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第四十六章 男の娘生誕祭
ジェットコースターに乗る時、ピアスは外しておこう。
しおりを挟むケーキを食べ終える頃、俺はリュックサックから小さな箱を取り出す。
以前、カナルシティのアクセサリーショップで購入したピアスが、中には入っている。
アンナのために、誕生石を加工して作ってもらった特別なプレゼント。
ただプレゼントを渡すだけなのに、緊張する。
口の中が渇いて、上手く話すことができない。
「あ、アンナ……。これ、誕生日のプレゼントなんだ。受け取ってくれないか?」
なんて格好の悪い渡し方だと思った。
しかし、渡された本人は、緑の瞳をキラキラと輝かせる。
「え!? アンナにくれるの!? 嬉しい! タッくん、ありがとう☆」
プレゼントを大事そうに受け取り、早速「開けていい?」と俺に尋ねる。
もちろんだと、俺が頷くと、丁寧に包装紙を開いていく。
結んでいた紐でさえ、折り畳み、持って帰るようだ。
ギフトボックスをゆっくり開く。
そこには、透き通るような綺麗なブルー。
タンザナイトのピアスが2つ、並んでいた。
開けた瞬間、アンナはその輝きに驚く。
「きれい~ これ、タッくん。高かったんじゃないの?」
喜ぶよりも先に、金額を心配されてしまった。
「ま、まあ……アンナには色々と世話になったしな。取材もいっぱいしてくれただろ? 印税とか入れば、訳ないさ」
半分は合っているが、本当は違う。
純粋にあげたかった……。
「そっかぁ……ごめんね。気を使ってもらって」
ついには顔を曇らせてしまう。
「気は使ってない。俺が祝いたいと思ったから、やったまでだ。アンナにつけて欲しいって……」
言いながら、「これ告ってない?」と自分にツッコミを入れたくなった。
「アンナにつけて欲しいの?」
「ああ。お前の耳に似合いそうだ」
無言でお互いの瞳を見つめあうこと、数秒間。
アンナは黙って、ギフトボックスからピアスを手に取った。
首を左側に向けて、うなじを俺に見せる。
どうやら、今からピアスをつけてくれるようだ。
おそらく手術後にずっとつけていた簡素なファーストピアスを外し、俺が用意したタンザナイトを差し込む。
まだ彼女の穴は小さいようで、なかなか新しいピアスが入らない。
時折、「痛っ」と顔をしかめる。
しかしアンナも諦めたくないようで、頑張って最後まで差し込んだ。
ようやく、両方の耳にピアスが入ったところで、お披露目タイム。
「似合う……かな?」
頬を赤くして、耳たぶに手を当てている。
きっと、ピアスが目立つように、やってくれているんだ。
「可愛い……」
自然と、俺の口からはその言葉が漏れていた。
「あ、ありがとう……タッくん、大事にするね☆」
「ああ。たくさん使ってもらえると、俺も嬉しいよ」
※
気がつけば、窓の外は夕陽から星空へと変わっていた。
冬だから、暗くなるのも早い。
スマホの時刻を確認すれば、『19:03』だ。
中身は男とはいえ、一応女の子だ。
早めに帰さないとな……。
「アンナ、夜になったし。そろそろ帰ろう」
俺がそう言うと、彼女は唇を尖がらせる。
「うん……もう夜だもんね……」
名残惜しいが、ちゃんと帰さないとな。
このまま、ドーム近くのホテルへ連れ込む。っていう強引な手もあるが。
それは俺の紳士道に反する。
大人しく、帰ろう。
レストランを出て、エレベーターに乗り込む。
あんなに高かった展望部だが、降りるのは一瞬だ。
博多タワーを出ると、相変わらず外は強風で吹き飛ばされそう。
再度バスを使って、博多駅へと向かおうとしたその時だった。
タワーの前に人だかりが出来ていた。
「えぇ~ 本日は本当に寒い1日ですね。私もコートの中に、カイロを何個も入れています」
マイクを片手に話しているのは、綺麗な格好をした女子アナ。
そのアナウンサーを囲むように、テレビスタッフが何人も並んで立っている。
「しまった……忘れていた」
気がついた時には、もう遅かった。
カメラはこちらをしっかりと捉えている。
博多タワーの目の前には、テレビ局があったんだ。
福岡ローカルのテレビ局だが。
ちょうど、この時間はタワーを目の前に、天気予報をやっている。
夕方のニュースだと思うが、俺とアンナが福岡中に配信されてしまう。
何も知らないアンナが、女子アナの隣りに立っていた着ぐるみへ手を振った。
「あはは。かわいい☆」
それに気がついた着ぐるみも、アンナに向かって、大きく手を振る。
「ん、どうしたのかな? タマタマくん?」
着ぐるみが生放送中に、カメラへお尻を向けたため、女子アナが声をかける。
すると、タマタマくんは身振り手振りで、俺たちのことを説明し出した。
いらんことすな!
「ほうほう。あそこにいるのは、カップルさんですね! では、せっかくなので一緒にお天気を予想してもらおっか♪ タマタマくん」
ファッ!?
俺がその場から逃げようとした時には、もう遅かった。
タマタマくんが、のしのしと音を立てて、こちらへ向かってくる。
もう覚悟を決めるしかなかった。
「可愛い☆ タマタマくんっていうんだ~」
気がつけば、隣りにいたアンナが、謎の着ぐるみと抱きしめ合っていた。
クソが!
中身、男だったらブチ殺してやりたい。
人の女を勝手に触りやがって……。
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