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第四十四章 出産
僕がパパになった日
しおりを挟む自己紹介が終わったところで。
スタッフのお姉さんが、順番に赤ちゃんが眠っているベッドへと案内してくれた。
本来なら、一人につき赤ちゃんもひとりなのだが……。
どうしても、アンナが俺と二人ペアでやりたいと言うので、仕方なく一緒に赤ちゃんの面倒をみることになった。
俺たちが担当する赤ちゃんの性別は……女の子。
「ほう。女の赤ちゃんか……アンナもこの子が良いだろ? 同性の方が……」
言いかけている最中だが、彼女の顔を見た瞬間。言葉を失う。
鋭い目つきで我が子を睨んでいたからだ。
「イヤ……タッくんに女の子の裸を見て欲しくない!」
えぇ。これ、人形なんだけど。
※
鬼のような顔で可愛らしい赤ん坊を睨みつけるから、産まれてくる性別をチェンジしてもらうことに……。
酷いママさん。
スタッフのお姉さんが苦笑いして、新しい赤ちゃんを連れて来た。
今度の赤ちゃんは、正真正銘のオス。
その子を優しく抱きしめるアンナの顔は、なんとも嬉しそう。
「カワイイ~☆ タッくんとの間に出来た赤ちゃんだよぉ☆」
と微笑むのだが、見ているこっちからすると、なんか病んだ人に感じる……。
だって、人形だもん。
「そ、そうか……良かったな」
「うん☆ さ、パパ。この子に名前をつけて☆」
ファッ!?
そんなことまで、しないといけないのか。
なかなか、赤ちゃんの世話を始めない俺たちを見兼ねたのか、5才児のえりり先輩が声をかけてきた。
「おそいよ。しんぎゅーくん」
「す、すいません……えりり先輩」
「名前ぐらい、早くつけてやりなちゃい」
「はい……」
ニコニコ笑って、赤ちゃんを抱っこするアンナの顔を見つめる。
彼女の名前から引用すべきか?
しかし、外国の名前だものな……分からん。
もう適当でいいや。
「YUIKAちゃんで、どうだ?」
推しのアイドルの名前を発した途端、アンナの顔が強張る。
「この子は、男の子だよ?」
ドスの聞いた声だ。
絶対、怒ってるな……仕方ない。
ゆいかを少し変えて、これならどうだろう。
「じゃあ。ゆう……ゆう君でどうだ?」
「カワイイ~☆ それで良いよね? ゆうくぅ~ん☆」
と動かない赤ん坊の手に触れる。
『ありがと~ パパ~ ママ~』
喋り出したよ、ゆう君が。アンナの腹話術によって。
※
名前が決まったことで、ようやく赤ちゃんのお世話を始める。
まず、ゆう君のおくるみを脱がせ、身長と体重を計る。
そして、熱など無いはずなのに、体温計で異常がないか、チェック。
健康な赤ちゃんであることが分かったところで、次はすっぽんぽんのまま、お風呂へ連れて行く。
沐浴ってやつだ。
俺たちの赤ちゃんである、ゆう君。
正直、可愛くない……。むしろ、怖い。
何が怖いかって、瞼を閉じないところだ。
ずっとこっちをガン見しているから、呪いでもかけられそう。
お風呂の中に、ゆう君を入れてみる。
俺が沐浴にチャレンジしている最中、アンナは隣りでニコニコ笑って見ていた。
彼女が言うには、いつか赤ちゃんが産まれてくる時のために、練習して欲しかったようだ。
一生、産まれてくることはないと思うのだが……。
文字通り、パパ活をする俺氏。
しかし、人形といっても、重さは本物と同じように設計されており。
結構、重たい。
身体を水で洗っている最中、手がすべって、湯船に落っこちてしまう。
「あ、ヤベ……」
湯船の上で尻を向け、プカプカと浮かぶゆう君。
どうしていいか、分からず、その場で固まっていると。
アンナが大きな声で叫ぶ。
「タッくん! ゆうくんが、死んじゃう! 早く助けて!」
「え……? なんで?」
人形だから、死なんだろ。
「早く起こして! アンナ達の赤ちゃんだよ!」
「ああ……すまん」
びしょ濡れになったゆう君を助け出し、タオルで拭いてあげる。
もちろん、頭から足先までしっかりと丁寧に。
小さいけど、おてんてんも。
前面が終わったと思ったので、そのままゆう君をひっくり返す。
そして、背中を拭こうとした瞬間。近くにいたえりり先輩から怒鳴られる。
「しんぎゅーくん! うつ伏せになってるでちょ! ゆう君が息できない! 死んじゃうよ!」
「あ、すいません……えりり先輩」
「気をつけてよね。えりりはこのしんせーじしつ、毎日やっているから。ぜん~ぶ知っているの!」
「さすがです……」
5才児に怒られちゃったよ。
なんなの、この取材。
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