上 下
363 / 490
第四十一章 ヒロインは一人で良い

付き合うか、付き合わないのか……ハッキリせんかい!

しおりを挟む

 マリアは鼻息を荒くして、宿敵であるアンナへ激しく問い詰める。

「いい機会だから、ここでハッキリさせてあげる! 私はタクトの婚約者なの! あなたって、小説のために契約したビジネスパートナーみたいなものでしょ!?」
「違うよ☆ タッくんとは運命的な出会いをした契約関係だよ☆」

 なにそれ……その表現だと、俺がパパ活している親父みたいじゃん。

「運命的な出会い? じゃ、じゃあ……恋愛関係に発展する可能性があるってこと!?」
「どうだろね☆」

 マリアは僅かだが、動揺していた。
 対するアンナと言えば、俺の手を自身の胸で浄化させたという……自身の欲求が満たされた事によって、安心したようだ。
 終始、ニコニコ笑ってマリアに対応する余裕っぷり。

「な、なんなのよ! その、タクトの全てを知り尽くしたような態度は……。ま、まさか! あなた達って……」
 碧い瞳を大きく見開き、アンナの顔を指差して震え出す。
「ん? タッくんとアンナがどうしたの?」
「き……キ、キッスをした関係じゃないわよね!?」

 それまで黙って、見ていた俺だが、思わず空中へと大量の唾を吹き出す。

「ブフーーーッ!」

 だって、ついこの前、ミハイルモードとはいえ、ガッツリとファーストキスを交わしてしまったからだ。
 マリアの勘だろうが……的をしっかり射抜かれた気分だ。
 胸が痛む。そして、息苦しい。

 気がつくと、俺の人差し指は自身の唇を撫でていた。
 一瞬だったが、あの時の感触を思い出したから。
 頬は一気に熱を帯びて、燃え上がる。
 心臓を打つ音がドクッドクッとうるさい。

 ふと、隣りに立っていたアンナに目をやると……。
 同様の仕草を取っていた。
 顔を真っ赤にさせて、小さなピンク色の唇を細い指で触っている。
 俺と目が合った瞬間に、酷く動揺した様子で、目がぐるぐると泳いでしまう。

 お互い、思うことは一致していたいようだ。

 すぐにまた視線を逸らして、地面を見つめたが……。
 俺たちの不自然な態度を、見逃さないマリアではなかった。

「な、なによ! その反応は!? まさか、もうキッスをした関係だっていうの!? 付き合ってもないのに?」
 ド正論だった。
 すかさず、俺が弁明に入る。
「いや……あの時のは、事故で……」
 しどろもどろに言い訳するから、更に墓穴を掘ってしまう。
「事故でも、キスはキスよ!」
「そ、そうじゃないんだ……。アンナとじゃなくて……ダチとしたって、こと?」
 自分で説明していてるくせに、なぜか疑問形。
 もちろん、そんな話じゃ納得してくれないマリアさん。

「意味が分からないのだけど? 全く不快だわ、あなた達の関係性が。ハッキリしなさいよ! 聞いているの? アンナ!」
 ビシッと人差し指を突き付けられたが、当の本人は“キス”という言葉に動揺しており、余裕が一切なくなってしまった。
 顔を真っ赤にさせて、地面をじーっと見つめる。
 この恥ずかしがる態度は、ミハイルに近い。
「え……? な、なんだっけ? マリアちゃん……」
「あなたに聞いているのよ! タクトとの関係性! キスまでしておいて、付き合ってないってどういうこと!? 遊びなら、タクトと別れて!」
 泣きながら怒るマリア。
 よっぽど、ファーストキスを奪われたのが、悲しかったのだろう。
 相手は男だから、カウントしなくてもいいのに。

 アンナと言えば、ずっと上の空だ。
「はぁ……。マリアちゃんは、アンナに一体なにをして欲しいの?」
「あなたに気安く、名前を呼ばれたくないわ。そうね……関係をハッキリして欲しいのよ。恋愛関係を望んでいるわけでもないくせに。私の婚約者をたぶらかす淫乱ブリブリ女!」

 酷い言い様だ。
 だが、ここまで人格を攻撃されても、アンナはポカーンと小さな口を開いていた。
 頭の中がキッスでいっぱいだからだろう。

「うん……だから、なにをハッキリするの?」
「あぁ! 本当に腹の立つ女ね! じゃあ、言うわよ。あなたとタクトは、あそこに並ぶラブホテルへ行きたいかって事よ! それぐらい彼を愛してるかってこと!」

 言われて、また俺とアンナは視線を合わせて、黙り込む。
 何故なら“一度”だが、行ったことはある、からだ。
 コスプレパーティーをしただけだが……。

「「……」」

 謎の沈黙が続く。
 それを見たマリアの怒りは、頂点に達した。

「なによ……なんで黙るの……。まさか! あなた達! 付き合ってもないくせに、ラブホテルへ行ったとでも言うの!?」

「「……」」

 これ以上、墓穴を掘りたくなかったので、俺たちは何も答えることはせず、沈黙を選んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女ハッカーのコードネームは @takashi

一宮 沙耶
大衆娯楽
男の子に、子宮と女性の生殖器を移植するとどうなるのか? その後、かっこよく生きる女性ハッカーの物語です。 守護霊がよく喋るので、聞いてみてください。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

TSしちゃった!

恋愛
朝起きたら突然銀髪美少女になってしまった高校生、宇佐美一輝。 性転換に悩みながら苦しみどういう選択をしていくのか。

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Two seam

フロイライン
恋愛
女子高校野球界に突如現れた水谷優里 彼女は男子に匹敵する豪速球を武器に人々の注目を集めるが‥

そんな事言われても・・・女になっちゃったし

れぷ
恋愛
 風見晴風(はるか)は高校最後の夏休みにTS病に罹り女の子になってしまった。  TS病の発症例はごく僅かだが、その特異性から認知度は高かった。 なので晴風は無事女性として社会に受け入れられた。のは良いのだが  疎遠になっていた幼馴染やら初恋だったけど振られた相手などが今更現れて晴風の方が良かったと元カレの愚痴を言いにやってくる。  今更晴風を彼氏にしたかったと言われても手遅れです? 全4話の短編です。毎日昼12時に予約投稿しております。 ***** この作品は思い付きでパパッと短時間で書いたので、誤字脱字や設定の食い違いがあるかもしれません。 修正箇所があればコメントいただけるとさいわいです。

処理中です...