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第四十五章 クリスマス前哨戦

学校のトイレだからって我慢しちゃダメですよ。

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「ハァハァ……マリアたん。早く絡めたいわ……」
 鼻息を荒くして、自前の制服。白いブラウスは、血で赤く染まる。
 ただし、ケガによるものではなく、彼女が興奮しているからだ。
 
 対戦相手のマリアは、試合が開始したにも関わらず、硬直していた。
 きっと、どう接していいか、分からないのだろう……キモすぎて。

「あ、あの……ほのかさんだったかしら? もう始めてもいいの?」
「もちろんよ! まずはそっくりなミハイルくんを女体化させて……それから、マリアちゃんとベッドインさせましょ!」
「え……?」

 ほのかの脳内は、既に自身の創作でいっぱいのようだ。
 アームレスリングなど、どうでも良いのだろう。
 目の前にいる金髪ハーフの美少女を、如何にして、作品で絡めるか……そればかり考えている。
 全く持って、迷惑な生き物だ。

 マリアは困惑した様子で、ずっとほのかを見つめている。

「私、海外にいたから、そういう恋愛感情とか差別する気はないのだけど……。でも試合だから、倒すわね?」
 なんか、幼児に話しかける保育士さんみたいだ。
「うひょお~ 女体化したミハイルくんをベッドに押し倒すですって!? マリアちゃんは、攻めだったのねぇ!」
 暴走するほのかを見て、悲鳴をあげるマリア。
「ひぃっ! ごめんなさい!」
 そう言うと瞼を閉じて、ほのかの腕を倒した。
 
 しかし、負けた彼女は嘆くことなどない。
 眼鏡を光らせて、怪しく微笑んでいる……むしろ嬉しそう。
「うへぇ~、そのブルーサファイア。キレイだわぁ。ペロペロしたい♪」
「あ、あの……試合は終わったのだけど?」
 ほのかは倒されても、マリアの手をずっと離さなかった。
 白く透明感のある美しい肌を、スリスリと撫で回す腐女子。
 確かに、無知なマリアじゃなくても、恐怖を覚える。
 
 そこへ、宗像先生が間に入ってきて、ほのかの手を引き離す。

「勝者! 冷泉 マリア!」

 宗像先生はマリアの腕を上げて、笑っていたが。
 肝心のマリアは、全然喜んでいない。
 真っ青な顔で俯いている。
 なにやら、一人でブツブツと呟く。

「試合は勝ったのに……なぜか、あの子に負けた気がするのだけど」

 そりゃ、あの変態女先生に勝てる人間なんていないだろ。
 創作においてだが……。
 いや違うな。正しくは人間を辞めているから。

  ※

 女子部門の2回戦は、宗像先生とミハイルだ。

 腐女子が多いとはいえ、みんな根はまじめ……というか、基本陰キャばかりだ。
 だから、こういう時。自ら挙手するような女の子は少ない。

 仕方なく、ミハイルの相手は、宗像先生がすることに。

 ミニスカのサンタコスをしていると言うのに、机に肘をつくとガニ股になる宗像先生。
 試合を観戦している俺からすると、紫のレースパンティが丸見えだ。
 汚いので、早く股を閉じて欲しいものだ。

「よいしょっと☆」

 その汚物を隠してくれたのは、俺の嫁……じゃなかったダチのミハイル。
 レザーのショートパンツが、イスの隙間からはみ出る。
 ぷにんとして、柔らかそうだ。
 何かまた怒りが込み上げてきた……“あれ”が触れなかったことを。

 宗像先生が自身の口から試合の始まりを告げる。

「いくぞ、古賀!」
「オレ、負けたくない! 絶対に!」

 ~10分後~

「クッソ~! 強いよぉ~ 宗像センセー!」
「あ、あああ」

 お互い、プロレスラー並みの馬鹿力を所持しているため、なかなか試合が決まらない。
 五分五分と言ったところか。
 だが、宗像先生の様子が少しおかしい。
 唇をかみしめて、何かを我慢しているように見える。

「あああ……ヤバいぃ! 漏れるぅ!」

 これには、周りにいた生徒たちみんな、一斉に声を揃えた。

「「「え!?」」」

「だはぁ! ハイボールを飲み過ぎたぁ! もうダメ! おしっこが漏れちゃうよぉ!」

 アラサー教師がお漏らし発言とか……、しんど。

 
 結局、宗像先生がトイレに行かないと、自習室の床がびしょ濡れになる恐れがあったので、ミハイルの勝利となった。

 自ずと女子部門の決勝戦は、マリア対ミハイルに。
 両者、向かい合うと、お互いを睨みつける。
 双子ってぐらいそっくりの2人だが、やはりこうして並んでみると、違和感を感じる。
 ファッションの好みに、違いもあるのだろうが……。

 一番はその美しい瞳だ。
 特にマリアのブルーサファイアからは、持ち前の性格が現れている。
 決して目つきが悪いとかではなく、瞳が大きいので、目力がある。
 それに「この勝負に勝ちたい」という気持ちが強いからだろう。

 机の上に肘を載せて、ミハイルを待つ。
「さぁ、早く始めましょう?」
 と怪しく微笑む。
 余裕すら感じるマリアに、ミハイルは動揺していた。
「わかってるよ! おまえなんか、すぐに倒しちゃうゾ!」
「フフフ……面白いわ。あなたを見ていると、あのブリブリ女を思い出すの。男の子なんだから、全力でいいわよね?」

 マリアのやつ。アンナのことで、ミハイルに八つ当たりしているな。
 ていうか、張本人だから別にいいか。

 ミハイルは顔を真っ赤にして、安い挑発にのってしまう。
「アンナのことをバカにするな! タクトの大事なカノジョ候補なんだ!」
「フン。あんな地雷系の痛い女が? 笑わせるわね……」

 腕相撲の前に、取っ組み合いの喧嘩が始まらないか、ヒヤヒヤしていたが。
 おしっこから戻ってきた……宗像先生が2人の元へ近寄り、試合開始を告げた。

「女子の決勝戦! 始めぃ!」

 自習室は独特の緊張感が漂っていた。
 みんな、2人のピリッとした空気にやられているようで、静まり返る。
 俺もこの試合で、クリスマスイブが決まる……かもしれないので、一応気にはなる。
 ていうか、俺にイブの選択肢はないんですか?
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