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第四十五章 クリスマス前哨戦

レザーは質感がいいですね

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「タクト……誰かのお尻を触ったの……?」

 真っ青な顔で、こちらをじっと見つめるミハイル。

「み、ミハイル。それは違うんだっ! ちょっと事情があって……」
 自分で言っておいて、苦しい言い訳だと思った。
「アンナのも触ったことないのに?」
 怒っているというより、落胆している様子だ。
 ていうか、アンナの尻なら夏にプールで、サンオイルをぬる時、しっかり撫で回したけど。
 カウントされていないってか?


 重たい空気の中、沈黙が続く。
 しかし、隣りにいたリキは別だ。
 腹を抱えて笑っている。

「ミハイル。聞いてたのか? タクオの奴さ、この一っていう年下の子のケツをいきなり、触り……揉みまくるんだぜ!? ビックリだよな、アハハ!」
 こいつ、いらんことを教えやがって。
「揉みまくってた……?」
 この世の終わりみたいな顔で、リキの話を聞くミハイル。
「ああ。多分、3分ぐらいは揉んでたと思うぜ」
 そんなに触ってねーわ!
「さ、3分も……」
 ヤバい。ミハイルが鵜吞みしている。
 俺が弁解せねば。


「ミハイル! 違うんだ! あれは……俺とお前の関係に必要な行為で……」
 と言いかけている最中で、ミハイルの目つきが鋭くなる。
「オレとタクトに必要? 知らない奴のお尻を触ることが?」
「それは……」

 ヤバい。殺されそう。
 黙り込む俺を無視して、怒りの矛先はリキに向けられた。

「ねぇ、リキ。その触った相手の写真とかないの?」
「ああ。一のか? あるよ。さっき、タクオから貰ったからな。ちょっと待っていてくれ」
 そう言うと、先ほどの卑猥なコス写真を数枚、ミハイルに見せてあげる。
 黙って一の写真を眺めるミハイル。

 小さな唇を震わせて、スマホをスワイプする。
 一の過激なコスプレを見て、ショックを隠せないようだ。
 男とはいえ、かなり際どいコスプレを着ているからな。
 
 しばらく、左右にスワイプを繰り返し、写真を何度も眺めるミハイル。
 深いため息をついた後、リキに礼を言って、スマホを返す。

 そして、俯いたまま、俺の元までゆっくりと近づく。
 俺の右手を掴むと、ボソッと呟いた。

「こっち、来て……」
「え?」

 彼から答えを聞く前に、俺の身体は強引に廊下を引きずり回されていた。
 相変わらずの馬鹿力で、廊下の奥へと連れて行かれる。
 先ほどまで、隣りにいたリキがもう遥か彼方だ。

 一瞬にして、男子トイレへと連れてこられた。
 入ったと思ったら、狭い個室の中へぶち込まれ、扉を閉めてカギをかける。

「ここに座って!」
「え、便座にか?」

 彼に言われるがまま、洋式トイレの蓋を下ろして、座って見せる。
 命令した本人は、何故か顔を真っ赤にしている。
 怒っていると思ったが、どうやら恥ずかしいみたいだ。
 身体を左右にくねくねと動かし、何かをためらっている……ような気がする。


 視線は床に落としたまま、ボソボソと喋り始める。
 
「どうして、一っていう奴の……お、お尻を触ったの?」
 片方の腕を掴み、どこか不安そうだ。
「そ、それは……触ったら……。ミハイルとどう違うのか、知りたかったからだ」
 言っていて、めっちゃ恥ずかしい。
「オレと?」
「ああ……悪いが。もうこれ以上、聞かないでくれ。頼む……」
「分かった……」

 何となくだが、理解してもらえた……? ようだ。
 これで、一安心だな。
 と思ったのも束の間、俺は忘れていたミハイルの拘りを。
 『俺との初めて』を大事にする人間だってこと。


「触ったことは仕方ない……よね。オレが関わっていることみたいだから」
 え、意外に心が広い。浮気がOKなタイプかしら。
「そうなんだ。これも取材みたいなもんで……」
「でも、汚れは落とさないとダメだよね?」
「は?」
 俺は耳を疑った。


「許したくないけど、タクトだから信じる! でも、一の汚れは落として! オ、オレのお尻を触って!」
 顔を真っ赤にして、至近距離で叫ぶミハイル。
「嘘……だろ? 俺たちは男同士じゃないか」
「ダッ~メ! すぐにでも落とす必要があるの! 早く触って、ここで。3分間!」

 そう言って、フェイクレザーのショートパンツを俺へと突き出す。
 黒のレザーだから、蛍光灯の灯りが反射して、キラリと輝いて見える。

 今まで見たことのない、積極的なミハイルの姿に動揺してしまう。
 思わず、生唾を飲み込む。

「本当に触るのか……?」

 自分から言い出したくせに、ミハイルは尻だけ突き出して、トップスのパーカーで顔を隠している。
 きっと、恥ずかしいのだろう。

「は、はやく……早くしてぇ!」

 ダメだ……。
 こんな密室で、可愛らしいヒップを突き出されたら、もう俺の理性が吹き飛びそう。
 その証拠に、股間が見たことないぐらいパンパンに膨れ上がってしまった。

 どうすればいいんだ、俺は。
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