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第四十三章 野郎ばかりのラブストーリー?

幽霊写真

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 ハゲのリキ先輩に、一目惚れしてしまった住吉 一。
 しばらく放心状態に陥ってしまい、誰もいないフロアを見つめていたので、俺が彼の肩に触れてみる。

「なあ……俺もゲゲゲ文庫の編集部に、呼ばれているんだが?」
「あ、ごめんなさい。新宮さん、まだ居たんですね……」
 この野郎、人を空気にみたいに扱いやがったな。
「白金を呼んでくれ」
「承知いたしました。少々、お待ちください……」

 元気がないというより、心ここにあらず。と言ったところか。
 頭の中は、リキでいっぱいなんだろう。
 何が良いんだ? 一ってゴリゴリのおじ様好きだったの……?
 いや、リキは俺とタメだってば。

  ※

 しばらくすると、エレベーターからチンと音が鳴り、低身長の女の子が現れる。
 正しくは、アラサーのおばさん。
 俺の担当編集。合法ロリババアこと、白金しろがね 日葵ひまりだ。

「あ、DOセンセイ! お久しぶりですぅ~」
 そう言って、手を振り、こちらに走って来る。
 相変わらず子供服を着用している。理由は安いから。
 30歳も目前だと言うのに、可愛らしいキャンディがたくさんプリントされたワンピースを身に纏っている。
 キモすぎる生物だ。

「白金。写真、ちゃんと用意してきたぞ」
 そう言ってリュックサックから、茶封筒を取り出す。
「え? わざわざ印刷してくれたんですか? データだけでも良かったんですよ」
 俺から封筒を受け取ると、眉をひそめた。
「いや……それについては、ちょっと理由があってだな」
「理由?」
「う、うん……とりあえず編集部で話そう」
「はぁ」


 正直、白金には話したくなかった。
 というか、話せない……。
 ミハイルにひなたの水着写真を問い詰められた際、スマホを取り上げられ、近くのコンビニで写真を印刷。
 そして、茶封筒まで買ってくれて、写真を封入。
 あとはスマホのデータを全て削除。

 ただ、ほのかの写真だけは、「リキが喜ぶよ☆」とミハイルが、勝手に俺のスマホから送信した……という経緯がある。
 だから俺のスマホに、ほのかの写真は一枚も無い。
 競泳水着を着たひなたの写真なんて、もってのほかだ……。


 エレベーターに乗り込み、編集部へと向かう。
 白金の話では、「おかげさまで『気にヤン』が増版に次ぐ増版で忙しいです」と我が子のように喜んでいた。
 まあ、それだけこいつの出世に関わる、初のヒット作品てことだろうな。

 久しぶりの編集部は、かなり様変わりしていた。
 見たことない若い社員が、先輩に指示され、せわしく動き回る。

 いつも俺と白金が打ち合わせに使用する、薄い仕切りで覆われた小さな区画が、更に縮小されていた。
 大きなテーブルに4人分のイスがあったのに……。
 今では、小さな机とイスが2つだけ。

「さ、お座りください。DOセンセイ♪ 写真を改めて、拝見させて頂きますね」
「ああ……」

 腰を下ろした瞬間。どこか軋む音が聞こえた。
 なに、この塩対応。
 VIPなBL編集部との差が酷すぎる。


「う~ん。ほのかちゃんって、けっこう個性が強い女の子なんですねぇ~」
 そう言って、A4サイズまでに拡大された、ほのかの写真を眺める白金。
 満面の笑みで、BLコミックを両手に持つサブヒロインとか、前代未聞だ。
「まあな……ほのかは、腐女子で百合属性もある女子高生だから。てか、こいつがサブヒロインで良いのか?」
「問題ないですよぉ~ 可愛ければいいんですからぁ」
「そう、なんだ……」
 なんか、へこむわ。

 ほのかの写真を確認し終えると、次はひなたの写真に変わる。

「どれどれぇ。お、三ツ橋の制服ですね。これはトマトさんの資料として、最高です!」
「制服が? ん……」
 三ツ橋の制服なら、妹のピーチが持っているだろう。
 資料として、提供する意味があったのか?

「しかしですね。DOセンセイ。このひなたちゃんっていう子なんですが……なんで、どの写真もブレていたり、瞼を閉じていたりするんですか? 変顔が好きなんですかね」
「い、いや……そう言う訳じゃない。ちょっと提供してくれた写真がミスショットばかりでな」
 実はミハイルがわざと失敗した写真ばかり、選んだとは言えない。
「ふ~ん。変わった子ですね。使えないことないですけど……幽霊みたいな顔になっちゃいそうです」
「わ、悪いが……ひなたの顔は誰か芸能人とかを、モデルにしてくれないか?」
 幽霊だと、さすがにかわいそうだから。
「良いですよ。こんな変顔ばっかじゃ、読者も萌えないですもんねぇ」
「すまん……」
 
 こうして、ひなたの写真は身つきと制服だけ、採用された。
 後々聞いた話じゃ、顔はトマトさんが好きなアイドルをモデルにしたらしい…
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