332 / 490
第三十八章 新時代の幕開け
ヒロイン集結
しおりを挟む異様な熱気で辺りは、包まれていた。
俺の婚約者と名乗るハイスペック女子、冷泉 マリアの登場により、ミハイルは怒りを露わにする。
そして、なぜか二人の話を聞いていたひなたまで、マリアを鋭い目つきで睨む。
ひなたの視線に気がついたマリアは、何かを察したようで、「あら?」と口にする。
「ひょっとして……あなたもタクトの小説に登場するヒロイン? ここにいる彼より劣る胸部だったけど」
酷い! 男に劣るって表現。
ふと、隣りで立っていたひなたの横顔を覗き込むと。
歯を食いしばり、小さな両手は拳を作っていた。
うわっ、めっちゃ怒ってるよ。
「あなたね! いきなり人の胸を触っておいて……なんなのよ! それに、私も新宮センパイの小説に協力しているヒロインの一人だわ! 急に出てきて婚約者とか、詐欺じゃない? センパイの優しさにつけこんで、騙す気でしょ! 童貞だから!」
えぇ……なんか、最後ディスられた?
「さっきも言ったけど。私とタクトは10年来の仲よ。小学生の時に成功率が低い心臓の手術のため……タクトは約束してくれたの。結婚してくれるってね。だから、私こそが本当のヒロインなの。高々、半年ぐらいの付き合いでしょ? 想いのレベルが違うわ」
「ハァ!? 10年前って……子供の時でしょ? やっぱり、センパイの優しさにつけこんだストーカー女じゃない!」
と犯人はお前だ! みたいな感じで、ビシッとマリアに向けて指をさす。
だが、マリアは何を言われても、至って冷静だ。
「優しさにつけこんだですって? こう見えて、私とタクトって抜群の相性なのよ。あなたこそ、自分の趣味や性癖を彼に押し付けてない? 無理は良くないわよ。私ならタクトのために全てを合わせられるわ。彼が望むことは全て……」
そう言って、視線を俺に向ける。
「なっ!」
どんな性癖にでも付き合うわ……みたいな告白を堂々とされ、言葉を失うひなた。
こうして、ヒロイン達はコテンパンにされるのであった。
※
覚悟の違いを見せつけられて、黙り込むミハイルとひなた。
マリアは気が済んだようで、長い金色の髪をかきあげると、最後にこう言った。
「私、こう見えて諦めが悪い女なの。タクトを奪った泥棒猫に会って確かめたかったけど。この場にいないんじゃ、仕方ないわね。あなた、アンナっていう子のいとこなのでしょ? なら、伝えておいて」
そう言うと、ミハイルの小さな胸を人差し指で小突く。
彼は怯えた目で、マリアを見つめる。
「タクトを返してもらうわ、ってね」
「……」
エメラルドグリーンの瞳を潤わせ、脚をガタガタと震わせる。
こんなに怖がっている彼は、初めてだ。
「じゃ、タクト。またね」
「お、おう……」
思わず、反応してしまう。
ていうか、マリアのやつ。
俺の身にもなってよ……。
こんな修羅場にしておいて、残された俺はどうすればいいの?
静まり返る廊下に、始業のベルが鳴り響く。
昼休みが終わりを迎えたのだ。
しかし、ミハイルは俯いて黙り込んで、一向に動かない。
それは隣りにいるひなたも同様だ。
余りにも重たい空気で押しつぶされそうだったので、俺が先に話しかける。
「な、なぁ……マリアのことはその、あれだ。俺も忘れていたぐらい昔のことでな。彼女も小説のヒロインになりたいと頑張っているみたいだぞ」
自分で言っていて、変な話だなと実感した。
しかし、俺の放った言葉に二人はピクッと身体を動かせた。
「「ヒロインになりたい!?」」
あら、息がぴったり。
そして、怒りの矛先は俺へと向けられた。
まずはひなたからだ。
「センパイ! ちょっと、それ。あのマリアって子をヒロインにさせる気ですか!? これ以上、ヒロインはいらないでしょ!」
「う……まあ、それは……編集に聞いてからじゃないとな」
悪い、白金。
「そんなこと、作者であるセンパイが決めれば、いいんですよ! アンナちゃんは確かに、ブリブリして女から嫌われること間違いなしですけど……私はライバルとして、認めてます!」
気がつけば、涙をポロポロと流していた。
よっぱど、悔しかったのだろう。
「しかしだな……作品のクオリティを高めるために……」
「認めません! アンナちゃんなら許せます!」
ちょっと、さっき決めるのは、作者の俺だって言ったじゃん。
最後にミハイルだ。
と言っても、視線は俺に向けず。立ち去ったマリアの方を睨んで。
誰もいない廊下に向かって、静かに喋り始めた。
「オレ、あいつだけは許さない……絶対に」
小さなピンク色の唇を噛みしめて、怒りを抑えるのに精一杯のようだ。
いきなり現れたマリアを見て、何も出来なかったミハイルだったが……。
どうやら、反撃する覚悟が決まったようだ。
ていうか……この間。
ずっと、隣りに立っているひなたに右足を踏まれ続けて、痛いんですけど。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
僕は絶倫女子大生
五十音 順(いそおと じゅん)
恋愛
僕のコンプレックスは、男らしくないこと…見た目は勿論、声や名前まで男らしくありませんでした…。
大学生になり一人暮らしを始めた僕は、周りから勝手に女だと思われていました。
異性としてのバリアを失った僕に対して、女性たちは下着姿や裸を平気で見せてきました。
そんな僕は何故か女性にモテ始め、ハーレムのような生活をすることに…。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
お兄ちゃんは今日からいもうと!
沼米 さくら
ライト文芸
大倉京介、十八歳、高卒。女子小学生始めました。
親の再婚で新しくできた妹。けれど、彼女のせいで僕は、体はそのまま、他者から「女子小学生」と認識されるようになってしまった。
トイレに行けないからおもらししちゃったり、おむつをさせられたり、友達を作ったり。
身の回りで少しずつ不可思議な出来事が巻き起こっていくなか、僕は少女に染まっていく。
果たして男に戻る日はやってくるのだろうか。
強制女児女装万歳。
毎週木曜と日曜更新です。
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
なりゆきで、君の体を調教中
星野しずく
恋愛
教師を目指す真が、ひょんなことからメイド喫茶で働く現役女子高生の優菜の特異体質を治す羽目に。毎夜行われるマッサージに悶える優菜と、自分の理性と戦う真面目な真の葛藤の日々が続く。やがて二人の心境には、徐々に変化が訪れ…。
女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男
湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。
何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる