから、仕方ないと思い。マリアがここに来るのを待つ。
しかし、こんなに人が多いのに、像の前で待ち合わせなんて……できるのか?
俺たちがやっていることって、昭和なんじゃないの。
~30分後~
目の前で美味そうに、チキンを頬張るカップルを見て、苛立ちを隠せずにいた。
「クソ。あ~、寒いし腹減ったなぁ……」
それにしても、マリアのやつ。
遅いな……ちょっと連絡してみるか。
ダッフルコートのポケットから、スマホを取り出した瞬間、着信音が流れ出す。
相手は、マリア。
「もしもし?」
『タクト。ごめんなさい。もう博多駅にいるのよね?』
「ああ、マリア。お前、今どこにいるんだ?」
『私も博多にいるのよ……でも、ちょっとトラブルがあってね』
「ん?」
マリアも博多にいるのに、駅にいないだと?
意味が分からん。
渋滞とかかな?
『前に言ったと思うけど、私ってアメリカで、ファッションブランドを立ち上げたじゃない?』
「ああ……そう言えば、そんなこと言ってたな」
『それで日本にも支店ていうか、オンラインストアをオープンしたり、色々と事業を拡大しようと思ってね。とりあえず福岡に事務所を借りたのよ』
「ほう」
『博多って何かと便利だから、小さなビルの一室を借りたのだけど。最近、嫌がらせが多くてね』
「嫌がらせ? どんなことだ?」
『かなり悪質ね。頼んでもないピザを30人分、頼まれたり。高級寿司を数十万円も持って来られたり……たまに、火事の誤報で消防車や救急車まで』
ストーカーってレベルじゃない……犯罪じゃん。
しかし、この犯行。誰かに似ているような。
「マリア。お前、その事務所ってホームページとかに、住所を記載しているか?」
『もちろんよ。会社だもの』
「……」
なんかすごく嫌な予感がしてきた。
「それで、マリア。なぜ博多駅に、まだ来られないんだ?」
『本当にごめんなさい、タクト。私と初めてのイブなのに……』
「え?」
『両親とまだホテル暮らしなんだけど。私だけ事務所で缶詰したりするのよ。それで昨日から徹夜して、寝落ちしたら……事務所のドアが、強力な接着剤でガチガチに固められて、開けられないの』
「あ……」
そんな悪質なストーカーは、1人しか思い浮かばない。
『今、業者さんに開けられるように、頼んでいるんだけど。6時間以上はかかるそうよ。ドアの鍵穴は接着剤で埋められたし、ドアの隙間も全て埋められて、ビクともしないんだって』
「そ、そうなんだ……」
『おまけにね、ビルの廊下に段ボールを山のように、置き配されてね。業者さんも通りづらいの、もう嫌になっちゃうわ!』
「こ、怖いな……」
そこまでやるとはね。
『はぁ……タクトとの、イブデートが楽しみだったのに。ごめんなさいね、悪いけど今日は帰ってくれるかしら? 埋め合わせは必ずするから、ね?』
「ああ。マリア、あんまり気を落とさないでくれ……またいつか取材しよう」
『ありがと、優しいのね。タクトって。好きよ、チュ♪』
「……」
いや、マリアが寛大すぎるんだよ。
普通に通報レベルなのに……。
しかし、彼女を八方塞がりにしたということは。
犯人は恐らく、この近くにいるんじゃないか?
恐怖からスマホを持つ手が、ガタガタ震え始める。
「まさか、アン……」
そう言いかけた瞬間、視界が一気にブラックアウトする。
冷たいが柔らかい。
この感触、なんか覚えがあるんだけど。
「だーれだ?」
この甲高い声の持ち主は……。
「あの、もしかして……アンナさんですか?」
「ブブーっ! でも、おしいかな☆」
そう言うとようやく顔から、手を離してくれた。
振り返れば、サンタさんの仮面を被った女の子が1人、立っている。
「正解は、サンタアンナでしたぁ~☆」
「……」
ぎゃあああ!
やっぱり、いたぁ~!
昨日の余裕ぷりは、これだったのか!?
最初から、マリアとのデートを潰すつもりでいたんだ。
仮面を外すと、特に悪びれることもなく、ニコニコ微笑むアンナの姿が見えた。
「タッくん☆ こんなところで、何しているの?」
あんたこそ、なにしているんだよ!
「いや……マリアと取材だったんだけどさ。ダメになって」
「そうなんだぁ~ きっとマリアちゃんは悪い子さんだから、サンタさんから、天罰を食らったんだよ☆」
「サンタさんが……?」
あなたがしたんでしょ。全部……。
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