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第四十一章 ヒロインは一人で良い
プリクラの加工に騙されちゃダメっすよ
しおりを挟むたらふく、ハンバーガーを食い終えたところで、ようやく映画館へと到着。
待ちに待ったタケちゃんの新作であり、初めての続編でもある映画。
『作家レイジ ビヨンド』
前作の『ヤクザレイジ』が大好評だったこともあってか、タケちゃん初のシリーズ化だ。
映画館の前に飾られているポスターを見て、俺も興奮してきた。
「おお! これが新作か! マリア、早く入ろう」
そう言って、隣りの彼女に目をやると……。
俺とは正反対の方向を見つめていた。
映画館のチケット売り場のすぐ後ろにある店だ。
ゲームセンターの一部であり、最新のプリクラ機が大量に設置されている。
以前、アンナと入った店だ。
まあ俺もあの時以来、来たことがないし、撮る必要性もない。
生まれて初めて撮ったプリクラだったが……。
もし、アンナが誘わなかったら、一生撮ることはなかっただろう。
「ねぇ。まだ上映まで時間あるのでしょ?」
碧い瞳を輝かせるマリア。
「ああ……。プリクラに、興味があるのか? なんかマリアらしくないな」
俺がそう言うと、彼女はムッと頬を膨らませて睨む。
「失礼ね。私だって女の子なのよ。それに言ったでしょ? 今回の取材のテーマ」
「え? テーマ?」
首を傾げて考えていると、マリアが俺の胸を人差し指で小突く。
「あなたのハートを奪い返す……つまり、記憶の改ざんよ♪」
「?」
※
チケット売り場で座席だけ、指定しておいたので、後で困ることはない。
安心して、プリクラを撮れる。
だが、俺はマリアの言う『記憶の改ざん』が理解できずにいた。
真剣な顔でプリクラ機を選ぶ彼女に、もう一度聞いてみる。
「なぁ。俺の記憶と、このプリクラに何の意味があるんだ?」
そう言うと、マリアは「ふふ」と微笑んで、トートバッグから一冊の小さな本を取り出した。
「答えは、この中にあるわ」
表紙を見れば、どこかで見たことあるライトノベル……。
『気になっていたあの子はヤンキーだが、デートするときはめっちゃタイプでグイグイくる!!!』
作者、DO・助兵衛。絵、トマト。
俺の作品じゃねーか!
「これって、この前発売した俺の作品じゃないか……」
「ええ。穴が開くほど読み返したわ。特に、初デートのくだりをね」
「ん? デート……はっ!?」
ここでようやく気がついた。
彼女が言う、初デートのことを……。
そうだ。俺とメインヒロインであるアンナが、初めて取材した場所は、このカナルシティだ。
二人で観た映画もタケちゃんの作品だったし、そのあとプリクラを撮影した。
つまり……アンナが取材した場所や出来事を再現。
いや、マリア自身によって、俺の記憶を上書きしたい、ということか。
マリアは下から俺をじっと見つめる。怪しく口角を上げて。
「どうやら理解できたようね。さ、タクト。ブリブリ女との差を見せてあげるわ」
「おお……」
※
なんて勝ち誇った顔をしていたマリアだが。
どうやら、彼女自身もプリクラを撮影するのは、生まれて初めてらしく。
どの機械が良いのか、さっぱり分からないようだ。
周りには若い女子高生やカップルで、ごった返している。
そのため、自然と長い列が出来てしまい、機械を選んでいるだけで、置いてけぼりになってしまう。
焦り出したマリアが怒りを露わにする。
「な、なによ! 高々、写真を撮影するのに、こんなに並んでバッカじゃない!」
良いながらも、かなり動揺しているようだ。
こういうところは、ぼっちの俺に似ているな。
仕方ないので、フォローに入る。
「マリア。俺もあまり詳しくないが、全身が撮れて、尚且つ加工の少ない機械が良いって聞いたぞ」
この話は、全てアンナから教わったものだが……。
「フ、フン! じゃあ、それにしましょ」
結局、半年前に撮影した同じプリクラ機で撮影することにした。
改ざんになっているのか?
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