360 / 490
第四十一章 ヒロインは一人で良い
因縁の場所
しおりを挟む空が夕陽でオレンジ色に染まり出した頃。
マリアと言えば、久しぶりのカナルシティでたくさんの買い物を楽しんでいた。
主に、雑貨が多い。
可愛らしいアクセサリーや色んなキャラクターの公式ショップで購入したグッズ。
夢の国で有名なネッキーとネニーが、プリントされたグラスセット。
本当に女の子らしい物ばかりを好むようになったらしい。
頭の回転が早く、活字が大好きな文学少女のマリアはどこに行ったのやら……。
俺が思っていた以上に、10年間という時は、人をここまで変えてしまうのだろうか。
大きな紙袋を4つも抱えて、満足そうに笑うマリア。
「今日はありがとね、タクト。買い物に付き合ってくれて」
「いや、別にこれぐらい訳ないさ。それより、俺の方こそ、映画のチケットありがとな。無料で見られて、助かったよ」
「え、映画? ああ……あのことね。別にいいわよ。それより、まだ時間ある?」
そう言われて、スマホの画面を確認する。
見れば、時刻は『17:31』だ。
男の俺からすれば、まだ全然遊べる時間だが……女子であるマリアは別だ。
両親も心配するだろう。
「少しなら、いいぞ」
俺がそう答えると、彼女は嬉しそうに微笑む。
「じゃあ……思い出として。最後にあそこへ行きたいわ」
マリアが指をさした方向は……。
カナルシティの屋外にある1つの川だ。
何かと因縁がまとわりついている、博多川。
嫌な予感しか、ない。
だが断れば……それもそれで、後が怖い。
俺は渋々、その案を呑んだ。
※
例の如く、博多川の前に設置されているベンチに二人して腰かける。
もう説明する必要もないと思うが、川の反対側には、ズラーッとラブホテルが大量に並んでいる。
10年前よりも、ホテルは更に増えたような気がする。
河川の周りにはチラホラと、屋台が夜に備えて、料理の下準備を始め出していた。
俺たち以外のカップルは、なぜか暗がりで静かに笑っていた。
時折、顔と顔を近づけて接吻……とまではいかないが、互いの鼻を擦りつけ合う。
「ダ~メ、まだだってば」
「いいじゃん。どうせ、行くんだし」
「ヤダ。ちゃんと部屋に入ってからだよぉ」
「満室だから、ここで待機してんじゃん。もう良いじゃん」
「も~う」
クソがっ!
生々しいんじゃ、コラッ!
一刻も早く、ここから立ち去って空室を探して来い。
俺が辺りのリア充どもへ、殺意を込めて睨んでいると……。
普段、強気なマリアが、辺りの雰囲気に気圧されたのか、頬を赤くして俯いてしまう。
「大丈夫か、マリア? この川はカップルが御用達だからな。喫茶店にでも場所を変えるか」
「ううん……ここで良い。と言うよりも、この川の前じゃなきゃ、ダメなの」
「どういうことだ?」
「実はタクトに相談があって……聞いてくれるかしら?」
「おお……」
マリアは小さな胸の前で、両手を合わせて祈るように、空を眺める。
そして深い深呼吸をした後、俺に視線を合わせて、こう呟いた。
「タクトにしか頼めないことなの……。わ、私の胸を触って欲しいの」
俺は耳を疑う。
「え?」
「あなたの両手で、私の胸を触って……いや、しっかりと揉んで確かめて欲しいのよ」
「……」
頭が真っ白になってしまった。
一体、このヒロインはなにを言い出したのだろうか……と。
心臓の手術が終わったと思ったら、今度は頭の病気か?
「マ、マリア……。意味が分からない。どうして、俺がお前の胸を揉む……いや、触ることに繋がるんだ?」
「私ね……乳がんの疑いがあるのよ。だから、婚約者であるタクトに直接触ってもらって、“しこり”がないか、確かめて欲しいのよ」
彼女の目つきは至って、真剣だ。
ウソをついているようには見えない。
確かに、乳がんを医者よりも先に発見するのは、パートナーだと噂は聞くが……。
だからといって、何故俺が揉むんだ?
「いや……検査したら、どうだ? 普通に」
「絶対にイヤよ! 医者とは言え、他の男に乳房を見せて、触られるだなんて!」
「しかしだな……俺は素人だ。疑いがあるなら、尚更のこと、プロの医師に……」
と言いかけたところで、マリアが大きな声で叫ぶ。
「イヤッ! じゃあ……こうしましょ。医者へ見せる前に、タクトが触診してくれる? それなら、まだ納得できるわ」
「えぇ……」
言い方を変えただけで、俺が胸を揉むのは変わらないじゃん。
マジでどうしちゃったの? マリアちゃんたら……。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
クールな生徒会長のオンとオフが違いすぎるっ!?
ブレイブ
恋愛
政治家、資産家の子供だけが通える高校。上流高校がある。上流高校の一年生にして生徒会長。神童燐は普段は冷静に動き、正確な指示を出すが、家族と、恋人、新の前では
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる