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第三十七章 男の娘を泣かせるな
お馬さん、パカッパカッ♪
しおりを挟む言ってしまった……。
マリアのパイ揉み事件に関しては、墓まで持って行くつもりだったのに。
ああ見えて、アンナは鋭いからな。
下手な嘘をつけば、きっといつかバレてしまう。
ならばと、本当のことを話したが……これから、一体どんなお叱りと暴力を食らうのだろうか。
「タッくん……誰?」
「え?」
「一体どの子を触ったの? ひなたちゃん? あすかちゃん?」
見たこともないぐらいの鋭い目つきで、俺を睨んでいる。
怒っているのはわかるが、その矛先は俺自身ではなく、相手のようだ。
「いや……アンナは知らない子だ」
絶対にマリアのことは隠しておかないと。
「アンナにも話してくれない……タッくんには大事な子だね……」
「そ、そういうわけじゃない! い、今は話せないだけだ。時が来たらちゃんと話すから!」
重たい空気が流れる。
しばらく、沈黙が続いてアンナはこう言った。
「タッくん……もしかして、触ったんじゃなくて。女の子に無理やり、触らせられたんじゃないの?」
「えっ!?」
見抜かれてしまったと、アホな声が出る。
「その反応。やっぱり……。タッくんって優しいから」
「あ、その……ちょっと色々と理由があってだな。決して故意に触ったわけじゃないぞ?」
俺がそう弁解すると、彼女は更に鋭い目つきで睨む。
「でも、触ったじゃん!」
見たこともない剣幕に、俺は思わず身を引く。
殴られる……そう思った。
恐怖から、瞼を閉じて歯を食いしばる。
しかし、何も起こらない。
微かに聞こえてきたのは、すすり泣く声。
ゆっくり瞼を開いてみると、そこには……。
「ひっく……ひぐっ……」
俯いて縮こまっている一人の少女いた。
俺に顔を見せまいと、両手で隠している。
だが、指と指の間からは、ポタポタと大きな涙がこぼれ落ちていた。
「あ、アンナ? 泣いているのか?」
心配になって声をかけると。
我慢していたようで、空に向かって泣き叫ぶ。
「うわああん! タッくんが汚されたぁああ! イヤッ! 絶っ対にイヤっ!」
ファッ!?
そんなに大声で泣かなくても……。
おかげで辺りにギャラリーが出来てしまう。
「なんだ、痴話ゲンカか?」
「女の子泣かすとか最低!」
「『汚された』ってぐらいだから。きっと妊娠させたんじゃね、あの男」
違うわ! こいつも男だから、妊娠できないの!
※
アンナは目を真っ赤にするまで、泣き続けた。
多分、1時間ぐらい。
俺はどうしていいかわからず、とにかく優しく話しかけていたが、泣き声でかき消され、彼女の悲しみを和らげることは出来なかった。
「……ひっぐ……タッくん、アンナのタッくんが」
なんて、1時間も人の名前を連呼している。
というか、あなたの俺じゃないからね。
「アンナ。何度も言うが故意に触ったわけじゃない。別に恋愛感情とか、やましい気持ちも一切ない。事故みないもんだ」
言いながら、一体どこでそんなラッキースケベがあるんだ? と首を傾げる。
「……でも、触ったことには変わらないよ」
「ま、まあ。そうだが……」
「どっちの手で触ったの?」
「え? み、右手だが」
俺がそう言うと、何を思ったのか彼女は右手を両手で掴み、自身の額にあてる。
まるで祈るかのように。
「この手が汚れたんだね」
なんか、マリアが汚物扱いだな。
「まあ、そうだな」
「タッくん、覚えてる? 初めてのデートの時のこと」
「え? もちろんだが……」
「ほら、映画館でアンナが知らないおじさんに痴漢された時。タッくんが『汚れたのなら、洗えばいい』って汚れた太ももを触ってくれたでしょ」
彼女の顔をよく見れば、涙は枯れ、どこか優しい顔つき。いや、甘えているようだ。
なんか色っぽく見える。
「ああ。そういえば、あったな。そんなこと」
「なら、タッくんの汚れた手も、キレイにしよ☆」
「は?」
「あ、アンナの胸を触って☆」
「えええ!?」
そんなこと言われたら、誰だって絶叫しますよ。
※
「無理、無理。それだけは絶対にダメだ、アンナ」
「どうして? 他の子を触ったんでしょ? なら汚い手をキレイしないと☆」
今の彼女は、きっと傷心から我を忘れているに違いない。
いわば、興奮状態なのだろう。
その境界線だけは越えてはいかん。
俺たちはあくまで、小説のために契約した関係なんだ。
マリアの時は、あっちがやってきたら、揉んじゃっただけだ。多分。
「アンナ。悪いができない」
「なんで!? 他の子は触れて、アンナは触れないの? 胸が小さいから?」
「そういうことじゃないだろ。俺とお前はあくまで、取材のために契約した関係だ。付き合ってないだろ。そんなことで、アンナの身体に軽々しく触れるなんて真似はできない」
「タッくんって……やっぱり、優しいね。だから無理やりされたんだよね……うう、うええん!」
また泣き出しちゃったよ。
病んでない、この子。
どうしたものか……。
俺は泣き叫ぶ彼女の隣りで一人考え込む。
ものすごくカオスな状況。
「うわあああん! タッくん! おっぱい!」
変な言葉を使って叫ばないで……。
「アンナ……」
俺の予想以上に傷つけてしまったことを悔やむ。
しかし、時を戻すこともできないしな。
「タッくん~! イヤぁ~ アンナのタッくんを返してぇ!」
そう叫ぶと、何を思ったのか俺の膝に飛び乗ってきた。
「え? アンナ?」
俺のことなんて、お構いなしで泣き続ける。
「タッくんの初めてを盗られたぁ!」
「いや、初めてじゃないだろ。アンナとは、ほら。プールで1回触ったことあるし……」
「あれは事故だも~ん!」
そうだった。アンナという女は初めてにこだわる性格だった。
墓穴を掘ってしまったよ。
しかし、今のこの状況。
周りから見れば、かなり誤解されるのでは?
というのも、気がついてないようだが、彼女はベンチに座っている俺に跨っている。
所謂、騎乗位というやつだな。
アンナは今フレアのミニスカートを履いている。
つまり、ジーパン越しとはいえ、お股とお股がペッテイング。
興奮している彼女は、泣き叫ぶから。振動でゴリゴリされるんだよね。
おまけに俺が逃げられないように、両肩を手で抑えている。
「アンナだけを見てぇ! タッくん!」
と、博多川の空に向かって叫ぶアンナ。
ていうか、俺はめっちゃ見ているよ、あなただけを。
だって、もうヤバいんだって。理性が。
目の前は、ラブホだし、狙ってやってないと思うけど、さっきからずっと騎乗位スタイルで、ゴリゴリされるし……。
マリアの時は、無反応だった俺のお馬さんが、元気に走り出したよ。
「タッくん~ 行かないでぇ!」
追い打ちをかけるように、自身の小さな胸を俺の顔に押し付ける。
「ふぼっ」
うむ、ほのかに甘い香りが漂う。
良い洗剤を使っているのかしら? いや香水か。
ちょっと待て。
パイ揉み事件より、酷くなってないか。
顔面に胸を押し付けられて、騎乗位スタイル……。
ヤバい! もう誰が男で女か分からなくなってきた。
このまま、この子を目の前のホテルに連れ込みたい!
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