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第四十二章 腐ってもサブヒロイン

ほのかルート?

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 教室へ入ると、ただならぬ気配を感じた。
 
 ナチュラルショートボブのめがね女子、北神 ほのかが入口の前で立ちふさがっていたからだ。
 冬に入り、衣替えってことでいつものファッションはやめたようだ。
 といっても、中退した高校の制服だが。

 白いブラウスとプリーツが入った紺色のスカートは、そのままで。
 グレーのベストに、スカートと同系色であるジャケットを羽織っていた。

 本当に年がら年中、制服を使い倒す気なんだな、こいつ。


 いつもなら、鼻息を荒くして、BLか百合の話を押し付けてくるのに、今日のほのかはどこか元気がない。
 その場で突っ立って、頬を赤くし、俯いている。
 妙にしおらしい。

 顎に手をやり、チラチラと俺の顔を見つめる。

「お、おはよ。琢人くん……」
「ああ、おはよう。ほのか」
「……」
「?」

 謎の沈黙が続く。

 そして、彼女から熱い視線をビシビシと感じる。
 一体、何がしたいんだ?
 ていうか、教室の入口でずっと二人、見つめあっているから、気まずいんだけど。

 ミハイルが俺の背中から、顔を出してほのかに声をかける。

「ほのか、おはよう☆ どうしたの? 元気ないな」
「う、うん……」

 彼から声をかけられて、返答こそするものの、視線はずっと俺に向けたまま。

「あの……琢人くん。実は……話があるの」
「俺に? なんだ?」
「ここじゃ、言えないよ」
「は?」
「二人きりでしか、話せないことなの……」
 と身体をくねくねして、恥じらう腐女子。

 後ろで話を聞いていたミハイルが、一連の会話を聞いて身を乗り出す。

「ハァ!? なにそれ、ほのか! もしかして、こ、告白なの!?」
「そう、かも……」

 いや。この変態のことだ。
 絶対、そんな女らしい発想に至るわけがない。
 何か裏があるな……。


 とりあえず、告白と勘違いしているミハイルを、俺は落ち着かせる。
 一旦、廊下に出て、彼に俺なりの解釈を説明してみた。

「ミハイル。ほのかの言う告白は多分、俺を好きって意味じゃないと思うぞ」
「え、ホント!?」
「ああ。多分、彼女の趣味に関係するものだ」
 俺がそう言うと、ミハイルは小さな手のひらをポンッと叩く。
「あ! そうか、例の病気だな!」
「ま、まあ。そういうことだろうな……」

 彼の中で、BLという性癖は1つの症例なんだね。
 腐女子が可哀そう……。
 
  ※

 俺とほのかは、三階の教室へと上がった。
 スクリーングに使われるのは、二階の教室が主で。
 一ツ橋高校は100人にも満たない生徒たちだから、3クラスあれば、事足りる。
 日曜日だし、教室棟の3階は今、誰も使用していないということだ。

 だから、ここを選んだ。
 以前、全日制コースの福間ふくま 相馬そうまに言いがかりをつけられたのも、この場所だ。


 静まり返る教室の中、お互いの顔を見つめあう。

「……」

 やはり、何か今日のほのかは、おかしい。
 頬も赤いままだし、仕草が女の子っぽく感じる。
 本当に俺のことが好きなのか……?
 こいつが真っ当に恋愛できる人間とは思えんが。

「なぁ、そろそろ、話してくれないか? ホームルームもあるし」
「う、うん……。じゃあ言うね。私の本当の気持ちを……」
 瞳はどこか潤って、色っぽく感じる。
 思わず、俺も生唾を飲み込む。
 何を言い出すか、予想がつかないからだ。
「よし。言ってくれ」
「わ、私……実は……。初めて見た時から、琢人くんのこと、ずっと……気になっていたの!」
「え……マジか?」
「本当だよ。一目惚れってやつなのかも。入学式の時に出会って以来、琢人くんのことが頭から離れなくてね……」
「……」

 これ、マジの告白なのか。
 ウソぉ……困るんだけど。いろんな意味で。

 困惑する俺を無視して、ほのかの告白は続く。

「あなたのことがずっと好きだったの! これが私の本当の気持ち!」
「えぇ……」

 生まれて初めて? 女の子から告白されたのに、全然嬉しくない。
 だって、ゴリゴリの腐女子で変態のほのかだぜ……。
 むしろ吐き気を感じてしまった。
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