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第四十一章 ヒロインは一人で良い
双子コーデ
しおりを挟む走り去っていくマリアの後ろ姿を見て、俺は胸が締め付けられる思いだった。
もう追いかけても、間に合わないと思ったが……。
「マリア、待ってくれ! もう少し話を聞いてくれ!」
声だけが虚しく、カナルシティに響き渡る。
その時だった。俺の肩を優しく触れられたのは。
振り返ると、ニッコリと微笑むアンナの姿が。
「タッくん。そっとしてあげた方がいいと思うな☆」
どの口が言うんだ……。
「いや、しかしだな。マリアのやつ、泣いてたし……」
「ううん。タッくんは男の子だから分からないと思うけど。女の子ってこういう時は、ひとりでいたいって思うの」
なんて、知ったよう口ぶりで語りやがる。
お前は男だろがっ!
結局、アンナに止められた俺は、可哀そうだがマリアは放っておくことにした。
後日埋め合わせをすれば、どうにかなるだろうと……。
「ところで、タッくん☆」
「え?」
「アンナね。お昼から何も食べてないの……どこかで食べて帰ろうよ☆」
この人は……他人のデートを奪っておいて、自分はガッツリ楽しむつもりか。
深いため息をついたあと、俺はこう提案してみた。
「じゃあ……いつものラーメン屋、博多亭でどうだ?」
「うん☆ あのラーメン屋さん、大好き☆」
エメラルドグリーンの瞳をキラキラと輝かせて、嬉しそうに笑うその顔を見ると、なんでか許しちゃうんだよなぁ。
※
ラーメン屋までは、はかた駅前通りを歩くのだが。
空も暗くなってきたので、かなり冷えてきた。
タケちゃんのTシャツにジャケットを羽織っているが、さすがに夜は寒い。
「結構、冷えるな……」
「うん。アンナも冷え性だから、困るかなぁ……あ、あれを使おうよ☆」
「へ?」
彼女が大きな紙袋から取り出したのは、ザンリオショップで購入したイヤーマフだ。
もちろん、普通のマフとは違い、ピンクのもふもふ生地で、フリルとリボンがふんだんに使われたガーリーなデザイン。
主に可愛らしい女の子が好んで、着用する代物だ。
「アンナは女の子だから、“マイミロディ”を使うね☆ タッくんは男の子だから、黒の“グロミ”ちゃんを使えばいいよ、はい☆」
とイヤーマフを渡された。
これをつけろってか?
男の俺が……無理無理。
「悪いがやめておくよ。こういうのって、女の子がつけるもんだろ?」
そう言うと、アンナは頬を膨らませる。
「つけたほうがいいって! 風邪引くよ!」
これをつけて、博多を歩くぐらいなら、風邪を引いた方がマシ……。
「そう言う意味じゃなくてだな……俺は男だから、つけるのに抵抗があるんだよ」
「あぁ。そういうこと。でも、大丈夫だよ☆ グロミちゃんは色が黒だから、男の子カラーだよ☆」
「え……マジ?」
※
結局、俺は半ば強制的にグロミちゃんのイヤーマフを頭につけられ、仲良く博多を歩くことになってしまった。
すれ違いざま、その姿を見た人々は「ブフッ」と吹き出す始末。
なんて、罰ゲームだ。
しかも成り行きとはいえ、ペアルックだもの。
「ちょ、あれ見てよ。今時ペアルックだなんて」
「いいんじゃない? 若いんだし」
「時代は多様性だから、認めてあげないと」
最後の人、別に俺は認めなくていいです!
狙ってペアルックにさせたのかは、分からないがアンナは終始、嬉しそうに隣りを歩いていた。
ラーメン屋について、店の引き戸を開いた瞬間、顔なじみの大将がお出迎え。
「らっしゃい! あら……琢人くんと隣りの子はアンナちゃんかい?」
「ああ、大将。ラーメンを2つ、バリカタでお願い」
俺とアンナはカウンター席に座って、麺が茹で上がるのを待つ。
大将が厨房で麺を湯切りしながら、俺とアンナの顔を交互に見つめる。
「なんか、今日のアンナちゃん。感じが違うなぁと思ったけど、コスプレでもしているのかい? 頭もペアルックしちゃって。二人はもう、そこまで仲良くなったんだねぇ」
勘違いされてしまった……。
しかし、指摘された当の本人は、嫌がる素振りなどない。
「嫌だぁ~ 大将ったら☆ これは寒いから、つけているんですよぉ☆」
「へぇ、今時の子たちは寒いと、そんな可愛いものを彼氏につけるんだねぇ。二人とも可愛いから餃子をサービスしてあげるよ」
「やったぁ☆ 良かったね、タッくん☆」
クソがっ!
こんな恥を晒せば、俺でも餃子が無料になるのかよ。
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